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大麻の取締り強化などについて議論する厚生労働省(厚労省)の有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」(担当は、厚労省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課)が1月からおこなわれている。

一般社団法人日本臨床カンナビノイド学会と弁護士有志は5月24日、厚労省医薬・生活衛生局長にそれぞれ医療利用の可能性の推進を求める要望書、使用罪創設に反対する意見書、23日までに集まった反対署名1万4761筆を提出。

提出後に厚労省記者クラブで会見を開いた正高佑志医師(日本臨床カンナビノイド学会)は「大麻に限らず、薬物使用の背後には、生きづらさがあるのでは。刑罰ではなく、手を差し伸べることが重要ではないか」などと語った。(吉田緑)

●「医療用途に使うことの可能性」狭めないで

検討会では、大麻の成分であるTHC、CBDは大麻由来か化学合成かを問わず、「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されるべきとの意見もみられた。

これまで、医療大麻に関する情報を発信し続けてきた正高医師は「規制によって、現在国内で医療用途にCBDを使用している人たちのアクセスを妨げてしまう」と危機感を募らせた。実際に、難治性てんかんの治療のため、CBD製品を必要とする人たちはいる。<「2歳児の父「息子は大麻に救われた」…海外では合法化「医療用大麻」使用求め、患者らの模索続く」>

また、THCは医療用に活用されているとし、THC含有量の基準を設けるべきだとした。

「CBDはよいもの、THCは悪いものというように善悪二元論ではなく、多くの病気に医療用大麻が使えるようになるべきです」(正高医師)

要望書には「使用に伴う罰則の制定を見送ること」も盛り込んだ。正高医師は、医療用途に使うことの可能性を狭めるほか、医療用大麻を必要としている人たちに「薬として使えない」と恐怖を与えてしまうのではないかと懸念を抱いているという。

●一度できてしまった法律を変えることは非常に難しい

会見には、Change.orgで使用罪創設に反対する署名活動をおこなっていた弁護士有志のうち、亀石倫子弁護士と趙誠峰弁護士が参加した。亀石弁護士によると、薬物事件に関わり、薬物政策のことまで考えて弁護活動をおこなっている弁護士は「少数派」。弁護士会として反対することは難しいため、有志で活動しているという。

亀石弁護士は「これまで、『犯罪者』『薬物中毒者』というレッテルを貼られ、社会や家庭の中で居場所を失う人たちをたくさん見てきた」とし、刑罰をもって薬物の自己使用を規制することに反対した。

仮に使用罪が創設された場合、趙弁護士は「大麻使用罪で起訴されたときに、法律がおかしいのではないかということをしっかり議論するべき」とした。ただ、「一度できてしまった法律を変えることは非常に難しい。そうならないために、法律を作ろうとしている段階で活動しています」と語った。

使用罪が導入された場合、現実的な運用についても検討する必要があるという。亀石弁護士は、大麻を吸っていないにもかかわらず、周囲にいる人が吸ったために尿からTHCが出たケースについて「技術的にどうするのか」と疑問視する。

●厚労省「何かを決めたり、合意に至ったりはしていない」

第6回検討会の議事録は5月24日13時時点では公表されていない。ホームページに公開されている第6回検討会資料「これまでの検討会における委員からの御意見」には、多様な意見が並ぶ。

大麻の使用が増えている一因として、使用罪がないために「使用しても罪にならないという誤解が広まっている」などの意見が挙がる一方、大麻による健康被害や交通事故、暴力事件などの二次犯罪が起きているかなどのデータは検証しなくてよいのかとする意見もあった。また、使用罪を創設するにしても、初犯の場合は前科をつけず、精神保健福祉センターの治療プログラムなどを義務づける提案も出されていた。

ところが、第6回の検討会(開催場所は非公開)開催後、大麻の使用罪創設に検討会で合意したという内容の報道が相次いだ。反対意見や慎重な対応を求める声なども挙がっていた中で、どのような流れで合意に至ったのだろうか。

厚生労働省監視指導・麻薬対策課の担当者は弁護士ドットコムの取材に対し、「現在は検討会の真っ只中であり、何かを決めたり、合意に至ったりということはありません」と回答した。

7回目の検討会は、5月28日に開催される予定(開催場所は非公開)。大麻の規制のあり方は引き続き検討事項となっている。

●実際に提出された要望と意見

日本臨床カンナビノイド学会が提出した要望は、下記のとおり。

(1)大麻取締法第1条で定義されている現在の部位規制を廃止したうえで、諸外国にならい、THC含有量の基準を設け、基準値以下のTHC含有品種に関しては大麻と別個にヘンプとして大麻取締法の規制対象から除外し、医療利用並びに産業利用の可能性を推進すること

(2)カンナビジオール(CBD)およびCBDを主成分とする医薬品に関して、大麻取締法、ならびに麻薬及び向精神薬取締法の規制物質から除外される旨を明示すること

(3)THCおよび大麻草の将来的な幅広い医療利用を見据え、大麻使用に伴う罰則の制定を見送ること

弁護士有志が提出した意見書には、使用罪に反対する理由として、以下の3点が挙げられている。

(1)そもそも大麻は刑罰をもって使用を規制しなければならないほどの有害性があるのか、という点に関する科学的根拠が乏しい

(2)使用罪がないことと大麻の使用が増加していることとの因果関係が明らかでなく、立法事実が存在しない

(3)30歳未満の若年層に「犯罪者」「薬物中毒者」というレッテルを貼り、排除することによって得られる社会の利益よりも、弊害の方がはるかに大きい