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東京・立川市のホテルで男女が殺傷された事件では、被害女性の実名が職業もわかる形で報道された一方、逮捕された19歳の少年は匿名報道だったという「不公平さ」がネットで疑問視されている。

理由は周知の通り、少年法にあるが、その少年法は今年5月に改正された。2022年4月に施行され、18歳と19歳は一部厳罰化、実名報道も可能なケースが出てくる。ただし、時期的に今回は実名報道にはならないと考えられる。

被疑者の氏名については、少年に限らず、そもそも報道すべきではない、または「無罪推定の原則」の観点から判決確定まで控えるべきなどの意見もあるが、本稿ではその点には触れず、未成年の実名報道の現状を整理してみたい。

なお、2000年の法改正により、「原則逆送」といって、事件時に16歳以上の少年が、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合は、原則として検察官に送致することになっている。要するに、今回のケースでは成人と同じように起訴され、裁判を受ける可能性が高く、有罪判決が出るようなら、少年院ではなく、刑務所に収監される。

●施行前の事件でも、来年4月1日の起訴は実名

少年法では、次のように氏名などの公表を禁じている。ただし、罰則はない。

「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」(61条)

これが2022年4月施行の改正法では、「特定少年」とされる18歳と19歳については起訴されれば実名報道の対象になる(改正少年法68条)。

この規定は、「法律の施行後に公訴を提起された場合について適用する」(改正法附則7条)とあるため、施行前の事件であっても、起訴が2021年4月1日以降であれば、実名報道の対象になる。

●未成年でも実名報道することも

そもそも、実名が裁判で必ずしもNGと判断されるわけではない。たとえば、当時19歳の少年が起こした「堺通り魔殺人事件」では、月刊誌『新潮45』が少年の実名や顔写真を掲載。のちに少年側からプライバシー侵害などで訴えられたが、請求は棄却されている(大阪高判平成12年2月29日)。

判決は、次のように表現の自由と少年法の規定との兼ね合いを判断している。

「表現の自由とプライバシー権等の侵害との調整においては、少年法61条の存在を尊重しつつも、なお、表現行為が社会の正当な関心事であり、かつその表現内容・方法が不当なものでない場合には、その表現行為は違法性を欠き、違法なプライバシー権等の侵害とはならないといわなければならない」

このほか、匿名にする理由が少年の更生にあることから、被疑者の少年が死亡したり、死刑が確定したりすると、配慮の必要がないとして実名に切り替わることがある。

たとえば、1999年に起きた光市母子殺害事件では、2012年に死刑判決が確定したのを受け、多くのメディアが匿名から実名に切り替えた。一方で、裁判のやり直し(再審)や恩赦の可能性はゼロではないとして、匿名報道を続けた社もあった。

また、滋賀県で2018年に起きた当時19歳の警察官が上司を射殺した事件では、この警察官が拳銃を持って逃走したため、実名や顔写真を公表した公開捜査となり、メディアも実名や顔写真を報じた。逮捕され、匿名に転じた社もある。