更年期に差しかかると分泌量が減少するといわれる、女性ホルモン「エストロゲン」。じつは女性の健康を保つために、重要な働きをしています。

「普段意識することはありませんが、女性の心身の健康は、『エストロゲン』によって守られています。そのため、更年期(おおむね45〜55歳)を迎えて急激にエストロゲンの分泌量が減少すると、それまで縁遠かった「骨粗しょう症」や「動脈硬化」などの病気にかかりやすくなります」と話すのは、メノポーズカウンセラーの資格をもち、更年期にまつわる記事や書籍制作にも携わる編集・ライターの満留礼子さん。

更年期以降にかかりやすい病気や気をつけたいこと、自身の更年期体験をとおして気をつけていることについて教えてもらいました。


人生の後半戦を元気に過ごすために、更年期以降にかかりやすくなる病気を知っておくことが大切(※写真はイメージです。以下同)

更年期以降に注意したい病気。「健康年齢」を上げる生活を意識して




「エストロゲン」が減少することでなぜ病気を発症する可能性があるのでしょうか。

たとえば、骨密度を保つこともエストロゲンの働きのひとつ。硬いイメージのある「骨」ですが、じつは肌と同じように日々新陳代謝を繰り返しています。そのため、エストロゲンの分泌量が減少すると骨の新陳代謝のバランスが崩れて、骨密度が減少。骨折しやすくなります(骨粗しょう症)。

また、血管の内壁に悪玉コレステロールや中性脂肪が付着して血管の中が狭くなり、つまりやすくなったり血管が硬くなったりする「動脈硬化」も気をつけたい病気です。エストロゲンには、脂質代謝のバランスを保つ働きがあります。そのため、エストロゲンの分泌量が減少すると、悪玉コレステロールの濃度が高くなりやすいのです。


どちらも自覚症状はほとんどないといわれています。静かに進行するため、骨折してはじめて、血管が詰まってはじめて気づくことも。そうならないためにも、定期的に骨密度を計測したり、血管年齢を調べたりすることが大切です。

●まずは自分の体の状況を「知る」ことから始めてみましょう




骨密度は、多くの自治体で、該当する年齢の人を対象に「骨粗しょう症」の検診を行っていますし、人間ドックのオプションなどでも計測できます。

動脈硬化は、一般的な健康診断の血液検査や血圧測定、尿検査でリスクを調べることができます。医療機関の頸動脈エコー検査などでも、血管の様子を調べられます。

定期的な健診・検診は、数値に異常が見つかれば生活習慣を見直すよいきっかけになりますし、がんなどの重篤な病気の早期発見にもつながります。

【健診・検診の予約は周囲の人にも頼って】


ただ、更年期症状がつらい場合、健診・検診の予約をする気力が湧かないことも…。自分のことを二の次三の次にするうちに、体調がもっと傾いてしまうこともあります。

そんなときは家族に頼って予約を取ってもらったり、一緒に病院につき添ってもらいましょう。更年期を上手に乗り越えるためには、家族の深い理解と協力が必要です。

●「健康寿命」を伸ばすことを意識して



「健康寿命」とは、病気などによって日常生活が制限されず、心身ともに自立し健康的に暮らすことができる期間のことをいいます。

2019年の日本人女性の「平均寿命」は87.45歳で、過去最高を更新しました(※1)。2040年には、女性の68%は90歳まで、20%は100歳まで生きると推計されています(※2)。
その一方で、2001年〜2016年のデータからは、女性の「健康寿命」が「平均寿命」より12年ほど短いこともわかります。

要介護となったおもな原因は、多い順に「認知症」「脳血管疾患」「高齢による衰弱」と続き、「骨折・転倒」「関節疾患」を原因とするものも少なくありません(※3)。

理想は「健康寿命」と「平均寿命」が等しくなることですが、女性は更年期以降、女性ホルモンがほとんど分泌されない期間がおよそ30年続きます(老年期)。骨と血管は体の軸です。これらの部分にトラブルが起こると、健康寿命を縮めるリスクが高まります。

【ライターの更年期の健康維持法】


私自身も骨を丈夫にするために、カルシウムを多く含む、大豆製品と小魚を積極的に食べています。また、骨に負荷や刺激を与えると、骨の代謝が促されますので(負荷や刺激といっても、ウォーキングやかかとの上げ下ろし程度の負荷でOK)、自宅の階段をまめに上り下りするようにしています。

更年期以降の骨折は、要介護のリスクを高める一因に。なにもないところでふいにつまずいたら、筋力の衰えと反省。血管については、今は血液検査の値をチェックすることが中心ですが、検査結果はひとまとめにして、値の変化を確認するようにしています。

骨を丈夫にして、血管をしなやかに、そして、不意に転ばないように、たとえバランスを崩しても踏ん張れるように筋肉もつけておく…、そう意識することが、健康寿命を伸ばす大きな一歩になります。

※1:令和元年 簡易生命表の概況 厚生労働省 ※2:令和2年版 厚生労働白書 ※3:2019年 国民生活基礎調査の概況 厚生労働省

●教えてくれた人
【満留礼子(みつどめ・れいこ)さん】



ライター、編集者。暮らしをテーマにした書籍、雑誌記事、広告の制作に携わる傍ら、メノポーズ(更年期)に関して適切な情報を持ち、更年期のヘルスケアについて医療・患者の間に立って考えるメノポーズカウンセラー(「NPO法人更年期と加齢のヘルスケア」認定)の資格を取得。更年期に関する記事、書籍制作にも多く関わる。