地下鉄の駅名「○丁目」、東京は奇数、大阪は偶数が多い謎を追うと意外な事実が判明
地域の生活の足である地下鉄。東京メトロや都営地下鉄の駅名には、銀座一丁目、新宿三丁目、青山一丁目、西新宿五丁目、四谷三丁目などと、「○丁目」が付くものも多い。一方、大阪メトロ(Osaka Metro)の駅名にも、天神橋筋六丁目、谷町四丁目、谷町六丁目、瑞光四丁目、蒲生四丁目など、こちらも「○丁目」駅がチラホラ。
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そう思いながらよくよく確認すると、「○丁目」が付く地下鉄の駅名は東京ではすべて奇数、大阪ではほとんどが偶数(奇数は谷町九丁目駅の1つだけ)と、なぜか奇数と偶数で大きく偏っている。ここまで偏るのは、何か理由があるに違いない! ということで調べてみると、意外な事実が……?
【東京・大阪で「○丁目」がつく地下鉄の駅一覧(2021年6月現在)】
◎東京メトロ/都営地下鉄:青山一丁目駅、六本木一丁目駅、銀座一丁目駅、四谷三丁目駅、新宿三丁目駅、志村三丁目駅、本郷三丁目駅、西新宿五丁目駅
◎大阪メトロ:蒲生四丁目駅、瑞光四丁目駅、谷町四丁目駅、谷町六丁目駅、天神橋筋六丁目駅、谷町九丁目駅
今回、話を聞いたのは鉄道ジャーナリストの渡部史絵さん。幼少期からハマりだした鉄道への愛は現在も冷めることなく、鉄道に関する著書を出版したり、鉄道雑誌でも多くの連載を抱えている生粋の鉄道マニアだ。
「東京が奇数、大阪は偶数の駅名が多いことは私も前々から疑問に思っていましたが、地下鉄各社に聞くと、みなさん“たまたまだと思います”とか、“偶然です”としか答えてくれないんです。公式がそう言ってはいるんですが、この偏りは絶対、不自然ですよね……」
昔すぎて資料が残っていない
諦めきれない渡部さんは奇数・偶数駅名の謎について、”鉄道界の神”と呼ばれるような大ベテランの人にも聞いたことがあるそうだが、そんな重鎮からも「確信が持てない」という答えが返ってきたというのだ。なんで誰もわからないの?
「地下鉄のそもそもの成り立ちが100年近く前であるため、資料が残っていないことが大きな理由の1つです。現存する資料がないくらい昔のことですから、当時の状況を知る鉄道会社の関係者もお亡くなりになってしまっていることがほとんどで、調べようにも調べられないんですよ」
気になるのは渡部さんの「そもそもの成り立ち」という含みのある言い方。続けて聞くと、地下鉄の駅名が名づけられた経緯は、さらに過去にさかのぼるという。
「地下鉄は路面電車の代替交通として整備が始まったので、駅名は利用客になじみがあった、近くの路面電車の電停名から取っているケースが多いんです。そんな路面電車が東京や大阪で整備され始めたのは1900年代初頭。《関東大震災で資料が焼失した》という記録も存在するそうですし、それほど昔と考えると、残念ですが資料が残っていないことにも納得できます」
大本の由来こそ不明な点は多いものの、路面電車や地下鉄の駅名に「○丁目」と付けられた理由は明確だ、と渡部さんは続ける。
「路面電車は電停の間隔が平均で400メートル(徒歩5分)ほどしかありません。そのため、例えば地下鉄の駅名を近くのランドマークから取って『△△前』などとすると、隣の駅と混同してややこしくなるため、『銀座一丁目』のように交差点名をそのまま付けるケースが多かったんです。
その後、地下鉄に移行する際に利用客が混乱しないようにと、すでに浸透していた路面電車の電停名が流用されました。これが『○丁目』という駅名が残った理由です」
「○丁目」駅の奇数・偶数の真相に迫る
地下鉄の駅名に「○丁目」と付く理由はわかった。ここからはいよいよ、東京には奇数、大阪には偶数の駅名が多い真相に迫っていく。
「これまで話したように資料がないため、私の取材や調査、読んだ文献から得た知識に基づいた推測になってしまうのですが、地下鉄の駅名が奇数や偶数に偏った原因には、それぞれの”地域性”が影響しているのではないかと考えています」
地域性が駅名に由来するって、いったいどういうこと?
