おうち冷やし中華をワンランクアップ!発祥店に聞いた、おいしく作るコツと誕生秘話【愛されグルメのふるさと #9】

冷やし中華の発祥店「揚子江菜館」に聞いた、レシピと誕生秘話

夏になると食べたくなる、冷やし中華。その発祥と言われているのが、東京 神保町にある「揚子江菜館(ようすこうさいかん)」の「五色涼拌麺(ごしょくりゃんばんめん)」という料理です。

本記事では、そんな「五色涼拌麺」が生まれた背景や日本で広まった理由、さらにお店のレシピや、家庭でおいしく作るコツまでを教えてもらいました。おうちで作る冷やし中華を、ワンランクアップさせたい人は必見です!

富士山をイメージして作られた!? 元祖冷やし中華の「五色涼拌麺」

揚子江菜館の創業は1906年。2021年で115周年を迎える老舗です。

創業当時、中国の洋務運動(※)の一環として、多くの中国人が日本に派遣されました。揚子江菜館の初代店主もそのひとりで、ここ神保町に中華料理店をオープンしたのが始まりでした。

※洋務運動:日本の明治維新と同じ頃、海外の技術や文化を取り入れていくために中国(清)でおこなわれていた近代化運動

こちらが、冷やし中華の元祖といえる「五色涼拌麺」(税込1,540円)。具だくさんで彩り豊か、豪華な見た目が食欲をそそります。

つるっとした麺の、のど越しの良さが秀逸!素材にこだわっているという具材ひとつひとつが、存在感を放っています。

味の決め手は、琥珀色に輝く甘酢。みたらし団子のタレのような深い甘みが感じられ、酸味はとてもマイルド。この甘酢が、麺と具材すべてに絡んで一体感を作り上げています。

甘酢のバランス、麺の食感やのど越し、具材の充実感……家庭で食べるものとは別格のクオリティです。

ちなみに、高く盛り付けられた姿は、富士山をイメージして作られたもの。全10種類の具材は、四季折々の自然を表しています。

チャーシューは春先大地の色、きゅうりは初夏の緑、煮込んだタケノコは秋の落ち葉、糸寒天は白い雪、錦糸卵は富士山にかかる雲をイメージ。

さらに栄養バランスと全体の彩りを考えて、えび、絹さや、シイタケ、肉団子、うずらの卵も加わっています。

四代目店主に聞いた「五色涼拌麺」の作り方

「具材は10種類。シンプルな料理なので、素材にはとことんこだわっています。また甘酢も、200回以上配合を繰り返して、今の味に至っています」

「まずはたっぷりのお湯で、麺をゆで上げます。使うのは、細いストレート卵麺です。

ゆで上がったら水で締め、しっかりと水切りをします。水を絞り出すよう、麺をザルに押し付けて水を切るのがポイントです」

「麺を皿に盛り、山の形をイメージして高さを出しながら、具材を盛り付けていきます。

タレをかけたら、錦糸卵を上にのせて完成です」

冷やし中華がもっとおいしくなる、5つのポイント!

お店の味とは言わないまでも、いつもの冷やし中華をもっとおいしく食べたい……そんなときに使えるコツを、沈さんが教えてくれました。

1. 麺はたまごのストレート麺を使い、しっかり水切りする

「麺は、ちぢれではなくストレート麺で。少し硬めにゆでて、きっちり水切りしましょう。そうすることで、しっかりタレが絡むんです。できれば、上から押し付けて水切りしても、切れたり潰れたりしない麺を使うことです」

2. 具材は新鮮なものを選ぶ

「冷やし中華は、食材を生のまま使うなど、具材そのものの味を活かした料理です。ですから、できるだけ新鮮で質のいいものを使ったほうがおいしくなります」

3. 具材は、水分がたっぷりあるものを

「冷やし中華の定番具材は、ハム、きゅうり、錦糸卵ですが、基本的にはお好みでいいと思います。ポイントは、具材のひとつには、キュウリのように水分がたっぷりあるものを使うこと。ない場合は、レタスの細切りでもおいしいですよ」

