副反応で服用するおすすめ鎮痛剤は? 薬剤師が “自分で飲む”「市販薬ランキング」
家事に仕事に、ただでさえ忙しい毎日のうえ、コロナ第5波まで襲来! 軽い不調なら病院へ行かず、薬局で買ってすませることが増えてきた。そもそも症状に合った薬を選ぶには、何を見て、どこで判断すればいいの?「薬のプロ」50人に、普段飲んでいる市販薬を明かしてもらった。
成分が多いと、気をつけるべき副作用も増える
長引くコロナ禍で、具合が悪くなっても、軽い症状なら市販薬ですませるという人は多いだろう。ただ、薬局には同じような効果を謳う薬が複数並んでいて、違いがわかりにくい。一体、パッケージのどこを見て、何を基準に選べばいいの?
そこで本誌は“薬のプロ”である薬剤師50人にアンケートを実施(※)。普段、買って飲んでいる市販薬とその理由を種類別に聞いた。
「アンケート結果を見ると、全体を通して、配合成分が病院で処方される薬に近いか、安全性に配慮された市販薬を選ぶ人が多い。薬剤師らしい回答といえると思います」
そう話すのは、著書『その病気、市販薬で治せます』(新潮新書)が話題の薬剤師・久里建人さん。実は、病院で出される処方薬に比べ、市販薬にはいろいろな成分が含まれたものが多い。素人考えでは、多くの成分が入っていたほうがよさそうに思えるが、「成分が多いと、それだけ気をつけるべき副作用も増えることになります」と、指摘する。
久里さんの解説をもとに、薬剤師が選ぶ市販薬のポイントについて、さらに詳しく見ていこう。
※日ごろから市販薬を服用・使用している薬剤師を対象に調査、回答は複数選択可
【鎮痛薬】
頭痛や生理痛、歯痛などで素早く痛みを抑えたいとき、薬剤師は何を飲んでいる?
回答数9と最多だったのは『ロキソニンS』。
「医療用医薬品と同一のため信頼できる」(50代・男性)
「単剤でリーズナブルなので」(20代・男性)
「“ロキソプロフェン”単味製剤であり、使いやすい」(50代・女性)
などのコメントが並んだ。
この結果に久里さんは、「病院の処方薬にも『ロキソニン』がありますので、実績もあり使いやすいといった理由からでしょうね」と分析する。
『ロキソニンS』と回答した人の中には、ひとつの成分から作られた「単剤」であることを重視する声が多い。ロキソニンには胃にやさしい成分が配合された『ロキソニンSプラス』や、メーカー側が“最も有効成分が多い最高処方”と謳う『ロキソニンSプレミアム』などの種類がある。そうした中でも、最もオーソドックスなタイプが人気を集めた形だ。
「『プラス』には胃酸を中和する成分が含まれていますが、短期的に飲むであろう薬に、はたして本当に必要なのか? という考え方もあるからでしょう。また、『プレミアム』に入っている鎮静成分、“アリルイソプロピルアセチル尿素”には眠気を起こしやすい副作用が。まれに、皮膚に薬疹(水疱など)が出る成分でもあります」(久里さん、以下同)
薬には多かれ少なかれ副作用があるもの。効果とリスクの両方を知ったうえで選んだほうがいいだろう。
副反応対策としての“鎮痛薬”
次点は回答数4で、同じく単剤の『タイレノールA』。
「子どもも服用できるため」(50代・女性)
「胃が弱いので愛用している。眠くならない」(40代・女性)
こうした理由から支持が集まった。
「『タイレノールA』は“アセトアミノフェン”で作られた薬で、処方薬の『カロナール』と同じ成分。胃に負担がかからず、妊婦や子どもでも飲むことができます。反面、『ロキソニン』に比べると効果はマイルドです」
ちなみに、新型コロナワクチンの接種が進む中、副反応対策として鎮痛薬の売り上げが前年より5割増え、なかには品薄になっているものもある。ワクチン接種後には、どんな鎮痛薬を選ぶべき?
「副反応で熱が出ているときに、商品を見比べて選ぶのはつらいでしょう。私は日ごろから飲み慣れているものを選ぶのがいいと思います」
これから接種する人は、ワクチンの前に常備薬を購入して、備えるべし!
