夫以外に複数の「恋人」がいる妻。世間からなにを言われても貫く理由
グラフィックデザイナーで絵本作家の西出弥加さんは、発達障害(ASD)という特性をもち、ADHDの光さんと結婚。ESSEonlineでは結婚生活をつづってくれていますが、光さん以外にも複数の恋人の存在があることを告白してくれました。どのような事情があるのか、西出さんに語っていただきました。
ESSEonlineでも連載中の西出弥加さん
複数の恋人がいることを「ポリアモリー」と呼ばれ、徐々に耳にするようになってきました。ギリシア語の「複数」(poly)とラテン語の「愛」(amor)に由来する造語で、パートナーの同意を得て、複数のパートナーとの恋愛関係を結ぶこと…が定義と言われています。結婚している場合だと、一夫一婦制に反するということで非道徳だとされていましたが、最近だとケースとして目にすることも増えています。
――西出さんの恋人の存在は夫の光さんも認識していて、みんなが納得しているあたりはポリアモリーということになりますか?
西出:好きになる対象が複数人になる傾向は昔からありました。自分自身がポリアモリーであるか調べたことがあり、共感する部分はたくさんありました。ただ、その定義のなかで決定的に異なることがあります。
私は確かに複数人を好きになりますが、複数人と性的関係は持てないことです。もちろん、複数人と性愛を築くことを否定しているわけではありません。
ポリアモリーについて調べると、複数と性愛を築くということも出てきたことがありますが、私の場合は、性愛の「性」を抜いて「愛」の関係を複数とつくることで安心感を得ています。
そして私自身が定義している恋人は、「家族」という立ち位置に近く、複数人とつき合うことは“疑似家族形成”でもあります。血のつながりはないけれど互いに深くわかり合える人たちを集めた関係性です。恋愛というより、家族関係のような助け合いが行われています。
もしかすると世間では親友と表現するのかもしれません。私のなかでは親友より近いイメージがあり「恋人」と表現していました。
――複数の恋人と家族的な親密な関係をつくってきたのは、結婚前からでしょうか?
西出:そうです。この複数の恋人たちとの関係性が定着したのは結婚前からでした。長くなるので割愛しますが、私自身も幼少期からのトラウマで愛着形成の方法が独特になっています。1人の人とつき合うと意識が飛んで倒れてしまうことがあり、互いに疲弊して、命の危険に陥ることもありました。複数の恋人をつくれば、一人を苦しめることがない。同じ価値観の人を集めて、みんなで仲よくしようと思いました。そうすることでみんなの心が平和になったのです。
きっとはたから見たら「複数人とつき合っている都合のいいやつ」と見えているかもしれませんが、私たちは全員が納得したうえで形成した関係なので、ケンカになったことは一度もありません。
――現在は何名の恋人がいらっしゃるのでしょうか?
西出:現在は男性と女性含め5人です。一人は10年以上のつき合い、もう一人は8年、もう一人は2年…。年齢は30歳以上年上の人から1歳年上の人までバラバラです。既婚者もいれば彼氏がいる人もいますが、私はその人の奥さんや、彼氏とも仲よくしています。全員がコソコソとつき合っていることはなく、みんなが納得したうえでこの関係に落ち着きました。私が家に遊びにいくときは奥さんが駅まで迎えに来てくれたりします。いちばんうれしかったのは、海に入るときに奥さんが服をいっぱい持ってきて貸してくれたこと、子どもと一緒に書いた手紙をくれたことでした。この前は私のつき合う彼女の彼氏から、その彼女の相談をされました。私はこういうとき、兄弟親戚みんなで仲よくしている気持ちになります。
――結婚は1人の人を選ばないといけない制度ですが、光さんと結婚を決めた理由を教えてください。
夫の光さん(左)と。現在はお互いが納得して離れて暮らしています
西出:私は、もともとは好きな相手とは「結婚」という形を取りたいと思う人間でした。契約が存在しない関係性が得意ではないからです。基本的に結婚という目に見えてわかる契約を結ばないと今でも安心できません。自分がもっとも安心できる要素を相手にも渡したいと思ったので婚姻関係に至りました。
そして、夫の光くんと結婚したもうひとつの理由は、私が恋人の話をしたときに笑顔で聞いてくれたからです。私が話さずとも、ポリアモリーということも知っていて、「いい関係だね」と泣いてくれたこともありました。「自分以外の男の話をするな」と怒られそうだと思っていたのですが、夫はなにもストレスを感じていませんでした。
また、夫は7歳年下だったこともあり、守られるよりは私が守りたいという思いが強かったのもあります。出会った当初、夫は複数人に傷つけられる出来事が繰り返されていました。私も似た経験を持ち、同じような20代を歩ませてしまったらトラウマになるのではと、とても怖く、結婚して守ろうと思ったのです。「この人に恋人ができるまで、私が結婚して家族でいよう」と思ったのが始まりです。
――光さんご自身も弥加さんを受け入れてくれたんですね。
西出:夫も、私のすべてを愛してくれました。「大人だから」「女だから」と決めつけずに、表面を見ないで私に接してくれました。トランスジェンダーや発達障害、過去のトラウマによる愛着の問題…掘り起こせばいろんなものを抱えている私を「とくになんの問題も見つからないよ?」という姿勢で一緒にいてくれました。光くんは毎日、私を肯定する言葉をかけてくれます。
――結婚したことで、ほかの恋人はどのような反応だったのでしょう?
