MFジョルジニオ・ワイナルドゥム(リバプール→)、DFアクラフ・ハキミ(インテル→)、DFセルヒオ・ラモスレアル・マドリード→)、GKジャンルイジ・ドンナルンマ(ミラン→)に続き、あのFWリオネル・メッシ(バルセロナ→)が電撃加入したことによって、いよいよ本格的に「新銀河系軍団」と化してきたパリ・サンジェルマン(PSG)。

 クラブがカタール資本になった2011年以降、これまで数々のビッグネームを獲得してきたが、今夏の移籍マーケットにおけるインパクトの大きさは、FWネイマール(バルセロナ→)とFWキリアン・エムバペ(モナコ→)のダブル獲りを実現させた2017年夏を遥かにしのぐものがある。


メッシとネイマールのふたりだけで年棒155億円...

 しかも、当時はネイマールの獲得だけで推定2億2200万ユーロ(約286億円)も投資しているだけに、ハキミの獲得に推定6000万ユーロ(約78億円)+ボーナス1100万ユーロ(約14億円)を投資した以外、ほかの4人をすべてフリー(移籍金なし)で手にした今夏は、これ以上は望めないほどの超効率的な大型補強が実現したと言っていい。

 ただその一方で、獲得費用はかからずとも、彼らに支払うサラリーは莫大な金額になるため、クラブ財政的には大きな負担になることは間違いないだろう。

 たとえば、1年延長オプション付きの2年契約を結んだメッシの推定年俸は、グロス(税込み)で6364万ユーロ(約82億円/スポーツ選手のサラリー調査専門サイト『CAPOLOGY』調べ。以下同様)。もちろん、チーム内トップの高額報酬だ。

 同じく、2年契約のセルヒオ・ラモスは推定2727万ユーロ(約35億円)、5年契約のドンナルンマが推定1818万ユーロ(約23億円)、3年契約のワイナルドゥムが推定1727万ユーロ(約22億円)、5年契約のハキミが推定1455万ユーロ(約19億円)といった具合。つまり、今夏に新加入した5人の年俸を合わせると、ざっと約1億4100万ユーロ(約183億円)の人件費がかさむことになる。

 そもそもPSGには、推定5636万ユーロ(約73億円)を受け取るネイマールや、推定年俸3209万ユーロ(約41億円)のエムバペのほか、DFプレスネル・キンペンベ、DFマルキーニョス、MFマルコ・ヴェラッティ、FWアンヘル・ディ・マリア、GKケイラー・ナバスといった推定年俸1000万ユーロ(約13億円)超えのワールドクラスが多数存在する。

 その結果、現段階における登録選手の年俸総額は、推定約3億8342万ユーロ(約498億円)という、ヨーロッパナンバーワンのとてつもない金額に膨れ上がっているのだ。

 この数字がいかに突出しているかは、ほかのビッグクラブと比較するとよくわかる。

 高額な人件費がネックとなってメッシを放出せざるを得なかったバルセロナでも、現時点で推定総額約2億7311万ユーロ(約355億円)。イングランドのプレミア勢では、マンチェスター・ユナイテッドが約2億864万ユーロ(約271億円)、チェルシーが約1億8733万ユーロ(約243億円)、マンチェスター・シティが約1億2443万ユーロ(約161億円)、リバプールが約1億2400万ユーロ(約161億円)と、意外と人件費は抑えられている。

 一方、PSGに次ぐ高額な選手人件費を負担するのがレアル・マドリードで、ガレス・ベイル、エデン・アザールを筆頭に1000万ユーロを超える高額年俸選手を16人も抱えているため、推定総額は約3億4220万ユーロ(約444億円)になっている。

 いずれにしても、ひと夏で一気に人件費が急増することになったPSGにとって問題になるのは、彼らが1年間で稼ぎ出す総収入に対する選手人件費が占める割合だ。

 監査法人デロイト社が毎年発表する最新のクラブ別収入統計によれば、PSGの2019−2020シーズンの総収入は約5億4060万ユーロ(約702億円)。これに対し、世界トップの収入を誇るバルセロナは約7億1510万ユーロ(約929億円)で、2位レアル・マドリードが約6億9180万ユーロ(約899億円)だった。

 そのシーズン、バルセロナの選手人件費総額は約3億3835万ユーロ(約439億円)で収入の約47%を占め、レアル・マドリードの選手人件費約3億6307万ユーロ(約471億円)は収入の約53%に相当。一方、7位のPSGは選手総人件費約2億3471万ユーロ(約305億円)で、収入に対する割合は43%だった。

 つまり、2019−2020シーズンの43%を基準にして考えた場合、選手の人件費に約3億8342万ユーロ(約498億円)をかける今シーズンのPSGは、総収入を2シーズン前の1.6倍に近い約1140億円まで急上昇させなければいけないことになる。さすがにこれは、非現実的と言っていいだろう。

 少なくとも今シーズンのPSGは、フランスのプロクラブの財務状況を監視する全国経営監査委員会(DNCG)から250〜300万ユーロ(約3億2000万円〜3億9000万円)の損失を見込まれるなど、財政的に厳しい状況にある。PSGのフロントは今夏のマーケットにおける選手売却費として約1億8000万ユーロ(約234億円)の収入を見込んでいるが、これまで実現したのはレバークーゼンにDFミッチェル・バッカーを売却して手にした700万ユーロ(約9億円)のみという、目標額には程遠い状況なのだ。

 現在、レオナルドSD(スポーツディレクター)は放出リストにある高額報酬選手の売却に躍起になっているが、リヨンへの移籍交渉が行なわれているDFレイヴァン・クルザワにしても、推定540万ユーロ(約7億円)という年俸がネックとなって、移籍は合意に至っていない。

 また、第3GKに降格したセルヒオ・リコやブンデスリーガ復帰がささやかれるティロ・ケーラーも、移籍交渉が実現するかどうかは移籍金のみならず、現在PSGが支払っている年俸を移籍先クラブがどこまでカバーできるかがポイントになる。当然、年俸が大幅ダウンするなら高額報酬をもらえて居心地もいいPSGにとどまったほうがいい、と考える選手もいるはずだ。

 たしかに現在は、コロナ禍の影響により、UEFAのファイナンシャルフェアプレーが緩和されているため、ただちにPSGが大きなペナルティを与えられるようなことはない。DNCGも経営破綻するかどうかを基準に監査しているため、今シーズンのPSGが降格処分に遭うようなことも考えられない。

 しかし、たとえメッシの加入で大幅に売り上げを伸ばすことができても、あるいはカタール本国からの財政支援が織り込み済みだとしても、現在の選手人件費はあまりにも高額すぎる。これを放置したままシーズンを過ごせば、いずれメッシを手放さなければならなくなったバルセロナと同じような運命を辿る可能性も否定できないだろう。

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 果たして、コストの大幅削減と選手の売却をどこまで実現できるのか。銀河系化によってファンに夢を与えてくれたPSGが「持続可能性」の追求に舵を切らなければいけなくなる日は、それほど遠くないかもしれない。