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俳優でアクティビストの石川優実さんの書籍にツイートを無断掲載されたことで、著作権と名誉感情の侵害を受けたとして、あるツイッターユーザーが、石川さんと出版社を相手取り、計約220万円の損害賠償や出版差し止めなどをもとめた訴訟の判決が5月26日、東京地裁であった。佐藤達文裁判長は、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。(ライター・玖保樹鈴)

●ツイートのやりとりを書籍にまとめた

石川さんは2019年1月、職場の服装規定で、女性がヒールのある靴を強制されていることについて、疑問を呈するツイートをおこなった。すると、賛同者が続々と現れて、「靴」に「苦痛」をかけあわせた「#KuToo」運動を展開するようになった。

署名活動もスタートさせて、同年6月には厚生労働相に署名を提出した。しかし、そのころから、石川さんの言動に対するバッシングや、過去にグラビア撮影をしていたことをあげつらうツイートがされるようになった。

自身や「#KuToo」への嫌がらせと思える「クソリプ」(クソみたいなリプライ)に返信を繰り返していた石川さんは2019年11月、そのやりとりに解説を加えた書籍『#KuToo: 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)を出版した。

この書籍の中には、原告であるユーザーのK氏とのやりとりも掲載されていた。

●原告側は著作権・名誉感情を侵害されたとして提訴した

K氏のツイートは2019年6月、石川さんではないアカウントにリプライされたものだった。

<逆に言いますが男性が海パンで出勤しても#kutoo の賛同者はそれを容認するということでよろしいですか?>

これを目にした石川さんは<そんな話はしてないですね。もしも#KuTooが「女性に職場に水着で出勤する権利を!」ならば容認するかもしれないですが、#KuTooは「男性の履いている革靴も選択肢にいれて」なので。>と引用リツイートをした。

その後、このやりとりが書籍に掲載されることになった。さらに「対面でこんなへんてこりんな人に会ったことないしな」「Twitterになると急にバグるとか?」という解説も同書には添えられた。

K氏は2020年、石川さんにリプライをしたわけではないに「クソリプ」と歪められて掲載されたのは著作権・名誉感情の侵害であり、また「#kutoo」としていたのに「#KuToo」と改変されたことで、同一性保持権も侵害されたとして、東京地裁に提訴した。

●東京地裁は請求を棄却した

東京地裁の佐藤裁判長は、ツイートの掲載は、著作権法の「引用」に該当するとしたうえで、公正な慣行に合致し、正当な範囲内でおこなわれていると判断。「#KuToo」は「#kutoo」の誤記に過ぎず、同一性保持権を侵害したとはいえないとした。

また、「へんてこりんな人」「Twitterになると急にバグる」などの表現については、「原告の名誉感情を侵害する」としても「社会通念上許される限度を超える侮辱行為に該当するということはできない」として、請求を棄却した。

●石川さん代理人「一種のスラップ訴訟ではないか」

判決後、石川さんとその代理人は、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。石川さんの代理人をつとめた神原元弁護士は次のように述べた。

「他人の文章を一部引用して批判することはよくある。それを『こういう趣旨ではない』『ここを切り取られては困る』ということもよくあるが、すべて違法だったら著作権法の引用が不可能になってしまう。専門家の間で意見が分かれるものではないし、声を上げた女性の口をふさぐ、一種のスラップ訴訟ではないか」

同じく代理人の太田啓子弁護士は「裁判を起こす権利が原告にもあるが、負担を強いる裁判をする弁護士を疑問に思う。ツイッター上の揶揄(やゆ)をそのまま法廷に持ち込むことへの問題意識をすごく感じた裁判だった」と話した。

●原告側は判決を不服としている

石川さんによると、「#KuToo」が労働や健康やマナーの問題だけではなく、女性差別の問題だと主張して以降、SNS上で、彼女に関する誹謗中傷やデマを流されるようになったという。

たとえば、かつて葬儀社で働いていたことに関連して、「葬儀の会社にスニーカーで行こうとする非常識な女」というバッシングを受けるようになった。

石川さんは会見で「男性と同じ革靴を履きたいという運動なのに、反論しなければツイートを見た人には非常識な女と言う印象操作がされ続けてしまう。SNS上で女性差別があると言うだけでバッシングを受けることを知ってもらいたくて、書籍にまとめた」と説明した。

そのうえで、ある弁護士による「引用の要件を満たさない」「著作権および同一性保持権を侵害している」などのつぶやきが拡散したことにより、約2年にわたり「女性差別や#KuToo運動を、信じて活動するのが難しい状況だった」と心情を吐き出した。

「SNSをやめればいいという人が多いが、今の社会ではなければならないものだし、女性差別があることをSNSで知った。(自分が)SNSから消えたら、運動が広がりを見せなくなると思う。SNSから消えることが誹謗中傷している人の目的で、それに従う必要はない。

去るのは私ではなく加害者側。なぜその人がSNS上で怒っているのか、何が起きているのかを知ってほしい。これまでたくさんの声をあげてきた人がSNS上から消えたり、非公開アカウントになるのをずっと見てきた。付きまといに会わずに、自由に安心して自由にSNSで声をあげられる環境が必要だと思う」(石川さん)

石川さんは今後、自身への悪質なつぶやきに対して戦う姿勢を見せている。一方、原告側は、判決を不服として控訴する方針を示している。