4. 市販のタレに、酢と砂糖を少し加える

「市販の冷やし中華セットを購入した場合は、付属のタレに、酢と砂糖をちょっと加えてみてください。まろやかさがプラスされ、お店の味に近づきますよ。甘さや酸味の具合を調整して、自分好みの味を探すのもおすすめです」

5. 素麺を使った、アレンジ冷やし中華もおすすめ

「これはアレンジレシピですが、中華麺のかわりに素麺を使ってもおいしいんですよ。少し硬めにゆでて、しっかり水を切れば、中華麺よりもつるつるとした食感が楽しめます」

もともとはまかない料理だった!? 知られざる誕生秘話

ーー冷やし中華の元となった「五色涼拌麺」は、どのように生まれたのですか?

沈さん(以下、沈)もともと中華料理に、ピーマン、もやし、肉の細切りを麺にのせてごまダレを掛けたものがあり、初代がまかないとして作っていました。

これをヒントに、日本生まれ日本育ちの二代目が、「日本の夏の定番である、ざるそばに替わる中華麺のメニューがあってもいいのでは?」と、さっぱりした甘酢に置き換えて提供しようと考えたのが始まりでした。

ーー具材もたっぷりで盛り付けも豪華ですよね。なぜこの具材を使うようになったのでしょう?

沈 二代目が「さるそばと同じでは面白くない」と、当時お店からよく見えた富士山に見立てて盛り付けたんです。ただ、これがとても大変で……。

具材の選定から甘酢の配合まで細かく試行錯誤しました。メニュー化するまでには、それから2年ほどかかり、1933年頃に完成しました。

ーーお店では、「五色涼拌麺(ごしょくりゃんばんめん)」という名称ですが、なぜ「冷やし中華」と呼ばれるようになったのですか?

沈 中国では、すべてが完全であるさまを「十全十美」と言うので、具材は10種類に。ですが、日本で具材がいろいろ入っているものの呼び方「五目(ごもく)」に合わせて、「五」という数字を使いました。

さらに、混ぜれば「涼」を感じられるという意味を込めて、涼しく混ぜる麺として「五色涼拌麺」にしたんです。

そんななか、1950年頃からなぜか自然に「冷やし中華」と呼ばれるようになりました。おそらく、日本にはすでに冷やし蕎麦があったので、その差別化も兼ねて呼ばれるようになったのだと思います。

ーーちなみに、中国に「冷やし中華」はあるのですか?

沈 中国には、いまだに冷やし中華はありません。完全に日本の中華なんです。そのため中国の方も、うちに食べに来るんですよ。

冷やし中華は、日本だからこそ生まれたひと皿

「元祖の料理として、冷やし中華は特別なメニューです。夏だけというお店が多いですが、当店では一年中出しています。

それは、この味を求める多くのお客様からリクエストをいただいたからこそ。これからも、お客様に喜んでいただける料理を届けていきたいですね」と沈さん。

二代目店主のふとした疑問がきっかけで生まれ、いまや夏の定番料理にまでなった冷やし中華。そう思うと、単なる夏の風物詩としてだけでなく、日本の食文化を代表する一品として、じっくり味わいたくなりますね。

猛暑が続く夏、今夜は食欲もアップする冷やし中華で、しっかり英気を養っていきましょう。

撮影・文/島田みゆ

店舗情報

店舗名:揚子江菜館(ようすこうさいかん)
電話番号:03-3291-0218
最寄駅:東京メトロ線半蔵門線、都営三田線・新宿線「「神保町駅」A7出口より、徒歩2分
郵便番号:101-0051
住所:東京都千代田区神田神保町1-11-3
市区町村:千代田区
町域:神田神保町1-11-3
営業時間:11:30~22:00(L.O.21:30)
定休日:年末年始

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