赤楚衛二は“時代にハマった”「いま最も起用したい俳優」に登り詰めた納得の理由
現在放送中の『彼女はキレイだった』(カンテレ・フジテレビ系)が佳境に入っている。
24日放送の第7話で、初恋相手同士の長谷部宗介(中島健人)と佐藤愛(小芝風花)に、愛の先輩・樋口拓也(赤楚衛二)と親友・桐山梨沙(佐久間由衣)を絡めた四角関係が一気に進展。ついに宗介と愛が結ばれた一方で、拓也の切なさがピークに達し、それを演じた赤楚が称賛を集めた。
その赤楚は現在、業界内で“最も起用したい若手俳優”に挙げられる存在で、同作終了後の秋も連ドラ『SUPER RICH』(フジテレビ系)への出演も決定。こちらは主人公のベンチャー企業CEO・氷河衛(江口のりこ)に影響を与える貧乏な専門学生・春野優を演じるのだが、“主演・江口のりこの相手役ポジションを務める”という大抜てきだった。
さらに『世にも奇妙な物語 '21 秋の特別編』(フジテレビ系)に主演としての出演も発表済であり、爆発的な売れ方をしていることがわかるのではないか。
昨秋放送の深夜ドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京系、以下『チェリまほ』に略)で主演を務めたことがきっかけになったのは間違いないが、どんなところがどのように評価されているのか。この半年あまりで見聞きした業界評価をベースに掘り下げていく。
ドラマ出演の大半がゲスト扱いだった
赤楚は昨秋の『チェリまほ』で一躍ドラマ好きの間では有名な俳優になったが、それでも年をまたいだ今年序盤はゲスト出演ばかりだった。
1月13日に『連続ドラマW コールドケース3 〜真実の扉〜』(WOWOW)第6話、2月3日に『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』(日本テレビ系)第4話、2月8日に『監察医 朝顔』(フジテレビ系)第13話、3月22日に単発2時間ドラマ『ハクタカ 白鷹雨音の捜査ファイル』(テレビ東京系)に出演。意外なほど地味な出演に留まっていたのだ。
ただ実は、それ以前から赤楚のドラマ出演は大半がゲスト扱い。全国放送のドラマで主要キャストとしての出演は、『仮面ライダービルド』(テレビ朝日系)と『イノセンス 冤罪弁護士』(日本テレビ系)などわずかであり、『表参道高校合唱部!』(TBS系)、『AKBホラーナイト アドレナリンの夜』(テレ朝動画)、『東京女子図鑑』(Amazonプライム・ビデオ)、『野武士のグルメ』(Netflix)、『フランケンシュタインの恋』(日本テレビ系)、『科捜研の女 season19』(テレビ朝日系)、『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)、『探偵・由利麟太郎』(カンテレ・フジテレビ系)にゲスト出演を重ねてきた。
この事実は裏を返せば、「同世代や同じ特撮ヒーロー出身の俳優が活躍の場を広げる中、なかなか主要キャストになれない悔しさを感じながらも、貴重な学びを繰り返していた」ということ。ポッと出の新人が突然売れたわけではなく、所属事務所のゴリ押しでもなく、俳優・赤楚衛二となってからの6年間で力と評価を蓄えてきたことが今年の活躍につながっているのだ。
セリフはシンプルでも表情は雄弁
現在の赤楚が業界内で評価されているのは、主に丁寧な役作りと、繊細な感情表現の2点。
たとえば『彼女はキレイだった』第7話では、赤楚が演じる樋口拓也が想いを寄せる佐藤愛に「俺はジャクソン(愛)が幸せになってくれたら何でもいいんだけどさ」と優しく語りかけるシーンがあった。
さらに想いが届かないことを察すると、「俺、ジャクソン(愛)にとって最高の友達を目指す」と気丈に話し、愛の恋を健気に後押し。しかしその後、「やっぱ友達なんて無理だ。俺にもチャンスくれないか。俺たちなら絶対楽しい」と、ついに想いがあふれてしまった。
いずれもセリフはシンプルなものだが、演じる赤楚の表情は実に雄弁。視聴者に樋口が言葉にできなかった切なさを感じさせていた。このように赤楚はセリフの内容や量にかかわらず全身で感情表現することに長けていて、それは丁寧な役作りがベースとなっている。
序盤から「樋口が笑顔を見せるだけで切ない気持ちにさせられる」という声がネット上にあがっていたが、それこそが赤楚の魅力であり、実力と言ってもいいだろう。
赤楚はイケメンだけにもちろんビジュアルの人気もあるが、それ以上に「彼の演技や演じる役が好き」という人のほうが多い。演技や役が愛されるからこそ彼のファンはティーンから50代あたりまで年齢の幅が広く、しかも民放各局の重点ターゲット層を網羅している。
一方、赤楚と共演している中島健人のような若手アイドルたちは、どうしてもファン層が偏りがちでアンチが増えやすい。本人に実力があり、素晴らしい演技を見せたとしても正当な評価を受けづらく、気の毒なところがある。
実力と人気を併せ持つ事務所の先輩たち
赤楚は今年2月、中国最大のSNS『WEIBO(微博)』が影響力を持つ日本人を表彰する「WEIBO Account Festival in Tokyo 2020」で話題俳優賞を受賞。
『チェリまほ』はネット配信による海外のファンも多く、赤楚は世界各国から支持を受けている。このところ各局がビジネスとして重視しはじめている配信数も取れるのだから、今の赤楚にオファーしない手はないのだ。
赤楚の所属事務所は小栗旬を筆頭に、田中圭、綾野剛、間宮祥太朗、坂口健太郎らを擁するトライストーン・エンタテイメント。人気と実力を併せ持つ先輩俳優がそろう環境であり、相乗効果でオファーが増えやすい状況にある。
さらに昨年から民放各局でラブストーリーの需要が増し、王道の純愛モノから、笑いを誘うラブコメまで、そつなく演じられる赤楚にとっては、追い風が吹いていると言っていいだろう。「以前から高かった業界内での評価に、視聴者の支持が追いついた」という過程を踏まえると、朝ドラや大河ドラマへの出演も含め、まだまだ快進撃は続いていくはずだ。
木村隆志(コラムニスト、テレビ解説者)
ウェブを中心に月30本前後のコラムを提供し、年間約1億PVを記録するほか、『週刊フジテレビ批評』などの番組にも出演。各番組に情報提供を行うほか、取材歴2000人超の著名人専門インタビュアーでもある。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。