Hopin(オンライン会議プラットフォームの運営)

英国のスタートアップであるHopinのアイデアは、新型コロナウイルスの流行前から優れものだった。ジョニー・ブファラットが2019年に初めて創業した同社は、オンラインでの講演会や少人数の会議、1対1のネットワーキングをオンラインで開催するためのプラットフォームを提供している。これは多額の費用がかかる大規模なオフライン会議に代わる魅力的な選択肢と言っていい。

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Hopinがサーヴィスを開始した20年1月の時点で、アーリーアクセス用のウェイティングリストにはすでに10,000人を超える人々が名を連ねていた。ところが、パンデミックによって対面でのイヴェントがすべて中止になった2月の時点で、クライアント候補たちはしびれを切らしたという。

「ウェイティングリストに入れないという怒りの声が、大勢の人から上がったのです。事業拡大と人材確保をできるだけ早く進めなければならないと考えました」と、ブファラットは当時の状況を振り返る。「一時解雇された人をTwitterで探しました。そういう人なら、明日からでも働き始められるからです。社員にも、家族のなかにパートタイムで働ける人はいないか聞いてみました」

こうしたゲリラ的な大規模採用は1カ月近く続いたという。Hopinが足場を固め、急速に事業を拡大させたのは20年3月のことだ。こうして20年末までにチームは8人から350人に増え、ユーザー登録者数は16,000人から350万人へと爆発的に増加した。

アメリカン・エキスプレスや『フィナンシャル・タイムズ』、国連などが主催する大規模カンファレンスの運営に成功したHopinは、20年11月にシリーズBの資金調達で1億2,500万ドル(約136億円)を調達し、評価額は21億ドル(約2,300億円)となった。さらに21年1月には、同社による初の企業買収としてライヴストリーミングサーヴィスを提供する米国のStreamYardを2億5,000万ドル(約272億円)で買収した。

一部のスタートアップにとっては壊滅的な1年となった2020年において、これは素晴らしいサクセスストーリーだ。調査会社Startup Genomeの報告書によると、世界中でロックダウンが実施された20年1月から3月にかけて、ヴェンチャーキャピタルの出資も世界全体で20%下落したという。

さらに、調査対象となったスタートアップの38%が、売上が40%以上は落ちたと回答している。また、英国だけでも1,700を超えるスタートアップが20年3月から21年1月までの期間に倒産しており、英国の欧州連合からの離脱(ブレグジット)の影響もあって、その数はさらに増えると予想されている。

とはいえ、こうした混乱のなかで成長を続けている企業はHopinだけではない。さまざまな業界でニッチな分野の革新を進めてきたスタートアップが、パンデミックをきっかけに舞台の袖からスポットライトの下へと躍り出た。投資家や消費者が、激変した市場状況に適応できる新しいチームや製品を探し求めているのだ。

Kry(遠隔医療サーヴィスの開発)

スウェーデンのストックホルムを拠点に遠隔医療サーヴィスを提供するKryは、今回の危機が収束したあとも注目すべきスタートアップのひとつだ。14年に創業したKryは、20年1月に1億4,000万ユーロ(約186億円)の資金調達に成功した。そして新型コロナウイルスのパンデミックが始まるとスウェーデン国内での事業展開に加えて英国の国民保健サーヴィス(NHS)とも長期契約を結び、欧州のほかの国にも進出を始めた(英国内では「Livi」という社名で運営している)。

その後、Kryは米国でヴィデオ通話による診察プラットフォームを立ち上げ、自己診断や家庭での見守り機能も拡張した。いまでは複数の市場でかつてないほど多くの医師を抱えている。ソーシャルディスタンスと医療サーヴィスの負担増加によってヴァーチャル診療への需要が高まっていた状況を、うまく生かしたのだ。

Kryの創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるヨハネス・シルドは次のように語る。「医療のデジタル化の流れは、パンデミックのかなり前からすでに存在していました。しかし、パンデミックをきっかけに世界中でシステムの採用が加速したのです。わたしたちのこれまでの取り組みは、いまや医療提供システムの核になっています。いまとなっては当たり前と感じますが、1年前は違ったのです」

