●ノイキャン完全ワイヤレスイヤホンの特徴

さまざまなメーカーやオーディオブランドから毎月のように新製品が登場している、左右をつなぐケーブルすらなくした「完全ワイヤレスイヤホン」。なかでも、周囲の騒音を抑えて音楽などを聴きやすくしてくれるノイズキャンセリング(NC)機能を備えた機種が注目を集めています。

ノイキャン完全ワイヤレス注目12機種、使い勝手を一気にチェック


完全ワイヤレスは、今では低価格帯から高価格な機種まで「どれを買えばいいんだろう?」と迷うほどに種類が増え、玉石混交の度合いも激しくなっていますが、それはNC機能を搭載した製品にも言えること。ついつい価格を重視しがちですが、NC機能は音質や使い勝手にも直結するため、後で後悔しない製品選びをしたいもの。

そこで今回は、NC機能を備え、さらに専用アプリなどと連携して使い勝手も高めている完全ワイヤレスイヤホン12機種を、定番機種から比較的新しい製品までピックアップ。NCの効き具合や、スマホと組み合わせたときの操作感を一挙に紹介していきます。

○ノイキャン完全ワイヤレスイヤホンの特徴

今、主流の完全ワイヤレスイヤホンは、基本的にはカナル型とも呼ばれる耳栓状のデザインを採用していて、耳穴に入れるだけでもある程度は外の音をシャットアウトできます(一部のオープン型をのぞく)。イヤホン自体の形状やイヤーピースを工夫して遮音性を高めるのは、パッシブ方式のNCとも言えます。

しかし、たとえば電車の風切り音やエアコンなどの空調機器から出ているノイズなど特定の騒音を抑えるのは、耳栓型のデザインだけでは困難。こういった耳ざわりな騒音を抑えるには、外の音をイヤホン内蔵マイクで取り込み、逆位相の音を当てて打ち消すアクティブNCが必須です。

特にコロナ禍において電車やバス、オフィスや店内など、いたるところで換気を強化しているので、耳に付く騒音をしっかり抑えて音楽を楽しめる製品が欲しい人は多いのではないでしょうか。

基本的なことではありますが、アクティブタイプのNC機能には、イヤホンの外側のマイクで騒音を集めて打ち消すフィードフォワード方式と、内側のマイクで集音するフィードバック方式に大きく分けられ、さらに両方の良いトコロを組み合わせてNC効果を高めたハイブリッドタイプもあります。

もちろん、完全に外の音をシャットアウトしてしまうと電車のアナウンスなどが聞こえなくなくて困るシチュエーションもあるので、NCとは逆に外の音を取り込み、イヤホンを耳から外さずに聞き取る機能も備えているのが一般的です(外音取り込みやアンビエントモードなどの名称で備えていることが多い)。

また、人の耳はサイズや形が千差万別で、NCの効果の感じ方もさまざま。ただ騒音を抑え込めば良いというものではなく、周囲の状況や自分の耳にあわせてNCの効果などを切り替えられると便利です。ワンクラス上のイヤホンでは、専用のスマホアプリを用意することでこうしたニーズに応えており、そのアプリの使い勝手なども大事になってきます。

今回はそうした点をふまえて、2020年に発売されたNC完全ワイヤレスイヤホンの中から注目の12機種をピックアップ。実機を使って使い勝手を試しつつ、最新情報も付記しました。皆様の製品選びの一助となれば幸いです。

Apple「AirPods Pro」

オーディオテクニカ「ATH-ANC300TW」

ボーズ「Bose QuietComfort Earbuds」

Jabra「Elite 85t」/「Elite 75t」

NUARL「N10 Pro」

パナソニック「RZ-S50W」/テクニクス「EAH-AZ70W」

RHA「TrueControl ANC」

ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 2」

ソニー「WF-1000XM3」/「WF-SP800N」

●AirPods Pro / ATH-ANC300TW

○Apple「AirPods Pro」

街中で見かけない日はないくらい、多くの人が身につけているAppleのヒット作「AirPods Pro」。IDC Japanの調査ではアップルが国内市場のスマホ出荷台数のシェア52.6%でトップの座を占めるなど、iPhoneの人気の高さがうかがえますが、やはりスマホがiPhoneならイヤホンもAirPodsシリーズでそろえたい、ということなのでしょう。

