「青い柚子胡椒」の作り方。作りたて3時間の格別な香りと味【神谷よしえさんの12カ月の手仕事 #3】

9月の手仕事:柚子胡椒作り

四季折々、さまざまな風景や風情が感じられる日本には、代々受け継がれる季節の手仕事があります。便利になって日常ではなかなか目にできなくなったものもありますが、こうした先人たちの知恵に今一度目を向けるのも、ひとつの季節の楽しみ方といえるでしょう。

この連載では、大分を拠点に全国の調味料や食材の魅力を発信しているフードアドバイザーの神谷よしえさんに、生活の知恵ともいえる手仕事を季節のレシピと共に教わります。

第3回のテーマは、「青い柚子胡椒」です。

柑橘の爽やかな風味が魅力的な柚子胡椒は、九州生まれの郷土調味料として一般家庭でも広く親しまれています。未完熟の柚子の果皮と水分をたっぷり含んだ青唐辛子に、塩をブレンドするだけのシンプルなものですが、「作りたての香りと風味は別格!」だと神谷さんはいいます。

「私の生まれ故郷である大分県宇佐市院内町は、柚子の名産地で毎年多くの実を実らせます。完熟した柚子は艶やかな黄色になりますが、美しい実を育てるには実が青いうちに間引きをする摘果作業が必須。それがちょうど9月頃におこなわれるんですよ。

その摘果した柚子を“捨てるには忍びない”という思いから生まれたのが、柚子胡椒です。作り立ての色鮮やかなで香り豊かな柚子胡椒は、なかなかお目にかかれない代物。でき立ての味を、ぜひ皆さんに知っていただきたいんです」

フレッシュな香り!青い柚子胡椒のレシピ

調理時間:30分
保存期間:冷凍で約6カ月(しっかりと密封した状態で)

「色鮮やかな緑色とほとばしるような爽やかな香り--これを堪能できるのは、わずか3時間以内だと思っています。作りたてのきれいな緑色は時間が経つにつれて色素が壊れ、しだいに深緑色に変化するからです。そう、皆さんが普段目にする柚子胡椒の色ですね。

ただ、色が変わっても味が悪くなっているということではありません。柚子胡椒は日が経つほどに味が馴染み、風味が増してきます。この刻々と変化する味わいを楽しめるのも柚子胡椒の魅力なんです。

柚子胡椒を美しい緑色のまま保ちたければ、作ったあとできるだけ早く冷凍保管するのがおすすめ。風味を重視したい場合は、冷蔵庫で保存します」

材料(作りやすい分量)

・青柚子……約5個
・青唐辛子……約5本
・塩……青柚子皮と青唐辛子の正味16~18%

「9月中旬ごろの柚子は弾力があって皮もやわらかく、爪を立てるとシュワッと香りが飛び散ります。購入するときは、触って多少の弾力を感じる直径が8~10cmくらいのものを選ぶとよいでしょう。

おいしい柚子胡椒作りには、自分好みの辛さの唐辛子を見つけることが大事。私のおすすめは、鷹の爪のように辛いものではなく、かじることができるくらいの唐辛子です。

唐辛子はじつにさまざまな品種があるので、下向きに実をつける唐辛子を探してください。あまり市場には出回わらないものですが、少し良質のスーパーに行くと購入できると思います。わからない場合は店員さんに、“下向きに実をつける唐辛子がほしい”と相談してみてください」

作り方

1. 柚子の皮をむく

青柚子の皮をよく洗い、水分をしっかり拭きます。皮を厚めにむいたら重さをはかり、塩が16~18%になるように計量します。

「旬の青柚子は、水分を含んで皮もやわらかくなっています。一般的には白い部分は苦いといわれますが、もぎたての新鮮な柚子は白い部分もおいしいので一緒にむいて使います」

2. 唐辛子を刻む

青唐辛子のヘタをとり、縦半分に切って種を取り除きます。軽く刻んだら、16~18%になるように塩を計量します。

「唐辛子も旬のものは、水分を含んでパンパンになっています。この時期は種がまだやわらかく辛みがないので、それほど躍起になって種を取り除く必要はありません。中の綿の部分に旨味と辛味と養分が含まれているので、硬い種は取り除きできるだけ使いたいところです。

9月の終わりごろになると種が小さくなって辛味が増してきます。辛くない時期に収穫された唐辛子を使うとよいですよ」

3. 1と2をそれぞれ塩と混ぜ合わせる

柚子の皮と塩、唐辛子と塩を、それぞれ分けてフードプロセッサーですり潰します。

「柚子と唐辛子の塩分を分けて調整するのは、ブレンドしたときに自分の好みの味に合わせることができるからです。

市販の柚子胡椒は、保存性を考慮して塩分を20%以上にしているものもありますが、自家製なら塩分濃度は16~18%くらいがちょうどいいと思います。

15%以下になると乾燥が進んだり、色落ちしたりして保存には不向きです」

4. すり鉢ですり合わせる

3で細かくした柚子の皮と唐辛子を、すり鉢ですり合わせながら混ぜます。お好みの辛さになるように味を調整しながら、ふたつを合わせます。

「すり鉢でするというひと手間をかけるだけで、仕上がりが全然違います。粉砕はフードプロセッサーで十分ですが、フードプロセッサー刃で切るので味に角が立つんです。すり鉢を使うことで香りが引き立ち、舌ざわりも滑らかになります。

また、すり鉢は大きいものがおすすめです」

青い柚子胡椒の楽しみ方

煮物や鍋の薬味として活躍するイメージの強い柚子胡椒ですが、フレッシュな青い柚子胡椒ならではの、おすすめの食し方があるとのこと。神谷さんの一押しを伺いました。

「やっぱりおにぎりですね!炊き立てのごはんをにぎったおにぎりにのせて、ぜひ食べてもらいたいです」

「ちょっと変わり種でおすすめなのは『巣ごもり卵かけごはん』です。炊き立てのごはんの上に、泡立てた白身を盛り付けてそこに黄身を落とし、柚子胡椒を添えるだけ。食欲がないときも思わずかき込んでしまうほど、お箸が進みます」

「また、乳製品と柚子胡椒の相性ってとってもいいんですよ!クリームチーズやチョコレート、バニラアイスなどのスイーツにトッピングして食べてもおいしいです」

手作りならではの香り高い柚子胡椒を楽しんで

今回ご紹介した青い柚子胡椒のレシピには、長きにわたってひたすらに柚子と向き合ってこられた神谷さんの熱い想いがたくさん詰まっています。しかし最近、大分の柚子が大ピンチに陥っているそうなんです。

「毎年おいしい柚子を育ててくださっている農家の方から、今年は鹿の被害がひどいと聞きました。鹿に柚子の木の皮を食べられてしまい、200本のうち170本近くが被害に遭っているそうです。

原因はまだはっきりとは分かっていませんが、何かしらの自然環境の変化が影響しているのではないかとのこと。大分のおいしい柚子を守るために、このほどクラウドファンディングを立ち上げました。柚子胡椒の作りに必要な材料がキットになって届くので、手軽に作ってみたいという方はぜひ一度のぞいてみてください」

一から自分で材料をそろえて作るもの楽しいですし、キットを使って手軽に旬の味に触れてみるのもいいかもしれません。おうち時間が増えている今だからこそ、自家製の色鮮やかな青い柚子胡椒で、新たな食の扉を開いてみませんか。

取材・文/鎌上織愛