カヌレ好きライターが推薦!ブームの今こそ買うべき名店のカヌレ6選

皮がパリパリで、芯がしっとりが、カヌレの魅力

フランスのお菓子カヌレ。ボルドーで誕生したことから正式名はカヌレ・ド・ボルドーといいます。このお菓子のことを、フランス菓子の名店「Au Bon Vieux Temps(オーボンヴュータン)」の河田勝彦シェフはこう語っています。

「フランスの文化を語るのに、カヌレの存在がなかったら困るぐらい、大事な菓子のひとつ」(河田勝彦著『すべてはおいしさのために』)

オーボンヴュータンでは小麦粉や卵、ラム酒などのほか、バニラを使ってカヌレを焼いていると河田シェフは同書につづっています。香辛料のバニラを用いることから、今月の特集「夏の暮らしにスパイスを」の記事として、カヌレを紹介させていただくことにしました。

カヌレを作るときは、カヌレ型と呼ばれる、ギザギザのある小さな型(一般的には銅製)で生地を焼きます。フランス滞在歴が長い料理研究家の脇雅世さんによれば、あのギザギザ部分をカヌレと呼ぶそうです。ちなみに、クリームを絞り出す星形の口金や菊型のタルト型もカヌレと呼ぶと脇さんに教えてもらいました。

このカヌレを、河田シェフのようなパティシエだけでなく、パン職人やフレンチシェフも焼いています。かと思えば、各地にカヌレ専門店もお目見えしてきました。手のひらサイズの小さなお菓子なのに、作り手により食感も焼き加減も香りも色合いも風味もじつにさまざま。皮(外側)がパリパリで、芯(内側)がしっとりしているものが一般的ですが、なかには皮も芯もやわらかいものもあります。

ちっこいくせに個性的で、圧倒的な存在感のあるカヌレ。魅せられ、やみつきになった私は、9ヵ月前からあちこちのカヌレを買うようになりました。その体験談を「カヌレ道をゆく」と題してインスタグラムのなかでつづっています。

そこでこの機会に、私が出会ったカヌレのなかで、「これを食べたらきっとカヌレ好きになる!」と思えるものを6つ集めてみました。

1. 初めて食べるなら王道のカヌレ「パティスリー・パロラ」

甘いもの好きの友人からカヌレの存在を教えてもらったものの、どこで買えるのかわかりませんでした。ネットで調べると、内幸町の「Pâtisserie PAROLA(パティスリー・パロラ)」にあると判明。パロラは2020年9月、「日比谷OKUROJI」にオープンしたスイーツ専門店です。この店がテイクアウト用にカヌレを焼いています。

あとでわかったことですが、カヌレを焼く店のなかには、予約が必要だったり並ばないと入手困難だったりする店も多々あります。ところが、パロラでは、驚くほど簡単に買うことができました。

パロラのカヌレは、皮がしっかりと硬く、芯はなめらか。ラム酒の香りはあまり強くありませんが、香ばしいカヌレの王道をゆく味わいでした。おいしかった、そして買いやすかったので、1週間後に再訪。銀座にある他店のカヌレも買って帰り、食べ比べをしました。

「カヌレ道」の第一歩が、パロラのカヌレでした。カヌレに限らず出会いは大切です。初めてのカヌレが、カヌレの王道をゆくパロラで良かったと感謝しています。カヌレ未体験の方は、入手しやすいパロラのカヌレを体験してください。

そのほか、「オーボンヴュータン」(世田谷区等々力)や「LIBERTÉ PÂTISSERIE BOULANGERIE(リベルテ・パティスリー・ブーランジェリー)」(吉祥寺)、「郷土菓子研究社 Binowa cafe(ビノワ カフェ)」(神宮前)のカヌレも、カヌレの王道としておすすめします。