「まず東京ですが、元来、日本の縁起ごとやお祝いごとには『七五三』を始めとして奇数が入ったものが多く、なかでも『1』が好きだと記述された文献がいくつもあります。そんな奇数好きの日本で、特に関東の人は、奇数を好むと言われています。このことから、例えば、特にランドマークがなく、駅が町名の境に存在して、一丁目と二丁目のどちらを付けても大丈夫な場合などに、“それなら縁起のいい奇数にしよう”と、奇数の駅名を流用した可能性は考えられます」
最終的に駅名を決めるのは鉄道会社の社員だが、当時は現在よりも地元出身の社員が多かったはず。そう考えると、上記の理由で奇数を選択したという推測もなかなかリアリティがある。
「一方、大阪は商人の街なので、お客さんと五分五分だとか、いまで言うwin-winの関係を願って、“同じ数で半分に割れる偶数”が好まれる文化なんです。そんな地域性から、一丁目か二丁目を選ぶ際に偶数を選んだのではないでしょうか」
駅名と所在地が違う!?
渡部さんの説は「(奇数・偶数の偏りが)たまたまではない理由」として十分に考えられる。銀座一丁目や六本木一丁目など、基本的にはストレートに所在地を駅名にしたものが多いなか、一風変わった由来の駅名もあるんだとか。
「例えば、青山一丁目駅は現在の所在地が『南青山一丁目』なのに『南』が駅名に付いておらず、所在地と駅名が一致していません。それに『青山一丁目』という地名は、過去も現在も存在していません。それにもかかわらず現在の駅名が使われているのは、銀座線の開業時に都電の『青山一丁目』という名称の電停が交差点にあり、そこから取られたものを使い続けているからだと推測できます。
余談ですが、現在の外苑前駅はもともと青山四丁目駅でしたし、表参道駅は青山六丁目駅でした。広く認知されるランドマークができたから駅名が変更されたということも考えられますが、当時、地下鉄に不慣れな乗客が『あおやま』と聞いて反射的に乗り降りを間違えるケースが多かったから、という説もあります」
大阪にもひとひねりある駅名があるという。
「大阪メトロの蒲生(がもう)四丁目駅は、所在地としては今福西三丁目なんです。駅名のとおり、蒲生四丁目の交差点の直下に駅があるのですが、この交差点で交わる道路が4つの町名の境界となっていて、それぞれ北西が中央一丁目、南西が蒲生四丁目、北東が今福西三丁目、南東が今福西一丁目となっています。地元では『がもよん』と慣れ親しまれている地名ですし、大阪市電・天満今福線にも蒲生町四丁目の電停(1950年開業)があったことも、現在の駅名の由来だと考えられます」
地下鉄ではないが、東京・港区にあるJR品川駅や、品川区にあるJR目黒駅も、ルーツをたどれば、現在の所在地とズレている理由が見えてくるそうだ。
「これらも資料がないので私の推測になってしまいますが、品川駅は開業当時(1905年)、周辺が『品川湊』と呼ばれていたことに由来すると考えられます。目黒駅は開業当時(1885年)、所在地が『上大崎村』だったので『上大崎駅』となってもおかしくなかったのですが、近くに江戸時代から広く親しまれていた目黒不動尊があったため、そこから取ったのかなと思います。どちらも大きな駅なので気軽に駅名は変えられないでしょうし、それが現在まで続いているはずです」
東京と大阪の地下鉄が奇数・偶数に偏っている件のほかにも、さまざまなルーツがある駅名。あなたの地元の駅も、調べてみると意外な事実が発見できるかも?
(取材・文/松嶋 三郎)
《識者プロフィール》
渡部史絵(わたなべ・しえ) ◎鉄道ジャーナリストとして、雑誌『鉄道ファン』の連載をはじめ、書籍やテレビなどで鉄道の魅力を発信している。5月21日に新著『超! 探求読本 誰も書かなかった東武鉄道』(河出書房新社)を上梓したほか、『地下鉄の駅はものすごい』(平凡社)、『東京メトロ 知られざる超絶!世界』(河出書房新社)、『関東私鉄デラックス列車ストーリー』(交通新聞社)、『譲渡された鉄道車両』(東京堂出版)など、著書多数。
【公式ブログ】http://ameblo.jp/shie-rail/ 【Twitter】@shierail
《筆者プロフィール》
松嶋三郎(まつしま・さぶろう) ◎フリーライター。兵庫県神戸市生まれ。「執筆するジャンルも内容も媒体も幅広く」をモットーに、堅いネタから柔らかいネタまで取材し、紙・web問わず多数のメディアで執筆中。
【Twitter】@matsushima36