スライドドアSUV「Tjクルーザー」は幻か なぜSUVに需要あるスライドドア車は市販されない?
なぜSUVにスライドドア搭載車が市販化されないのか
近年の軽自動車では、スライドドアを搭載するモデルが人気になる傾向があるほか、ミニバンでも定番装備となっています。
一方でボディタイプとしてはSUV人気が依然として続いていますが、「SUV×スライドドア」という組み合わせは市販化されていません。
なぜ人気要素を組み合わせたモデルは登場しないのでしょうか。
かつての乗用車はヒンジドアが定番で、スライドドアは商用車など荷物の出し入れをメインにおこなうモデルに限られていましたが、近年は状況が変化しています。
【画像】これがスライドドア付きSUV「Tjクルーザー」 三菱「エクスパンダークロス」と合わせて見る!(21枚)
ミニバンでも、トヨタ「ウィッシュ」やホンダ「ストリーム」など、背が低くてスライドドアではなくヒンジドアを備えるモデルが人気だったこともありますが、2010年代以降、ヒンジドアを搭載したミニバンはほぼ消滅。
スライドドアのメリットである、狭い場所でも乗り降りがしやすいという部分や、開閉時にクルマや障害物にドアを当てる可能性が少ないことなどがユーザーから評価された結果、現在では定番化した装備となっています。
実際、軽自動車においても全高1700mm以上かつスライドドアを搭載するホンダ「N-BOX」、ダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」などが人気を博しています。
その一方、トヨタは2017年10月に開催された「東京モーターショー2017」にて、バンの積載性能とSUVの力強いデザインを融合させた新ジャンルのクロスオーバーコンセプト「Tj CRUISER(Tjクルーザー)」を世界初披露しました。
外観デザインは、バンのようなユーティリティの高さを感じられるスクエアなキャビンに、SUVらしい大径タイヤによるしっかりとした足回りと、力強いフロントビューを融合させ、それぞれの良さを両立させています。
内装は、助手席側をフルフラットにすることができ、ロングサーフボードや自転車など、約3mもの大きな荷物を楽に積み込むことが可能で、「仕事」と「遊び」を垣根なく楽しむ新たなライフスタイルでの使用をイメージさせた、とトヨタは説明しています。
Tjクルーザーのスペックは、全長4300mm×全幅1775mm×全高1620mmの4人乗りとし、次世代のTNGAプラットフォームを想定。パワートレインには、2リッタークラスのエンジン+ハイブリッドシステム、駆動方式は前輪駆動および4輪駆動を採用する予定だといい、市販化に向けて具体的なコンセプトを公表していました。
2020年には、Tjクルーザーが登場するのではないかという噂が出ていましたが、最終的に姿を現すことはありませんでした。
もし登場すれば人気が出ると思われましたが、流行りのSUVにスライドドアを搭載するモデルは見かけません。SUV×スライドドアが実現しない理由とは、どのようなものがあるのでしょうか。
クルマのコンセプトモデルや仮装車などを手掛ける専門店の担当者は次のように市販化されない要因を説明しています。
「スライドドアを搭載するSUVが市販化されない要因として、構造上の問題が挙げられます。
まず、スライドドアは一枚の大きなドア部分と可動部分(モーター含む)、ボディ側のレール部分から構成されています。
基本的に、ミニバンのようにスクエアなボディだからこそこのスライドドアは成り立つこともあり、最近のSUVみたいなエッジや曲線のボディラインでは難しいといえます。
また、最近では燃費向上がマスト要件で、そもそも車重が重いSUVに電動スライドドアを搭載すると燃費悪化となり、その部分でもさまざまな工夫をしなければいけません。
これらの要素は、もちろん技術的にクリアすることは可能だと思いますが、いざ量産化する際にその開発コストを掛けた分、売れるのかは未知数です。
そうすると、すでに「ミニバン=スライドドア」、「SUV=ヒンジドア」というイメージが確立されているため、わざわざ新たに新ジャンルを生み出すリスクを背負う必要はありません。
もちろん、パワートレインなどの技術面では革新は必要ですが、ボディタイプや装備類に関しては、一定の領域で落ち着いているといえます」
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SUVにスライドドアを搭載することにはさまざまな弊害があるようですが、ミニバンをSUV風に仕立てたモデルはいくつか存在します。
日本市場においては、三菱「デリカD:5」がその代表となり、「ミニバンとSUVの良さを持つ唯一無二の存在」といわれるなど、SUVならではの悪路走破性能を有しつつ、ミニバンの室内空間の広さや使い勝手の良さを実現。
また、日本独自の軽自動車市場では、スペーシアにSUV風テイストを盛り込んだ「スペーシアギア」もラインナップしています。
しかし、海外に目を向けると北米や欧州ではスライドドア搭載車の人気は高いとはいえず、アジア市場では現在もヒンジドアを搭載するミニバン(現地ではMPV)が人気を博しています。
実際に、アジア市場では三菱からデリカD:5と同じような「ミニバン×SUV」といった特徴を持つ「エクスパンダークロス」が展開されていますが、ヒンジドア搭載車です。
このように、一見人気の要素を掛け合わせると魅力的なモデルが誕生するかと思われますが、現実的な販売は厳しい状況だといえます。
実際に国内の販売台数を見ると、ミニバンやSUVといった単体モデルのほうが人気ということもあり、「SUV×スライドドア」の市販化は難しいようです。
「SUV×スライドドア」に需要はあるのか?
では、ユーザーは「SUV×スライドドア」に対して、どのようなイメージを持っているのでしょうか。
くるまのニュースでは、「SUVにスライドドアを設定してほしいですか」というアンケート(自由回答)を実施。
ユーザーからの反響は、「欲しい」「要らない」という意見が半々に分かれる結果になっています。
「欲しい」を選んだユーザーは「SUVこそスライドドアかと…車高が高いと、乗り込むのにヒンジドアではそれなりに開けなければなりませんし…」、「アウトドアが趣味、でも子育てではスライドドアは必須なので」、「子育て中でもミニバン以外に乗りたい」といった意見が挙げられました。
一方で「要らない」を選んだ人では、「ミニバンがあるから要らない」、「クロスオーバーSUVには要らない」といったそれぞれのモデルがあればいいという意見以外に、「SUVにスライドドアを付けたいならデリカD:5を買えば良い」という意見が大半を占めました。
では、「ミニバン×SUV」のコンセプトを強みとするデリカD:5では、ユーザーからどのような反響があるのでしょうか。三菱の販売店スタッフは次のように話します。
「デリカは、ミニバンならではの広い室内空間とSUVならではの悪路走破性能を持っている唯一無二のモデルとして認知されています。
最近では、既存オーナーや他社ミニバンオーナーが検討されるケースもあります。
とくに、新型コロナ禍により、クルマでの移動やアウトドア、キャンプが注目されていることもあり、家族で乗れるデリカへの問合せは増えている印象です」
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かつて、バブル期のクルマでは、採算度外視ともいえる奇抜なコンセプトを持つモデルが登場しました。
しかし、昨今の自動車メーカーでは、「選択と集中」というようにプラットフォームの共通化が進むほか、スポーツモデルなどを除き販売台数が見込めないモデルが市販化されることのハードルは高いようです。