西出:結婚したいと思ったとき、恋人全員に光くんを会わせました。みんな祝福してくれました。私たちは嫉妬も束縛もない、家族のような関係だからなのかもしれません。恋人…とは言っていますが、感覚としてはお兄ちゃんやお姉ちゃんに紹介したようなものです。ESSEonlineの記事で結婚を公表したとき、それをいち早く見つけて「本当に結婚したんだね!! おめでとう! 次の記事待ってるよ!」とみんな連絡をくれました。
――結婚していても、恋人たちとの関係性に変化はない…ということですよね?
西出:だれがいちばん好きなのだと聞かれることがあるのですが、私からしたら、長男、二男、三男みたいな感覚なので、「どの息子がいちばんなわけ?」と聞かれているようで悲しくなります。一人いなくなってもほかにもいるから大丈夫だとか、だれかをいちばん好きだから贔屓するという感覚もまったくないです。みんな同じ感覚で向き合っています。夫の光くんに連絡を入れるように、みんなとも頻繁に連絡を取っています。
――夫以外の恋人…というとどうしても非道徳であるという世間からの批判も起きやすくなってしまいますね。
西出:ポリアモリーだという人にはさまざまな事情があるので、一概にも非道徳とは言えませんし、私自身は浮気や不倫をしてだれかを傷つけることを勧めているわけではありません。ここには人間関係が発生するので、全員の価値観が合致している必要があると思います。でもそこがクリアできれば第三者からなんと言われようが、貫けばいいと思います。私は常識を意識して自分や他者を傷つけるより、たとえおかしいと思われようが自分と大切な人を傷つけない選択をした方が後悔しないと思います。
それに、常識に囚われて自分が壊れそうで苦しいと悩んでしまうくらいなら、自分にとっての快適な世界を気の合う人同士でつくればいいと思っています。同じ感覚を持った人同士で集まることは容易ではありませんでしたが、約10年試行錯誤してやっとつくれました。私は、まだまだ生きづらさを抱えていますが、今のこの関係のおかげで何とか日々の生活を送れています。
最後に。夫のことは大好きだし、結婚してよかったと心から思っています。こんなに愛情をくれる人はほかにいない。だからこそ、夫にも恋人ができて満たされているのなら、私も夫とその人たちを祝福します。家族みんなが満たされる関係をこれからも築いていきたいです。
<取材・文/ESSEonline編集部>
絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。Twitterは@frenchbeansaya
ESSEonlineでも連載中の西出弥加さん
結婚前からずっと複数の恋人がいる。自分にとっては一番安心な人間関係
●プラトニックな関係だけど「恋人」と表現する理由
――西出さんの恋人の存在は夫の光さんも認識していて、みんなが納得しているあたりはポリアモリーということになりますか?
西出:好きになる対象が複数人になる傾向は昔からありました。自分自身がポリアモリーであるか調べたことがあり、共感する部分はたくさんありました。ただ、その定義のなかで決定的に異なることがあります。
私は確かに複数人を好きになりますが、複数人と性的関係は持てないことです。もちろん、複数人と性愛を築くことを否定しているわけではありません。
ポリアモリーについて調べると、複数と性愛を築くということも出てきたことがありますが、私の場合は、性愛の「性」を抜いて「愛」の関係を複数とつくることで安心感を得ています。
そして私自身が定義している恋人は、「家族」という立ち位置に近く、複数人とつき合うことは“疑似家族形成”でもあります。血のつながりはないけれど互いに深くわかり合える人たちを集めた関係性です。恋愛というより、家族関係のような助け合いが行われています。
もしかすると世間では親友と表現するのかもしれません。私のなかでは親友より近いイメージがあり「恋人」と表現していました。
――複数の恋人と家族的な親密な関係をつくってきたのは、結婚前からでしょうか?
西出:そうです。この複数の恋人たちとの関係性が定着したのは結婚前からでした。長くなるので割愛しますが、私自身も幼少期からのトラウマで愛着形成の方法が独特になっています。1人の人とつき合うと意識が飛んで倒れてしまうことがあり、互いに疲弊して、命の危険に陥ることもありました。複数の恋人をつくれば、一人を苦しめることがない。同じ価値観の人を集めて、みんなで仲よくしようと思いました。そうすることでみんなの心が平和になったのです。
きっとはたから見たら「複数人とつき合っている都合のいいやつ」と見えているかもしれませんが、私たちは全員が納得したうえで形成した関係なので、ケンカになったことは一度もありません。
――現在は何名の恋人がいらっしゃるのでしょうか?