店舗情報

店舗名:Pâtisserie PAROLA(パティスリー・パロラ)
電話番号:03-6807-5622
最寄駅:JR有楽町駅、JR新橋駅、東京メトロ銀座駅、東京メトロ日比谷駅、都営地下鉄内幸町駅 徒歩6分
郵便番号:100-0011
住所:東京都千代田区内幸町1-7-1日比谷OKUROJI
市区町村:千代田区
町域:内幸町1-7-1日比谷OKUROJI
営業時間:12:00~22:00(L.O.21:00)
定休日:なし
購入情報:1個324円(税込)、1日に600個焼く日もあるそうですが、夕方には売り切れることも、予約可

2. カヌレ協会(フランス)のレシピを再現したカヌレ「アルカション」

カヌレ好きとしては、カヌレ発祥の地ボルドーへ行ってみたい。本場の味、カヌレ・ド・ボルドーを賞味したい。けれど、遠いし……。と半ばあきらめていたら、ボルドーで修業したシェフが営む「ARCACHON(アルカション)」が、練馬にあることを知りました。

「フランスのカヌレ協会認定のルセット(レシピ)を配合から忠実に再現している、カヌレらしいカヌレ」(同店HPより抜粋)を焼いている店のようです。しかも最寄りの保谷駅から徒歩数分で、カヌレ・ド・ボルドーと出会えると知り、喜び勇んで出かけました。

フランスのパティスリーのようなたたずまいです。フランス語のラジオ放送のような音源が流れる店内は、まさにフランス。ガラスケース内には可憐で美しくて、おいしそうなお菓子がたくさん並んでいます。そのガラスケースの上に、見目麗しいカヌレが飾ってありました。

ボルドーで修業したシェフパティシエが本場のレシピで焼くカヌレは皮が硬く、ペティナイフがすうっと入りません。ところが、芯は、この硬い皮からは想像できないぐらいやわらか。ラム酒の甘い香りがふくよかで、とろけるような食感に歓喜しました。

カヌレやフランスの伝統的なお菓子が好きな方は、フランスにあるようなパティスリーへ行ってみてください。

店舗情報

店舗名:ARCACHON(アルカション)本店
電話番号:03-5935-6180
最寄駅:西武池袋線保谷駅 徒歩3分
郵便番号:178-0064
住所:東京都練馬区南大泉5-34-4
市区町村:練馬区
町域:南大泉5-34-4
営業時間:10:30~19:00
定休日:月曜・不定休
購入情報:1個230円(税込)、予約可

3. 鎧をまとったカヌレ「ビスキュイテリエ ブルトンヌ」

大阪に本店がある「BISCUITERIE BRETONNE(ビスキュイテリエ ブルトンヌ)」。都内には新宿小田急店、渋谷ヒカリエ店など3店舗があり、カヌレを購入することができます。

カヌレは“溝のある”という意味。その溝が密集するトップにペティナイフを入れようとしたら、見事に拒まれました。ナイフがはじかれたような感覚。ブルトンヌのカヌレをひと言で表現するならば、“鎧(よろい)をまとったカヌレ”だと思いました。

ところが。

鎧の下は、なめらかでしっとり。ラム酒の香りはひかえめですが、「なんておもしろいカヌレなんだ」と思ったものです。いつもカヌレは2個買うようにしています。けれど、このときだけは2個しか買わなかったことを大いに悔やみました。これまで食べたことがないカヌレだったから。

鎧をまとってはいませんでしたが、「L'Atelier du pain(ラトリエ デュ パン)」(六本木)のカヌレもトレーに置いた瞬間、コトンと音がしたぐらい皮がカチカチ。ところが、芯はなめらかなカスタードクリーム。皮と芯の絶妙なバランスでした。食べてほしいカヌレのひとつです。

