北村匠海

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 北村匠海(23)が映画界、ドラマ界で引っ張りダコだ。主演したSFヤンキー映画『東京リベンジャーズ』は大ヒット中。7月9日の公開日からの観客動員数は200万人を突破した。これは本年度の邦画の実写作品では最速記録で、興収は27・6億円を超えた。

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 共演は吉沢亮(27)や山田裕貴(30)ら。北村は錚々たる面々の中で座長を務めている。だが、本人の言葉に気負いは感じられない。

「亮君や裕貴君をはじめとした共演のみんなに絶大な信頼を置いて、肩も預けながら自由に芝居をしていました」(『日経エンタテインメント』2021年7月号)

“弱さ”も包み隠さない

 北村の言葉はいつも自然体で芸能人臭がない。あるインタビューではこう語っている。

「(仕事を)やめようと思ったことは何度もあります。スカウトされて、よく分からぬままオーディションで何百回も落ち続けて。『目が死んでる』と言われ、心折れたこともあります」(『Precious』2021年8月号)

 夢を売る芸能人は自分の弱さを見せたがらないが、北村は挫折や失意を隠さない。これも言葉に芸能人臭を感じない理由の1つだ。

 来年は映画『とんび』が公開される。父子愛を描いた同名ベストセラー小説が原作で阿部寛(57)と共演する。話題作になりそうだ。

 それにとどまらない。やはり来年、東京を生きる若者たちの2010年代をリアルに描く映画『明け方の若者たち』にも主演する。これも同名ヒット小説が原作である。

 ドラマの仕事もある。東京オリンピック閉会に伴い、出演作のフジテレビ『ナイト・ドクター』(月曜午後9時)が8月9日から再開される。

 北村の役柄は心臓移植を受けた過去のある夜間専門の若手救急医・桜庭瞬。目の前にいる人の命を救いたい一心で救命医になったピュアな男である。北村の持ち味が発揮される役柄だ。

 なぜ、ピュアな役柄が似合うかというと、おそらく北村自身が真面目だからだろう。

 何百回もオーディションに落ちながら、それでも役者を辞めなかったのは「負けの悔しさが忘れられなかったから」(『Precious』2021年8月号)なのだそうだ。居心地の悪い場所から逃げようとしなかった。

異例の“中ドメ”扱い

 『東京リベンジャーズ』で演じたタケミチはヤンキーだが、やはりピュア。友情を重んじる。だから北村にはハマり役だった。映画が大ヒットしたのもヤンキーたちの友情が大きなテーマになっているからだろう。ヤンキーがケンカに明け暮れるだけの血なまぐさい映画ではウケなかったはずだ。

 『ナイト・ドクター』の場合、主演は波瑠(30)で北村は助演陣の1人に過ぎない。だが、別格扱いされている。それはドラマ終了間際に出る出演者紹介のテロップで分かる。

 テロップで最初に紹介されるのは言うまでもなく主演で若手救命医役の波瑠(30)である。最初に1人で紹介される。この扱いをドラマ業界内では「アタマ」と呼ぶ。

 次に表示されるのは準主演級で中堅救命医役の田中圭(37)。表示はやはり1人。この扱いは「2番手」と呼ばれる。

 それ以降、若手救命医役の岸優太(25)と同・岡崎紗絵(25)らの紹介は2〜3人一緒。だが、北村で再び1人になる。北村は「中ドメ」と呼ばれる扱いなのだ。20代前半の役者が中ドメになるのはかなり異例だ。

 もっとも、それも不思議ではない。映画で立て続けに主演している上、演技の評価も高いからだ。2017年の主演映画『君の膵臓をたべたい』で日本アカデミー賞の新人俳優賞などを受賞した。 

 キャリアも長い。芸能界入りから15年にもなる。2006年、小学3年生のときにスカウトされ、2年間レッスンを積んだあと、2008年にフジテレビ『太陽と海の教室』と映画『DIVE!!』でデビューした。

 なぜ、こんなに売れたのか? 転機となった作品は長谷川博己(44)が主演した2011年の学園ドラマ『鈴木先生』(テレビ東京)である。

 長谷川の教え子の中学生に扮した。ほかにも土屋太鳳(26)や松岡茉優(26)らが同級生役で出演した。同級生役の役者たちの存在が刺激となった。

「初めて芝居に対する意識が変わったのを覚えています」(『日経エンタテインメント』2017年2月号)

 昭和期には「子役出身者は大成しない」というのが芸能界の常識だったが、今は違う。神木隆之介(28)、戸田恵梨香(32)ら子役出身の成功者は数え切れないほどいる。その背景には子役全体がレベルアップし、切磋琢磨していることがあるだろう。

 中でも好影響をもたらすのが、同年代がそろう学園ドラマであるようだ。北村は2016年にも不良グループが高校の吹奏楽部に入って全国コンクール優勝を目指す『仰げば尊し』(TBS)に出演している。この時は新田真剣佑(24)、村上虹郎(24)、仲野太賀(28)と共演した。北村は3人と友人になった。同時にやはり刺激を受けたはずだ。

 もう1つ。4人組ダンスロックバンド「DISH//」のギター兼ボーカルを務めてることで視野が広がり、結果的に役者の仕事にもプラスになっているのではないか。

 グループは2011年、同じ事務所の所属タレントたちで結成された。しばらくすると売れ始め、2015年から4年連続で日本武道館での単独公演を開催した。

 二刀流の場合、業種を問わず、どちらかの仕事が忙しくなると、もう片方はセーブしがち。だが、北村はどちらも妥協したくないようだ。やはり真面目なのだ。

 これまでに12枚のシングルと4枚のアルバムを発表。2020年には『猫 〜THE FIRST TAKE ver.〜』が日本レコード大賞の優秀作品賞を受賞した。8月28日には山梨県の富士急ハイランドで野外ライブを行なう。

 大谷翔平(27)は、「ピッチャーか打者に絞ったほうがいい」といった雑音に耳を貸さず、成功した。北村も二刀流のまま、もっと大きな成功を掴めるか。

高堀冬彦(放送コラムニスト、ジャーナリスト)
1964年、茨城県生まれ。スポーツニッポン新聞社文化部記者(放送担当)、「サンデー毎日」(毎日新聞出版社)編集次長などを経て2019年に独立