AirPods Pro。黒い部分の奥にマイクが内蔵されている


外側と内側の不要な音を低減するハイブリッドタイプのNC機能を装備。オンにすると周囲の余計な音をグッと下げ、エアコンをはじめさまざまな機器から聞こえる騒音や、屋外で車のタイヤが発するロードノイズなどが控えめになり、音楽が聞きやすくなります。総じて音のバランスは良く、NCなしでは外の音でかき消されてしまいがちな高域や低域も聞き取れます。また、外音取り込みをオンにしたときは、小さな内蔵マイクを通しているとは思えないほど自然な音質を実現。基本性能の高さを実感します。

初回のペアリング作業はiOSと連携し、iPhoneの画面でアニメ表示しながらかんたんに進められるようになっているなど、Apple製デバイスとのシームレスな連携機能が作り込まれているのも注目。イヤホンのために新たにアプリを追加したり、連携させる手間がかからない点はAppleならではの強みと言えます。また、対応するコンテンツで立体的なサラウンド音声が楽しめる「空間オーディオ」に対応するなど、ソフトウェア更新でさまざまな機能が強化されているところにも注目です。なお、Appleが推奨する使い方ではありませんが、通常のBluetoothイヤホンとして使うだけなら、Androidスマホともペアリング可能です。

AirPods Proのペアリング時の画面。イヤホンの充電ケースのボタンを長押しすると、手元のiPhoneでペアリング設定アニメが表示される


iPhoneのBluetooth設定画面からAirPods Proの設定をチェック。イヤホンの左右のステム(スティック状の部位)だけでなく、iPhoneの画面からもNCや外音取り込みを切り替えられる。左右ステムの操作割り当ては変更可能だ


付属のイヤーピースが耳に合わなくても、Spinfit(スピンフィット)やSednaEarfit XELASTEC(セドナイヤーフィット・セラステック)、COMPLY(コンプライ)といったサードパーティ製のイヤーピースが市販されており、付属品から付け替えてフィット感を高められます。防水性能はIPX4。連続再生時間は最大4.5時間で、NC/外音取り込みをオフにした場合は最大5時間。ワイヤレス充電対応のケースと組み合わせて24時間以上使えます。

3万円少々(2021年4月上旬)という高価な製品ではありますが、長く人気を集めているのもうなずける仕上がり。そろそろリニューアルされた新製品が登場するのでは? というウワサも聞こえてきていますが、AirPods Proの高い基本性能がどのように進化するか、気になるところです。

SpinFit CP1025を装着したAirPods Pro


○オーディオテクニカ「ATH-ANC300TW」

2019年に発売されたソニー「WF-1000XM3」やApple「AirPods Pro」に続き、比較的早いタイミングでNC完全ワイヤレスの市場投入を明らかにしていたオーディオテクニカ。2020年1月に米国で開催されたCES 2020において、同社初となるNC完全ワイヤレス「ATH-ANC300TW」を披露し、国内では同年5月に発売されました。

NCを搭載した「QuietPoint」シリーズの主力製品と位置づけられており、発売当初の想定売価は約25,000円(税別)でしたが、ネット上では実売2万円を切るところもあり、買いやすくなってきた感があります。

ATH-ANC300TW


イヤホン本体は、指でつまむとすこし大ぶりなサイズ感


フィードフォワード方式とフィードバック方式のハイブリッドNCで自然で疲れにくい騒音低減を追求。NCの強さは専用アプリで選べるようになっており、飛行機の中、屋外向け、屋内向けという3つのモードが利用可能。外音取り込みはLow/Mid/Highの3段階が選べて、イヤホンを使うシチュエーションにあわせてカスタマイズできるようになっています。音の傾向は、ニュートラルでさまざまな音楽をていねいに鳴らしていくサウンドで、万人受けしそうな印象です。

専用アプリ「Audio-Technica|Connect」のホーム画面


NCと外音取り込み、オフのいずれかが選べる


NCは飛行機の中、屋外向け、屋内向けの3つのモードが利用できる


落ち着いた上質なデザインも目を惹き、大人向けの逸品といえそうです。4サイズのイヤピースと、コンプライのフォームイヤピースを付け替えられ、装着性も問題なし。連続再生時間は最大約4.5時間、充電ケースを併用すると最大18時間再生できます。