店舗情報

店舗名:BISCUITERIE BRETONNE(ビスキュイテリエ ブルトンヌ)渋谷ヒカリエ店
電話番号:03-6712-5583
最寄駅:JR渋谷駅、東京メトロ銀座線渋谷駅、東急東横線渋谷駅、田園都市線渋谷駅、東京メトロ半蔵門線渋谷駅、副都心線渋谷駅 徒歩数分京王井の頭線渋谷駅 徒歩6分
郵便番号:150-8509
住所:東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ ShinQs 東横のれん街店B2
市区町村:渋谷区
町域:渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ ShinQs 東横のれん街店B2
営業時間:11:00~20:00
定休日:なし
購入情報:1個216円(税込) 予約可

4. 香ばしくてちょっぴりほろ苦いカヌレ「 BGM」

「BGM」のカヌレにペティナイフを当てた瞬間、香ばしそうな音が響き渡りました。表面がカリカリに焼けたクッキーシューの皮のような食感。香ばしさと、かすかにほろ苦さもありました。皮が硬いカヌレは何度も食べてきたけれど、これほど香ばしいカヌレは初めて。二度目に食べたときは、ビスケットのようなサクサク感を感じました。

この香ばしさは、どこに由来するのか。

BGMは、ミシュラン1つ星のフレンチレストラン「Ode(オード)」のオーナーシェフが始めたカフェ。カヌレはOdeのパティシエのレシピで、BGMの厨房で焼いているそうです。その際、レストランの厨房で出た野菜の端材をパウダーにしたものを、バニラの代わりに香料として使っていると聞きました。BGMのカヌレが香ばしいのは、パウダーの野菜を使っているからなのかも。

カヌレは11時頃焼き上がります。そのカヌレと淹れたてコーヒーを一緒に賞味したらどんな味なのか。一度体験してこようと思っています。

店舗名:BGM
電話番号:03-6447-7926
最寄駅:東京メトロ日比谷線広尾駅 徒歩5分
郵便番号:150-0012
住所:東京都渋谷区広尾5-1-31 T/54 1F
市区町村:渋谷区
町域:広尾5-1-31 T/54 1F
営業時間:8:00~22:00
定休日:不定休(インスタで告知)
購入情報:1個400円(税込)、予約可

5. 注目を集めるカヌレ専門店のカヌレ「ダンラポッシュ」

近年カヌレ専門店が全国的に増えています。その先駆けが、2018年1月目黒にオープンした「Dans la Poche(ダンラポッシュ)」です。

2020年末、「人気のカヌレ専門店が目黒にある」と知人が教えてくれたものの、なかなか行けませんでした。なぜなら週末と祝日だけの営業で敷居が高かったから。年明けの1月、満を持して出かけました。念願叶い入手できたカヌレは、甘い香りとカリッとした食感。さほど甘くないのも魅力でした。

店主の内藤裕子さんは大学でフランス科を専攻。卒業後フランスに留学し、2004年に帰国。

「カヌレを初めて食べたのは日本だったかも。でも、あまりおいしいとは思いませんでした」

当時カヌレを焼く店は少なかったそうです。そのあと少しずつ増えていき、おいしいカヌレと出会うことができました。「見た目は同じなのにこんなに違うんだ」と思ったといいます。やはり出会いは大切です。ナチュラルワインと甘いものが好きだったことから、「ワインの肴にカヌレを食べたらおいしいのでは」と思い、自分で焼くことにしたそうです。

「アトピーだったこともあり、安心して食べられるオーガニックな食材を使うことにしました」

当初思うように焼けなったそうです。試行錯誤の末、納得のゆくカヌレを作れるようになり、自宅近くにカヌレ専門店を開業。

その日の朝焼いたカヌレを、かわいらしいパッケージに包んでくれます。自分へのご褒美に買うもよし。手土産にしても喜ばれるはずです。

カヌレ専門店ではありませんが、パティシエール(女性の菓子職人)が丁寧に作っているという意味で「LeGoûter(ル・グッテ)」(浅草橋)と「atelier tamiser(アトリエタミゼ)(蔵前)、「やきがしや SUSUCRE (シュシュクル)」(世田谷区下馬)のカヌレもぜひ食べてほしいです。