●「鎮痛薬」回答数トップ3
1位 ロキソニンS 9票
2位 タイレノールA 4票
3位 イブクイック 2票
3位 ケロリン 2票
【胃腸薬】
飲みすぎや食べすぎ、胃痛などの不調時に最も多く選ばれていたのは、『太田胃散』。
「飲みやすい」(50代・男性)
「味がクセになるので」(40代・男性)
効能よりも飲みやすさや風味についてのコメントが目立った。これに久里さんは、
「生薬が入っているので、その香りも効果のうちという考え方でしょうね」
太田胃散の公式サイトでは、“粉を口に含み、次に少量の水を含んで舌で2〜3回かき混ぜてから飲み込む”服薬法が紹介されている。
「そうすることで味と香りが直接のどと食道を通り、より効果を発揮するのだとか」
次点の『ガスター10』には胃酸の過剰分泌をもとから抑える成分“H2ブロッカー”を配合。また回答数3位の『第一三共胃腸薬』には消化を助ける酵素が含まれている。ストレスなどで胃酸過多のときは前者、食べすぎで胃もたれのときは後者、と使い分けるのがよさそうだ。
病院用の薬が市販化するケースも
少数意見が多く寄せられるなかで、久里さんが注目したのは「『新セルベール整胃プレミアム』。“テプレノン”(という成分)が医療用と同量含まれるため」(20代・女性)という回答。
「“テプレノン”は病院の薬にも使われている有名な成分で、胃の粘膜を保護する働きがあります。そうした信頼性の高さから挙げられたのでしょう。この成分が配合されている市販薬は以前からありましたが、昨年発売された『新セルベール整胃プレミアム』には、病院用と同じ量が使われています」
かつては医師の処方箋がなければ入手できなかった薬が最近、ドラッグストアや薬局でも購入できるようになってきた。前述した『ガスター10』や『ロキソニン』も、病院用の薬が市販化されたものだ。
「こうした動きを“スイッチOTC化”と言います。軽度の症状であれば市販薬で治すという動きは今後、加速していくでしょう。消費者にとっても、受診しなくても薬が手に入るなど利点があります」
●「胃腸薬」回答数トップ3
1位 太田胃散 8票
2位 ガスター10 5票
3位 第一三共胃腸薬 2票
【風邪薬】
風邪薬の中で最も多かったのは、なんと「飲まない」という回答! そもそも風邪はウイルス感染でかかることが多く、基本的に特効薬が存在しない。市販の風邪薬は、症状を抑えたり、やわらげたりする対症療法が目的だ。
「そのため無理して飲む必要はない、と判断する薬剤師が多かったのだと思います。特に、総合感冒薬にはさまざまな成分が含まれていて、例えば、鼻水を抑える成分の“抗ヒスタミン剤”は眠気を引き起こすことが多い。これらの理由から服用を避ける人もいるでしょう」
と、久里さん。回答の中にもそうした声が多い。
「症状に適さない余分な成分が含まれていることが多いので、買うことはありません」(20代・女性)
「中枢神経に作用するさまざまな成分が含まれているものがほとんど。治療効果も、出ている症状を抑えるだけで、期待が少ないと思うからです」(40代・男性)
次点が、漢方薬としてなじみのある『葛根湯』。
「ひき始めに服用すると悪化しないので」(30代・女性)
「自分で服用するうえで効果や副作用がわかりやすい」(40代・女性)
風邪の症状によって、服用する薬を使い分けている人も目につく。
「『龍角散せき止め錠』は、せき止め成分のコデインが多く含まれていて、(痰を排出しやすくする)去痰作用もあるので、せきがメインの風邪にはこれ」(30代・女性)
「『ペラックT錠』は、のどが痛いときに服用している」(20代・女性)
「咽頭痛(のどの痛み)からくる風邪が多いので、『ルルアタックEX』」(20代・男性)
『ペラックT錠』と『ルルアタックEX』は、炎症を抑える効果のある“トラネキサム酸”を配合。
「病院でも『トランサミン』という名称で処方されています」(久里さん)
●「風邪薬」回答数トップ3
1位 飲まない 10票
2位 葛根湯 8票
3位 パブロンゴールド 4票
ステロイドは怖くない
【湿布薬・かゆみ止め】
肩や腰、関節や筋肉痛などへの対処として、最多の回答数を集めたのは『ロキソニンSテープ』。
「医療用としてもなじみがあり、処方量も多い」(30代・女性)
「医療用と同量の成分で、添加物も変わらないので」(50代・男性)
鎮痛剤と同様に、湿布薬としても『ロキソニン』が支持を得た。