左右イヤホンの物理ボタンに割り当てられた設定は、パターンA/Bで左右の入れ替えが可能


●QuietComfort Earbuds / Elite 85t/75t

○ボーズ「Bose QuietComfort Earbuds」

NC製品の先駆的メーカーであるボーズから登場した「Bose QuietComfort Earbuds」は、同社初のNC完全ワイヤレスイヤホン。20年にわたる「QuietComfortシリーズ」のNC搭載ヘッドホンの伝統を継承し、耳に収まる小さなサイズながら同等のパフォーマンスを追求したとしています。実売価格は約33,000円。

Bose QuietComfort Earbuds


外側と内側のノイズを抑えるハイブリッドタイプのアクティブNCと、装着感を高める新たなStayHear MaxチップによるパッシブNCの合わせ技で騒音を強力に低減。さらに、11段階(0〜10)で調節できるノイズコントロール機能が備わっており、NCの強さを好みに合わせて設定可能です。専用アプリでNCの効き具合を3つまで「お気に入り」に登録しておくことができ、左側のイヤホンの表面を指で2回タップすると順番に切り替わります(デフォルト設定は「10」「5」「0」)。

専用アプリ「Bose Music」のホーム画面


イヤホンにタッチするだけでNC効果の強さを切り替えられるのは便利なものです。たとえば電車の中ではNCの強さを最大まで上げて音楽を楽しみ、駅のホームなど外の音も聞きたい状況では外音取り込みを最大にすることで周囲を確認。歩道を歩きながら音楽も楽しみたいときはほどほどのNCに設定するといった操作が手軽に行えます。外音取り込みの音質も、イヤホンを耳に付けたままとは思えないほどクリアで、この点はAirPods Proといい勝負です。

NCのデフォルトのお気に入り設定。自分でNCの効き具合をカスタマイズすることもできる


サウンドに関しては中高域はクリアでありつつ、やや厚めの低域に特徴があり、ロックやポップス向きの音質という印象を受けました。操作面では、左イヤホンのショートカット機能(長押し)でバッテリー残量チェック、もしくは曲送りが選べるほか、2020年12月のアップデートで右イヤホンの表面を指でなぞる(スワイプする)と音量を調節できるようになりました。ただ、スマホとBluetoothではつながっているのに、アプリ上でイヤホンを認識しない状態がまれに発生する点は気になります。

左イヤホンのショートカット機能の設定画面


右イヤホンのスワイプ操作で音量調節も可能


装着感を高めたイヤーフック付きのイヤーピースが3サイズ付属します。連続再生時間はイヤホン単体で最大約6時間、ワイヤレス充電対応のケースと組み合わせると計18時間。イヤホンや付属の充電ケースが、完全ワイヤレスイヤホンとしては比較的大きめな点は好みが分かれそうです。

イヤーピースにはイヤーフックが一体になっている


イヤーピースを外したところ


○Jabra「Elite 85t」/「Elite 75t」

デンマーク発のオーディオブランド・Jabraから2020年に登場したNC完全ワイヤレス「Elite 85t」は、片側に3基、左右あわせて6基のマイクを使い、NC機能とハンズフリー通話における品質を高めた製品です。実売価格は約29,480円。

Elite 85t(左)、Elite 75t(右)


同じく2020年には、既に発売されていた完全ワイヤレス「Elite 75t」、「Elite Active 75t」にファームウェアアップデートを提供し、無料でアクティブNC機能を追加しています。今回は上位機種のElite 85tと、NC機能が追加されたElite 75t(実売約14,480円)をピックアップしました。

Elite 85tとElite 75tのデザインは双子のように似ていますがサイズは85tのほうがやや大きく、アクティブNC機能は前者がフィードフォワード/フィードバック方式のハイブリッドタイプでANC専用のチップセットも搭載、後者はフィードフォワード方式のみという違いがあり、75tはマイクの数も左右合わせて4つと少なめです。

