グラフィックデザイナーの西出弥加さんと訪問介護の仕事をする光さん夫妻は、夫婦ともに発達障害という特性をもちながら結婚。そして、結婚早々から別居という道を選んでいます。お互いに居心地のいい暮らしのために離れて暮らす夫妻ですが、今回、新しい関係性が生まれたということで、教えてもらいました。


光さんと弥加さん

夫が妻のために「養う」立場に逆転。夫にようやく芽生えた貯金という目標



妻の弥加さんがASD、夫の光さんがADHDの発達障害の特性をもっています。東京に住む弥加さんはグラフィックデザイナーの仕事を、愛知県に住む光さんは訪問介護の仕事をしながら、それぞれが一人暮らしをしています。
離れて暮らしながらお互い支え合っている2人ですが、今回は弥加さんが光さんに対し、感動したことがあったそうで――。

●これまで会社勤めが10日も続かなかった夫が、妻を支えるために入金



ーーお互い夫婦でありながら、それぞれが働いて自立した生活を送っていますが、夫婦としてお金関連の共有はしたりしているのでしょうか?

弥加 二人の将来のためにお金を貯めようって決めたのは最近のことです。それまでは私の方が稼いで、なんとかやっていこうというバランスでやっていましたが、じつは最近、私が愛着障害などの症状により寝込むことが多く、働くことに支障が出てしまって…。このままだとまずいなあと思っていたところに、光くんが二人の口座に多めにお金を入れてくれたのです。
「これから、好きに過ごせるようにするよ」って、すごく頼もしい言葉をくれました。

――それは弥加さんが相談をしたのではなく、光さんが自主的にやられたんですか?

光 そうですね。弥加さんにはつらい思いをしてほしくなくて、自分ができることをやろうと思いました。まだ始まったばかりなので、今後どのくらいの金額を固定で入れていこうとか考えているところですが…。
今、僕は訪問介護関係の仕事をしています。以前よりも収入が増えてきたので、ようやく弥加さんのためにお金を入れられるようになりました。


光さん

弥加 光くんはとてもやわらかい性格で、どちらかというと養われる気質だったのに、今回予想をこえた行動をとってくれたことが衝撃でした。結婚当初は1日ゲームをして過ごしたり、仕事をしても10日間も続かなかったり、支払いを滞納したりしていたのに、今はとても頼もしくなって、口座にお金を入れてくれたことに驚きました。

光 今回お金を入れたのは自分のためでもあります。僕の今の理想は、妻である弥加さんが過ごしたいように過ごすことです。今、僕はとくに遊ぶ友達もいないし、贅沢もしない。だから、家賃や光熱費の引き落としの分さえ残っていればいい。それ以外のお金はすべて弥加さんとの口座に振り込むことにしました。

弥加 私の方は、なかなか人にはわかってもらえないというか、どう伝えたら伝わるのかわからないのですが…。私の心には小さい女の子がいて、その子が悲しんでしまうとママである私の方も調子が悪くなってしまうのです。

じつは今まで画家としては、ほとんど活動していません。おもな収入源はグラフィックデザイナーとしての仕事でした。幼少期から抑圧され、絵を描くなと言われ続けた小さな女の子が私に「ママ、あたしは絵が描きたい」って、去年から泣いて何度も訴えてきて、今はその子の願いを親として叶えてあげたいと思うようになりました。

去年、完全に小さな女の子と私が分離して、生きやすくなりました。その子どもを自分の理想に従わせ、否定し続けるのは親の役割ではないです。今後はグラフィックデザインの仕事を抑えて、絵を多めに描くことに決めました。


二人のLINEのやりとり

光 だから、僕は弥加さんには、無理をせず、思いっきり絵を描いてもらいたいって思ったんです。僕は必要以上のお金をもたないことにしました。あったらあったで、おいしいリンゴとか買っちゃうかもしれないし(笑)。

弥加 おいしいリンゴ(笑)。リンゴは食べてもいいよ!

●妻を支えることが仕事のモチベーションに



――光さんご自身、もともとお仕事を続けることが難しかったそうですが、今は順調にお仕事の量を増やしているのですね。そこに無理は生じていませんか?

光 僕は自分ができる範囲の仕事をしているだけなので、苦ではありません。訪問介護のお仕事はご自宅へお伺いする関係でこれまで苦手だった「同僚や先輩を含む複数人でのやりとり」もなく、ストレスがなく働けています。

弥加 どんどんいろんなことができるようになっていてすごい。

光 ようやく一人暮らしをしてる人間として、自分で稼いだお金で自立した生活が送れるようになったと思っています。今はざっくりとしたお金の管理しかしていませんが、これからやりくりを覚えていこうと思います。そのうえで、弥加さんにお金を渡していけたらと思っています。


弥加さん

弥加 今、私が何もしなくても生活できるくらいのお金をくれたわけではないけど、光くんの「好きに過ごせるようにするよ」という言葉にとてもうれしい気持ちが湧きました。その言葉と、お金を入れてくれた行動と、記帳したときの数万円の印字が嬉しかったです。相手に「養うから、まかせて!」といった姿勢でこられたことは人生で初めてでした。言われたら言われたで嬉しいものですね。

私の未熟さゆえ、光くんと私の心にいる「ミニさやちゃん」とうまく生活できるのか不安になることもあるけど、精神面で光くんにはだいぶ支えてもらっています。ミニさやちゃんのことも「意味がわからない」なんて言わずに、きちんと個々に寄り添ってくれます。これは、人格障害ではなく、ミニさやちゃんは私の大事な中核です。いつも優しい絵を描いてくれる感性豊かな子です。光くんは遠くからいつもすてきな言葉をくれて、本当にありがたいです。


ミニさやちゃんによるきれいな絵。ミニさやちゃんとは、弥加さんの中にいる5歳の小さな女の子だそう

光 これからは僕がお返しをしていけたらと思います。

弥加 ありがとう。私はこれから絵や小説を書きます。発達障害や愛着、虐待関連のこと…発信したいこともたくさんあります。光くんのおかげで、今はやりたいことができるようになってきました。

光 僕も、弥加さんに好きなことをやってもらいたいってモチベーションでこれからもお仕事をがんばれます。生きていくうえで大切なお金のこと、もっと勉強しながら、二人の安心につながるようにお金を貯めていきたいですね。

<取材・文/ESSEonline編集部>

【西出弥加さん】



絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。オフィシャルブログ「私とリトルさやの徒然日記
」、Twitterは@frenchbeansaya