ミツバチは「新型コロナウイルスの匂い」を嗅ぎ分けられる、安価な検査手法の開発につながる可能性も
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の検査においては、ウイルスの遺伝子配列を検出するPCR検査やウイルス特有のタンパク質を検出する抗原検査などが用いられています。新たに、昆虫を用いた生物模倣型テクノロジーを開発するスタートアップ企業・InsectSenseとオランダ・ヴァーヘニンゲン大学の研究チームが、「ミツバチに新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の匂いを覚えさせて陽性サンプルを検出する方法」を開発しました。
https://www.wur.nl/en/news-wur/Show/Training-bees-to-smell-the-coronavirus.htm
Bees in the Netherlands trained to detect COVID-19 infections | Reuters
https://www.reuters.com/lifestyle/oddly-enough/bees-netherlands-trained-detect-covid-19-infections-2021-05-06/
病気の検出において、人間より優れた嗅覚を持つ動物を利用する試みは以前から行われてきました。過去にはSARS-CoV-2の匂いを嗅ぎ分けるように犬を訓練する実験が成功しているほか、犬は比較的サンプルに含まれるSARS-CoV-2が少ない尿でもCOVID-19陽性の患者から採取したサンプルを識別できることがわかっています。
優れた嗅覚を持つ動物と言えば犬を連想する人が多いかもしれませんが、実はミツバチも優れた嗅覚を持つ動物の一種です。ミツバチは優れた嗅覚を使って空気中の揮発性物質を検出し、数kmも離れた場所にある花を見つけ出すことができるとのこと。そこで研究チームは、ミツバチにSARS-CoV-2の匂いを覚えさせ、SARS-CoV-2に感染した動物から採取したサンプルを識別させることができるのではないかと考えました。
まず、研究チームは「SARS-CoV-2に感染したサンプルの香り」にミツバチをさらし、そのたびに砂糖水を報酬として与えました。するとミツバチは砂糖水をなめるために舌を伸ばしますが、同じ行動を繰り返すことによってミツバチはSARS-CoV-2の匂いと砂糖水の報酬を結びつけ、やがてSARS-CoV-2の匂いを嗅ぐだけで舌を伸ばすようになるそうです。
研究チームによると、ミツバチはわずか数分の訓練で、砂糖水の報酬がなくてもSARS-CoV-2の匂いに反応して舌を伸ばすようになったとのこと。訓練を受けたミツバチはサンプルの匂いにさらされてからわずか数秒で、サンプルがSARS-CoV-2に感染したものかどうかを識別できると研究チームは述べています。
そして研究チームは、この手法で訓練した150匹以上のミツバチを対象に検出精度を調査しました。ミンクや人間から採取したサンプルを用いた実験では、非常に高い精度でSARS-CoV-2に感染しているかどうかを識別することができたとのこと。
一般的な検査手法では、サンプルの提供者がSARS-CoV-2に感染しているかどうかを知るまでに数時間〜数日かかることもあるそうですが、ミツバチを用いた検査ではあっという間に結果が判明します。また、この検査手法は非常に安価であるため、検査キットが不足している国で有益な可能性があると研究チームは主張しました。
既にInsectSenceはミツバチを使った検査手法のスケールアップに取り組んでおり、ミツバチの訓練を行う機械やミツバチを用いたバイオセンサーのプロトタイプを開発しているとのこと。一方、ベルギーのゲント大学でミツバチなどを研究するDirk de Graaf教授は、「これは良いアイデアですが、私はミツバチを使用するよりも古典的な診断ツールを用いて検査を行う方が好みです。私はミツバチが大好きですが、COVID-19の検出以外の目的でミツバチを使いたいと思います」とコメント。今すぐにミツバチを用いた検査が従来の検査手法に取って代わることはないだろうと指摘しました。