イヤホン本体のサイズはElite 85t(左)のほうが、Elite 75t(右)よりもやや大きい


このため、NC性能はElite 85tのほうが騒音低減の面で優れていますが、Elite 75tも後から追加されたとは思えないほど良く効きます。電車に乗って試してみたところ、空調ノイズや風切り音はどちらもしっかり抑え込んでおり、金属質で耳ざわりな騒音などは85tのほうがより抑えられていました。外音取り込み(HearThroughモード)を使ったときの音質には顕著な差があり、85tの外音の自然さと比べると75tはやや不自然さが残ります。

専用アプリ「Jabra Sound+」でElite 85tのステータスを表示したところ


専用アプリ「Jabra Sound+」でElite 75tのステータスを表示したところ


専用アプリを利用するとNCの効き方を細かく調整できるほか、自分の耳に合わせてNCの効き方や音質をパーソナライズしたり、通話時の品質を調節したり、イヤホン本体の物理ボタンの操作を任意の機能(着信応答など)に割り当てたりできます。音楽再生時のイコライザーや、作業に集中したいときに波の音など環境音をひたすら流す機能、イヤホン紛失時の探索機能も備わっているという多機能ぶり。iOS版では、ウィジェットにこのアプリを登録しておくと、アプリを立ち上げることなくNCモードの切り替えや外音取り込みのオン/オフができます。

Jabra Sound+では、NCや外音取り込みを含むサウンドモードやイコライザー(音楽プリセット)を切り替えられるほか、作業に集中したいときに海の波の音など環境音を流し続ける機能(サウンドスケープ)も利用できる


NCの効き具合をあらかじめパーソナライズできる


MySound機能で音質をパーソナライズすることも


iOS版のJabra Sound+をウィジェット画面に登録したところ


搭載ドライバーのサイズは85tが12mm、75tが6mmで、サウンドについては前者は比較的フラットでジャンルをそれほど選ばず、後者はEDMやロック向きの低域に比重を置いた元気な雰囲気という感じで、得意なジャンルや音の傾向が異なります。85tの特徴は、耳の内部に圧力がかかるのを防ぐベントを備えたセミオープンデザインになっており、長時間耳に着けていても疲れにくいところ。上位機らしく装着感にも配慮した設計になっています。

Eliteシリーズならではの機能として、どちらも同時に2台のデバイスと接続できるマルチポイントに対応しているので、仕事用とプライベート用のスマホを使い分けていて同じイヤホンを使いたい向きには貴重な存在と言えそうです。また、どちらのケースもワイヤレス充電に対応しており、シャツの胸ポケットに収まるくらいコンパクトなサイズも好印象。NCオン時の連続再生時間は、イヤホン単体ではどちらも5.5時間。充電ケースと組み合わせたときは85tが最大19.5時間、75tが最大18.5時間となっています。

●N10 Pro / RZ-S50W / EAH-AZ70W

○NUARL「N10 Pro」

「ナチュラルな心地」「ニュートラルな存在」にこだわり、ポータブルオーディオマニアの間で知名度の高いNUARLブランドから2020年に登場した「N10 Pro」。NCや音質だけでなく、専用アプリが使いやすいところも特徴的な完全ワイヤレスです。実売価格は約21,450円。

N10 Pro


フィードフォワード/フィードバック式のハイブリッドタイプのNC機能や、イヤホンを耳にはめたまま周囲の音が聞ける外音取込み機能を装備。NCは「音質優先」、「バランス」、「ANC優先」の3つのモードがあり、使うシチュエーションにあわせて選べるようになっています。ホワイトノイズが若干乗る傾向がありますが、付属のイヤーピースで耳にしっかり装着すると周りの騒音がほどよく抑えられます。

専用アプリ「NUARL N10 Connect」のホーム画面。NCの効き具合は「音質優先」、「バランス」、「ANC優先」の3つから選べる


外音取り込みは、音楽を聞きながら外の音も確認できる「標準」、「音量小」と、音楽を止める「一時停止」の3種類から選べる


専用アプリは、縦長の1画面のみですべての設定が完結するようデザインされているのが特徴で、ユーザビリティに優れている印象。画面の切り替えがほぼないので「あの設定どこだっけ……」と迷わず使え、アプリの使い方を覚えていなくても、すぐに目当ての設定を探せます。