店舗情報

店舗名:Dans la Poche(ダンラポッシュ)
最寄駅:東急東横線学芸大学駅 徒歩11分
郵便番号:153-0065
住所:東京都目黒区中町1-36-6
市区町村:目黒区
町域:中町1-36-6
営業時間:13:30~売り切れまで
営業日:土日祝
購入情報:当日朝焼いたプレーンともう一種を販売しています確実に購入するには、ネットショップで予約券購入が一番1個300円~(税込)、ひとり6個まで購入できます

6. これはもう別格。カヌレを超えたカヌレ「シーン カズトシ ナリタ」

最後に、これまで出会ったなかでもっとも衝撃的だったカヌレを紹介します。

麻布十番にある「Scene KAZUTOSHI NARITA(シーン カズトシ ナリタ)」のカヌレです。ほかのと比べるとその大きさがわかると思いますが、ナリタのカヌレは親指ほどの太さ。ところが、その食感と味わいは群を抜いています。皮はカリカリ。けれど、芯はカスタードクリームのような食感。初めて食べたとき、こんな小さいお菓子に、硬い皮と、なめらかな舌ざわりの芯が同居していることに蒙を啓かれました。

小さいカヌレ型で使っているので、短時間で焼いているはず。けれど、ある程度しっかり焼かないと皮がカリカリにならない。かといって焼きすぎると、芯がカスタードクリームのように仕上がらない。相反する要素を、この極小のカヌレで両立させるにはそれ相当の技が必須のはず。

「一般的なサイズのカヌレは45分程で焼きますが、うちのは30分ほどで焼き上げます」と成田一世(なりた かずとし)シェフはいいます。

ナリタでは每日2回、9時と15時にカヌレを焼いています。それはなぜなのか。

「できるだけ焼きたてを食べてほしいから。買ったら店の外で食べてほしいぐらいです。でも、持ち帰ったらリベイク(焼き直し)してください」

大きいと劣化が遅いものの、リベイクに時間がかかります。

「だがらミニカヌレにしました。小さいと短時間でリベイクできて、おいしく食べられます」

温めておいたオーブン、またはオーブントースターで2~3 分リベイクしてほしいと成田シェフはいいます。

「リベイク直後はやわらかくなるので冷まし食べてください」

成田シェフがリベイクしてくれたカヌレをいただきました。カリッとした薄い皮を噛んだ瞬間、まだ薄っすらと温かいクリームが、口のなかではじけ、プリンかクリームパンを食べているような錯覚におちいりました。

成田シェフのカヌレは小粒なのに、圧倒的な存在感があります。カヌレを超越した、成田シェフの作品を舌で鑑賞したければ、9時か15時に麻布十番へ行くか、リベイクしてください。

店舗情報

店舗名:シーン カズトシ ナリタ
電話番号:03-6435-4180
最寄駅:都営大江戸線、東京メトロ南北線麻布十番駅 徒歩約2分
郵便番号:106-0045
住所:東京都港区麻布十番2-3-12 ベルフォーレ麻布1F
市区町村:港区
町域:麻布十番2-3-12 ベルフォーレ麻布1F
営業時間:9:00~20:00
定休日:不定休
購入情報:1個346円(税込)、予約不可

これからも「カヌレ道」を邁進します

これまで50個ほどのカヌレを食べていますが、基本的にはカヌレ・ド・ボルドーと呼ばれる伝統的なお菓子を選んできました。フランスのリヨンで料理修業をしていた知人によれば、カヌレはフランス全土にはまず存在しないそうです。ボルドーを中心に、フランスの西側からパリにかけてしか販売されていないと教えてもらいました。

ボルドー生まれのカヌレが日本に上陸し、各地で焼かれています。カヌレ好きとしては嬉しい限りです。今後もカヌレを食べる「カヌレ道」を続けていこうと思っています。

取材・文/中島茂信