OpenSensors(オフィス管理システムの提供)

コロナ禍で企業が職場のあり方を見直し始めるなか、英国のOpenSensorsが提供するサーヴィスにも関心が集まっている。同社が提供しているのは、データを基に職場の使われ方のパターンを割り出すサーヴィスだ。

「新型コロナウイルスの感染拡大は極めて不運な出来事ですが、結果的には職場における変化をおそらく30年から40年早めることになりました」と、創業者のヨディット・スタントンは指摘する。スタントンによると、企業は屋内でのウイルスの広がり方に影響を与えうる二酸化炭素濃度や湿度といった空調の状態だけでなく、部屋の予約状況や席の配置などにも興味をもつようになっているという。

こうしたなかOpenSensorsは、シード資金調達で20年12月に400万ドル(約4億3,900万円)を調達したと発表した。この資金は21年中に発表予定の新しい施設予約ツールの開発や、アジアでの事業拡大などに使われる予定だ。

Vestiaire Collective(ファッションのリセールプラットフォームの運営)

欧州やアジアでロックダウンが始まったばかりのころ、輸送や倉庫の人材配置といった物流上の難題が浮上した。こうしたなか、高級ファッションのピア・ツー・ピア(P2P)再販プラットフォームを提供するフランスのVestiaire Collectiveは1年間で記録的な成長を記録したという。コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調べによると、ファッション業界の収益が93%減ったとされる1年であったにもかかわらずである。

Vestiaire Collectiveの20年5月の注文受付数は、前年同月比で119%増となった。同社は20年4月に米国とアジアへの事業拡大を目的に5,900万ユーロ(約78億3,400万円)の資金調達に成功している(『WIRED』の出版元であるコンデナスト・インターナショナルも、この投資に加わっている)。

「外出の機会が減ると高級アイテムへの需要も落ちるので、新型コロナウイルスはVestiaire Collectiveにとって望ましいものではなかったと考える人もいるでしょう」と、Vestiaire Collectiveの最高経営責任者(CEO)のマックス・ビットナーは言う。「しかし、フランスのロックダウンから4〜5週間が過ぎると事業は急速に回復しました。物事が不確実ななかチームは見事な仕事をしてくれました。それに、わたしたちはこれまでにないほど強くなって状況を抜け出すことができたのです」

Vestiaire Collectiveの共同創業者でファッションディレクターのソフィー・エルソンは、これまで一次流通(小売業)で買い物をしていた消費者が、より手ごろな価格の商品を求めるようになったと指摘する。「供給面を見ると、パンデミックの影響によって、流動性を求める数多くの新しい売り手が生まれたのです」

Vestiaire Collectiveの成功は、あるトレンドに沿ったものでもある。「二次流通(中古)市場はパンデミック前から急拡大していました。ファッション業界が環境や社会に与える影響に消費者が目を向け始めたことで、消費に対する意識的な取り組みが始まったのです」と、エルソンは言う。

Too Good To Go(食品ロス削減アプリの提供)

デンマークのコペンハーゲンを拠点に食品ロス削減アプリを提供するToo Good To Goは、売れ残りの食品を抱えるレストランや店舗と消費者をつなぐアプリを提供している。

Too Good To GoのCEOであるメッテ・リュッケは同社の20年の業績について、売り手と買い手の両方の意識の変化と需要増が影響したと考えている。新型コロナウイルスの流行の第1波でレストランが休業したとき、Too Good To Goの売上は62%減少した。

そこで同社は、日持ちしない食品の在庫を抱えていたユニリーバやダノン、ネスレといった食品メーカーと提携することにした。その結果、第1波の期間中にその分野での売上が600%増になり、これによって第2波も乗り切ることができた。同社は21年1月、特に米国とカナダへ事業を拡大する目的で、3,110万ドル(約34億1,000万)の資金を調達している。

「投資の観点から見ると、気候問題に対するソリューションをもっていると同時に妥当なビジネスモデルの裏付けがある企業が求められるようになってきたと感じています」と、リュッケは言う。「これは、いまの時代に実に魅力的な組み合わせなのです」

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