専用アプリ「NUARL N10 Connect」の画面全体(中央)。1画面ですべての設定が行えるのが特徴


また、物理ボタンが片側イヤホンに2つ(メイン・サブ)ずつ、計4つ備わっているので、スマホの画面を見ずに音楽再生/停止/曲送り/曲戻しや音量調整、NCや外音取り込みといった操作も簡単です。NCオン時の連続再生時間は、イヤホン単体では最大5時間。充電ケースと組み合わせると最大30時間使えます。

イヤホン本体に2つ(メイン・サブ)の物理ボタンを装備。サイズはやや大きめ。付属のイヤーフックで耳にフィットする


独自の10mm径ダイナミック型ドライバー「NUARL DRIVER [N10]v3」や、自然な音の広がりを再現するHDSS技術を採用しており、NCオフ時にはバランスの良いサウンドが目の前に広がる感じ。NC効果が強くなると分かりやすく音が変化しますが、たとえばスポーツジムなどで身体を動かしつつ音楽にも浸りたい……といった用途ではさほど気にならなさそう。アプリのイコライザー機能を使って自分好みの音にカスタムすることもできます。

なお、2020年12月までに製造されたN10 Proの一部で、音途切れが頻発するという不具合が確認されていますが、NUARLブランドを展開するエム・ティ・アイが製品の無償交換プログラムを実施中。2021年1月以降に製造された製品については同様の問題は起きていないということです。

○パナソニック「RZ-S50W」/テクニクス「EAH-AZ70W」

パナソニックは、テクニクスとパナソニックの両ブランドからNC完全ワイヤレスイヤホンを発売しています。パナソニックからは「RZ-S50W」、音質にこだわりを持つテクニクスからは「EAH-AZ70W」という型番で登場しており、前者は実売約16,500円、後者は実売約27,000円。

RZ-S50W


EAH-AZ70W


パナソニック「Panasonic Audio Connect」アプリでRZ-S50Wのステータスを表示したところ


「Technics Audio Connect」アプリでEAH-AZ70Wのステータスを表示したところ


どちらも「デュアルハイブリッドノイズキャンセリング」技術を搭載しているのが特徴で、外側のフィードフォワードNCでは精密な処理が可能なデジタル制御、内側のフィードバックNCには処理の遅延が少ないアナログ制御を組み合わせることで高精度なノイズ低減処理を行います。決して強いNCではありませんが、電車に乗っているときに気になる外の音はきっちり抑え込んでおり、聞いている音楽にNCが影響して違和感を覚えることもありません。イヤホンを耳につけたまま外の音を聞くことも可能。NCと外音取り込みのレベルは専用アプリから100段階で細かく調整できます。

アプリからNCの効き具合を100段階で調整可能


外音取り込みのレベルもアプリから100段階で調節できる


テクニクスのEAH-AZ70Wは10mm径ダイナミック型ドライバーユニットを搭載し、内部の音響構造も工夫することでヌケの良い自然なサウンドを実現。一方、パナソニックのRZ-S50Wには8mm径ダイナミック型ドライバーユニットを備え、クリアな中高域と豊かな低域が心地良いサウンドにチューニングされています。

アプリでは低音を強化する「バスエンハンサー」や、イコライザーによる音のカスタマイズ、バッテリー残量確認、イヤホン本体のタッチセンサーの機能割当カスタム、紛失時の探索機能、イヤホンのLED点滅オン/オフなどを設定可能。各ブランドごとにユーザーインタフェースのカラーが異なりますが、アプリでできることはほぼ同じです。

接続性安定のために、パナソニックがデジタルコードレス電話機で培った開発ノウハウを応用。MEMSマイクやビームフォーミング技術によって、2つの通話用マイクで送話の音声をクリアにしつつ、風切り音も減らす構造を採用するなど、通話品質にもこだわっています。イヤホン本体のソフトウェアやアプリも都度アップデートされ、使い勝手が向上しています。

NCオン時の連続再生時間はどちらも約6.5時間で、NCオフ時は約7.5時間。付属の充電ケースと組み合わせると、NCオン時は約19.5時間、NCオフ時は約22.5時間音楽を聴けます。