西出:現在は男性と女性含め5人です。一人は10年以上のつき合い、もう一人は8年、もう一人は2年…。年齢は30歳以上年上の人から1歳年上の人までバラバラです。既婚者もいれば彼氏がいる人もいますが、私はその人の奥さんや、彼氏とも仲よくしています。全員がコソコソとつき合っていることはなく、みんなが納得したうえでこの関係に落ち着きました。私が家に遊びにいくときは奥さんが駅まで迎えに来てくれたりします。いちばんうれしかったのは、海に入るときに奥さんが服をいっぱい持ってきて貸してくれたこと、子どもと一緒に書いた手紙をくれたことでした。この前は私のつき合う彼女の彼氏から、その彼女の相談をされました。私はこういうとき、兄弟親戚みんなで仲よくしている気持ちになります。
●夫は結婚前からポリアモリーの私を受け入れてくれた
――結婚は1人の人を選ばないといけない制度ですが、光さんと結婚を決めた理由を教えてください。
夫の光さん(左)と。現在はお互いが納得して離れて暮らしています
西出:私は、もともとは好きな相手とは「結婚」という形を取りたいと思う人間でした。契約が存在しない関係性が得意ではないからです。基本的に結婚という目に見えてわかる契約を結ばないと今でも安心できません。自分がもっとも安心できる要素を相手にも渡したいと思ったので婚姻関係に至りました。
そして、夫の光くんと結婚したもうひとつの理由は、私が恋人の話をしたときに笑顔で聞いてくれたからです。私が話さずとも、ポリアモリーということも知っていて、「いい関係だね」と泣いてくれたこともありました。「自分以外の男の話をするな」と怒られそうだと思っていたのですが、夫はなにもストレスを感じていませんでした。
また、夫は7歳年下だったこともあり、守られるよりは私が守りたいという思いが強かったのもあります。出会った当初、夫は複数人に傷つけられる出来事が繰り返されていました。私も似た経験を持ち、同じような20代を歩ませてしまったらトラウマになるのではと、とても怖く、結婚して守ろうと思ったのです。「この人に恋人ができるまで、私が結婚して家族でいよう」と思ったのが始まりです。
――光さんご自身も弥加さんを受け入れてくれたんですね。
西出:夫も、私のすべてを愛してくれました。「大人だから」「女だから」と決めつけずに、表面を見ないで私に接してくれました。トランスジェンダーや発達障害、過去のトラウマによる愛着の問題…掘り起こせばいろんなものを抱えている私を「とくになんの問題も見つからないよ?」という姿勢で一緒にいてくれました。光くんは毎日、私を肯定する言葉をかけてくれます。
――結婚したことで、ほかの恋人はどのような反応だったのでしょう?
西出:結婚したいと思ったとき、恋人全員に光くんを会わせました。みんな祝福してくれました。私たちは嫉妬も束縛もない、家族のような関係だからなのかもしれません。恋人…とは言っていますが、感覚としてはお兄ちゃんやお姉ちゃんに紹介したようなものです。ESSEonlineの記事で結婚を公表したとき、それをいち早く見つけて「本当に結婚したんだね!! おめでとう! 次の記事待ってるよ!」とみんな連絡をくれました。
●周りからなにを言われても、貫いていきたい
――結婚していても、恋人たちとの関係性に変化はない…ということですよね?
西出:だれがいちばん好きなのだと聞かれることがあるのですが、私からしたら、長男、二男、三男みたいな感覚なので、「どの息子がいちばんなわけ?」と聞かれているようで悲しくなります。一人いなくなってもほかにもいるから大丈夫だとか、だれかをいちばん好きだから贔屓するという感覚もまったくないです。みんな同じ感覚で向き合っています。夫の光くんに連絡を入れるように、みんなとも頻繁に連絡を取っています。
――夫以外の恋人…というとどうしても非道徳であるという世間からの批判も起きやすくなってしまいますね。
西出:ポリアモリーだという人にはさまざまな事情があるので、一概にも非道徳とは言えませんし、私自身は浮気や不倫をしてだれかを傷つけることを勧めているわけではありません。ここには人間関係が発生するので、全員の価値観が合致している必要があると思います。でもそこがクリアできれば第三者からなんと言われようが、貫けばいいと思います。私は常識を意識して自分や他者を傷つけるより、たとえおかしいと思われようが自分と大切な人を傷つけない選択をした方が後悔しないと思います。
それに、常識に囚われて自分が壊れそうで苦しいと悩んでしまうくらいなら、自分にとっての快適な世界を気の合う人同士でつくればいいと思っています。同じ感覚を持った人同士で集まることは容易ではありませんでしたが、約10年試行錯誤してやっとつくれました。私は、まだまだ生きづらさを抱えていますが、今のこの関係のおかげで何とか日々の生活を送れています。
最後に。夫のことは大好きだし、結婚してよかったと心から思っています。こんなに愛情をくれる人はほかにいない。だからこそ、夫にも恋人ができて満たされているのなら、私も夫とその人たちを祝福します。家族みんなが満たされる関係をこれからも築いていきたいです。
<取材・文/ESSEonline編集部>
【西出弥加さん】
絵本作家、グラフィックデザイナー。1歳のときから色鉛筆で絵を描き始める。20歳のとき、mixiに投稿したイラストがきっかけで絵本やイラストの仕事を始める。Twitterは@frenchbeansaya