「『ロキソニン』は光線過敏症のリスクが少ないとされています。安全性への信頼感があるのではないでしょうか」
光線過敏症は日光アレルギーとも呼ばれ、紫外線に当たることで炎症を起こし、赤みや腫れ、かゆみなどの症状が現れる病気だ。その原因はさまざまだが、塗り薬や湿布薬を使った部分に日光が当たって、かぶれを起こすケースも珍しくないという。
一方、この季節に出番が多いかゆみ止めは、回答が見事に分かれる結果に。
「『ムヒアルファ』シリーズ。市販薬にはメントールが入っていて、使用感が好きなので」(50代・女性)
「『ムヒアルファEX』は、“ステロイド”が入っているので効き目あり」(50代・男性)
「『ウナコーワ』シリーズは爽快感があって症状が早く引くように思う」(50代・女性)
成分はもちろん、使い心地も重視する傾向が。
「“ステロイド”が配合されているものを選んでいる方が多いですね。かゆみに素早く効く成分なので、満足度が高いのだと思います」
しかし、ステロイドに怖いイメージを抱いたり、副作用を不安に思ったりする人は少なくない。久里さんのもとにも、よく相談があるそうだ。
「短期的に塗り薬として使うぶんには問題ありません。むしろ、かきこわして患部が化膿したり広がったりしてしまうほうが怖いので、安心して使っていただきたいですね」
●「湿布薬・かゆみ止め」回答数トップ3
1位 ロキソニンSテープ 7票
2位 ムヒアルファEX 6票
3位 キンカン 3票
3位 サロンパス 3票
自分の体質に合った薬を選ぶべし
【漢方薬・サプリメント】
漢方・サプリメントでは、風邪薬で最多の回答数となった『葛根湯』が再びトップに。
「肩こりや頭痛にも効く」(50代・女性)
「身体を温める効果もあるので」(30代・女性)
次点も、同じく漢方薬の『麻黄湯』。発汗作用があり、こちらも風邪のひき始めに飲まれることが多い。
「薬局などで手に入りやすいものが選ばれているのでは? 漢方薬は、使う人の症状や体質に合わせて服用するのが基本。そのためアンケート結果からも“私はこれ”といったこだわりが見られますね」
と、久里先生。とはいえ素人目には違いがわかりにくく、判断が難しい。漢方薬を選ぶ際のポイントは?
「いちばん簡単な方法は、パッケージにある体力の説明を読むこと。“中等度以上”とか、“中等度以下”とか、どんな体質の人に向いた薬なのか書いてあるので、そちらをチェックしましょう」
この部門に限って、更年期障害や生理前のイライラや肌荒れなど、女性特有の症状にアプローチしたものを挙げる人が目立つ。
「更年期なので、『加味逍遙散』を飲んでいる」(40代・女性)
「『エクエル』を飲んでイライラ感がなくなったように思う」(40代・女性)
『加味逍遙散』は更年期障害や月経前症候群(PMS)などによく使われる漢方薬。『エクエル』は、女性ホルモンのエストロゲンとよく似た働きをする成分「エクオール」が含まれたサプリメントで、更年期障害や、閉経後に増える骨粗鬆症の予防効果が期待されている。
「サプリメントは品質の見極めが難しい。メーカーの信頼性や手に入りやすさ、価格など、総合的に判断して適切に選ぶのがいいと思います」
●「漢方薬・サプリ」回答数トップ3
1位 葛根湯 8票
2位 麻黄湯 4票
3位 ルテイン 3票
かかりつけ薬剤師へ気軽に相談を!
前述のとおり近年、処方薬だったものが市販薬として購入可能になる「スイッチOTC化」が活発化している。自分で薬を選ぶ機会は今後、ますます増えていきそうだ。
「病院で処方された薬を飲むのが普通だった時代から、自分の健康について主体的に取り組む時代に変わりつつあります」(久里さん、以下同)
そうした中で気をつけなければならないこともある。
「市販薬も使い方を誤れば症状が悪化しますし、副作用が生じるおそれもあります。例えば、頭痛で鎮痛薬を服用していたのに、飲みすぎると反対に『薬物乱用頭痛』と呼ばれる慢性的な頭痛を引き起こすこともまれにあるんです」
適切に薬を選び、健康を守るためにカギとなるのは、「かかりつけ医」ならぬ「かかりつけ薬剤師」の存在。
「薬局はもちろん、ドラッグストアには薬剤師が常駐している店もありますし、薬剤師が不在でも、医薬品を販売できる資格を持った登録販売者が必ずいます。なんでも相談できる人を見つけておくのがおすすめです。選び方や飲み方、服用中の薬との飲み合わせなど疑問点や不安があれば、気軽に相談してほしいですね」
〈取材・文/高橋ももこ〉