●TrueControl ANC / MOMENTUM True Wireless 2

○RHA「TrueControl ANC」

英国スコットランドの“音楽の都”グラスゴーに本拠を構えるオーディオブランド、RHA。2020年末に登場した、同ブランド初のNC完全ワイヤレス「TrueControl ANC」(実売約33,830円)は、フィードバック方式のアクティブNCと、耳の中にピッタリフィットするパッシブNCの合わせ技によって、NC常時ONでも自然なサウンドを追求しています。

TrueControl ANC


イヤホン本体は耳穴(外耳孔)だけでなく、その周囲のくぼみを埋めるようにフィットするデザイン


専用アプリにはNCや外音取り込みのモード切り替えのほか、イヤホン本体のタッチセンサーの機能割当カスタム、イコライザー設定、耳からの着脱をセンサーで検出すると自動で音楽を一時停止/再生する「装着検出」機能のオン/オフを切り替えるといった設定項目があり、必要十分な機能が備わっている印象です。

専用アプリ「RHA Connect」のホーム画面


NCと外音取り込みのモード切り替え画面


全体の傾向としては、ニュートラルなバランスの良さが耳に心地よく、NCやアンビエントモードをオン/オフしても、音質が明確に変化するようなことがないので安心してNCを併用できます。より強い騒音低減を求めるならイヤーピースを付属のフォームタイプに付け替える必要があります。なお、外音を取り込むアンビエントモードはアプリで取り込むレベルを調節できます。

連続再生時間は5時間(NCオン時)。ワイヤレス充電対応のケースと組み合わせると最大20時間再生できます。Androidスマートフォンに 近づけるだけでペアリングできる「Google Fast Pair」に対応しており、初回の接続設定はかんたんに済みます。

○ゼンハイザー「MOMENTUM True Wireless 2」

音質に強いこだわりをもつゼンハイザーから登場した「MOMENTUM True Wireless 2」。独自開発の7mm径ダイナミック型ドライバーを搭載し、外側のフィードフォワード方式のNCと、イヤホン自体の形状を耳穴にフィットさせて遮音するパッシブなNC効果を組み合わせることで静けさと高音質の両立を目指しています。

MOMENTUM True Wireless 2


イヤホン本体は持ってみると少し大きく感じるが、耳の中に自然に収まるサイズ


業務用マイクなどプロフェッショナル機材でも知られるゼンハイザー。MOMENTUM True Wireless 2の発表時には「ノイキャンは強ければ良いというものではない」という理念を掲げ、徹底して音楽の質にこだわった設計を採用しています。それもあって、不要な外の音を抑え込むNC効果はかなり高いレベルでありながら、一般的なNC搭載イヤホンで起きやすい、音質へのNCによる悪影響はほぼ感じられません。外音取り込みはわずかに「マイクを通して聞いている」感じはするものの、ごく自然なレベルです。

専用アプリにはイヤホン本体のタッチセンサーの機能割当カスタム、イコライザー設定、イヤホンの着脱で音楽を一時停止・自動再生する「スマートポーズ」のオン/オフ切り替えといった設定項目があります。

専用アプリ「Sennheiser Smart Control」のホーム画面


音質を調整するイコライザーは、周波数帯のバンドを調整する画面のほかに、音波のような曲線をタッチしてグラフィカルに調整する画面も選べる


さらに、「音場が広くなる」、「音の定位がつかみやすくなる」というHigh-End Sound Tuningモードがアップデートで加わっており、音楽だけでなく動画などの音声もより臨場感豊かに楽しめるようになりました。イヤホンのファームウェアバージョン「4.13.0」以降と最新版の「Smart Control」アプリが必要で、従来のOriginal Modeも利用できるので、好みに合わせてサウンドのキャラクターを選べます。

連続再生時間はイヤホン単体で最大7時間、充電ケースと組み合わせると最大28時間。実売価格は約37,400円と、今回のラインナップの中では最も高価な製品ですが、完全ワイヤレスイヤホンでも音質に妥協したくない向きには、実際に試聴してその実力を確かめて欲しい製品です。

●WF-1000XM3 / WF-SP800N

○ソニー「WF-1000XM3」/「WF-SP800N」

ソニーのNC完全ワイヤレスには、このカテゴリーの定番機種として知られる「WF-1000XM3」(実売約23,450円)や、屋内外のスポーツユースを想定して防水・防じん性能や装着感を高めた「WF-SP800N」(実売約24,880円)があります。特に人気の高いWF-1000XM3は、発売当初の想定売価は2万円台の後半でしたが、執筆時点では実売価格が2万円台前半まで下がってきています。

WF-1000XM3


WF-SP800N


WF-1000XM3は、独自開発のNCプロセッサ「QN1e」、フィードフォワード式とフィードバック式のNCを組み合わせて精密にノイズを集める「デュアルノイズセンサーテクノロジー」、耳の3点で本体を支える新構造「エルゴノミック・トライホールド・ ストラクチャー」で耳にしっかりフィットする設計を採用。

こうした設計により高いNC性能を発揮しますが、一方でイヤーピースが耳の奥まで入るタイプということもあって、NCオン時の閉塞感はやや強め。サウンドに関してはあらゆる音源をバランス良く鳴らす印象で、独自技術「DSEE HX」によって圧縮音源でもハイレゾ相当の音質にアップサンプリングしてくれるという強みもあります。NCオン時の連続再生時間はイヤホン単体で最大6時間、充電ケースとの併用で最大24時間。

専用アプリ「Sony|Headphones Connect」でWF-1000XM3のステータスを表示したところ


一方のWF-SP800Nは、屋内ワークアウト時にNC、屋外でのランニング時に外音取り込みを活用することを提案しているスポーツユースモデル。高音質な音楽リスニングを追求しているWF-1000XM3とは位置づけが異なり、NC効果はWF-1000XM3よりは抑え気味でほどほどに効く印象です。スポーツ時には外の音も聞こえた方が安心できるので、外音取り込み機能を積極的に活用したいところ。

重低音再生を強化した「EXTRA BASS」サウンドが特徴。身体を動かすときのお供にするには十分な機能を備えています。NCオン時の連続再生時間はイヤホン単体で最大9時間、充電ケースとの併用で最大18時間。

専用アプリ「Sony|Headphones Connect」でWF-SP800Nのステータスを表示したところ。ペアリングした製品やカラーリングにあわせて、ホーム画面のカラーなどが変化する


ソニーならではの特徴は、「アダプティブサウンドコントロール」機能への対応。イヤホンなどとペアリングしたスマートフォンの加速度センサー情報を元に、アプリが「止まっている時 / 歩いている時 / 走っている時 / 乗り物に乗っている時」という4つの行動パターンを認識し、NCと外音取り込みのバランスを自動的に調節してくれるというものです。

アダプティブサウンドコントロールの設定画面。電車などに乗っているときは、特にアプリを操作しなくてもNCが自動でオンになる


歩いているときは外の音を取り込むこともできる。さらにボイスフォーカスにチェックをいれると、騒音を押さえつつアナウンスなど人の声を取り込んで音楽と一緒に聞けるよう設定できる


さらに、自宅や職場、駅、ジムなど、自分がよく行く場所で使いたいNC/イコライザーモードをあらかじめ設定しておくと、手動で切り替えなくてもアプリがその場所にあわせたモードに自動で切り替えてくれるように機能強化されています。アプリから都度モードを切り替える必要がないのでとても便利な機能です。

自分がよく行く場所で使いたいNC/イコライザーモードをあらかじめ設定しておくと、アプリが場所を認識して設定したモードに自動で切り替えてくれる


また、両機種ともソニーが国内本格導入を発表した、独自の立体音響技術「360 Reality Audio」認定モデルとなっているところも要注目。手持ちのスマートフォンと組み合わせ、アプリを活用して個々の耳の形やヘッドホンの特性に最適化すると「音に包まれ、アーティストが目の前にいるかのような体験が楽しめる」という360 Reality Audioの体験を、さらにアップグレードできるとのこと。継続的な機能強化が行われる点も、ソニー製品の魅力といえるでしょう。

立体音響技術「360 Reality Audio」のイメージ。ヘッドホンで通常の音源を聴く場合(左)とは異なった体験を、ソニー独自の立体音響技術で実現する(右)