糖尿病の人が「認知症」に2倍かかりやすい衝撃
糖尿病の実態と治療法とは??(写真:freeangle /PIXTA)
国内の患者数は1000万人、予備群も同じく1000万人もいると言われている糖尿病。糖尿病になると脳はさまざまな攻撃にさらされます。順天堂大学医学部名誉教授の新井平伊氏が上梓した『脳寿命を延ばす―― 認知症にならない18の方法』を一部抜粋・再構成し、糖尿病の実態、治療法を解説します。
脳に最もよくないのが糖尿病であることは、認知症に2倍なりやすいというデータが裏付けています。進行すると動脈硬化が進み、脳卒中や虚血性心疾患や合併症に至ります。生活習慣病の中でも、人生を大きく左右する最大の曲者です。
身体が、エネルギー源であるブドウ糖を血液から細胞に取り込む際、インスリンというホルモンの助けが必要です。食事をすると、血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)は一時的に高くなりますが、インスリンによってブドウ糖が細胞に吸収されるので、健康な人なら血糖値は元に戻ります。 ところが糖尿病になると、インスリンの分泌や効きが悪くなります。
血液中に糖があふれてしまう
そのため糖をうまく細胞に取り込めなくなり、血液中に糖があふれてしまうのが糖尿病です。脳の神経細胞も糖をうまく吸収できなくなって、機能不全に陥ってしまいます。すると神経ネットワークも含めてガス欠状態になり、ダメージが起こりやすくなるのです。
また、効きが悪くなった分を補おうとして、インスリンはたくさん分泌されます。それに伴い、アミロイドβというタンパク質が脳の神経細胞に沈着するとの報告があります。このアミロイドβこそ、アルツハイマー病を引き起こす物質です。
さらに、血糖の濃度が高いままだと、血管が傷つきます。脳の血管が弱くなると、血管性認知症のリスクが高まります。血管性認知症は、アルツハイマー病と合併する恐れもあります。
糖尿病で最も厄介なのは、合併症です。失明の危険がある糖尿病網膜症、腎臓の機能が衰える糖尿病腎症、手足がしびれる糖尿病神経障害を、3大合併症と呼びます。中でも恐ろしいのが糖尿病腎症です。
老廃物をろ過する腎臓の不調は、全身の不調に直結します。注意すべき症状は乏尿(ぼうにょう)です。尿が出なくなると、体外へ排出されるべき老廃物が身体に溜まってしまうからです。
腎不全が悪化すると、人工透析が必要になります。血液から老廃物や余分な水分を取り除く治療を受けるため、ほぼ1日おきに半日ずつ横になっていなければいけません。余命が短くなってしまうし、活動性が低下するので、脳の老化に直結します。
脳はさまざまな攻撃にさらされる
このように、糖尿病になると、脳はさまざまな攻撃にさらされるのです。 国内の糖尿病の患者数は1000万人、予備群も同じく1000万人と言われます。症状としては、喉が渇く、よく水を飲む、尿の回数が増える、体重が減る、疲れやすくなる、などがありますが、血糖値がかなり高くならなければ顕在化しません。気づかないまま糖尿病になっている人が、実はたくさんいるのです。
血液検査では単なる血糖値ではなく、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という数値を見ることが大事です。通常の血糖値は日ごとの食事内容で変化しますが、すべての血糖値に対する糖化ヘモグロビンの割合をパーセントで示すHbA1cは、過去1〜2カ月の血糖値を反映するからです(*糖化ヘモグロビン:血液中のヘモグロビンにグルコース(ブドウ糖)が非酵素的に結合したもの)。
また、血管の状態を調べます。心電図で動脈硬化を見ることと、血液のドロドロ度を調べることが肝心です。糖尿病の原因は、食べすぎ、お酒の飲みすぎ、間食や夜食などの不規則な食事、運動不足、肥満などの不摂生です。遺伝的な要因もあります。
治療には専門的なアプローチが必要ですが、経口薬やインスリンが安易に処方されやすいのが現実です。しかし、きちんと専門医に診てもらえば、悪化させずにすむ治療法が見つかります。
すでに糖尿病がある人は、HbA1cを正常範囲に戻す治療を受け、血糖値を適正な範囲にコントロールするための食事指導を守り、適切な運動を行うことが必要です。食後に散歩をすると、血中に酵素が出てきて、糖分を細胞が吸収してくれることもわかっています。
脂質異常症も、自覚症状が現れないのが特徴です。症状には、血液中のLDL(悪玉)コレステロールが多すぎる場合、HDL(善玉)コレステロールが少なすぎる場合、中性脂肪(トリグリセライド)が多すぎる場合、の3つがあります。
これは、もって生まれた体質によって分かれます。 実はコレステロールは、生命の維持に欠かせない脂質です。細胞の働きを調節したり、栄養を吸収したり、脂肪の消化吸収を助ける胆汁の材料になります。したがって、減らせばいいわけではなく、体内に一定の量が保たれていなければなりません。少なすぎると精神的に不安定になったり、免疫力が低下するといわれます。
コレステロールは1種類しかない
善玉のHDLと悪玉のLDLと呼ばれていますが、役割の違いだけで、コレステロールには1種類しかありません。脂質ですから血液に溶けにくく、リポタンパク質という成分と結合する必要があります。このリポタンパク質に、サイズの大きいLDLと、小さいHDLがあるのです。
LDLは、肝臓で作られたコレステロールを全身へ運ぶ働きがあります。増えすぎたコレステロールは、血液から動脈の壁に入り込んで動脈硬化を引き起こします。そのため、LDLコレステロールは悪玉と呼ばれます。HDLは、血管にある余ったコレステロールを回収するので動脈硬化を防ぐ効果があり、善玉と言われるのです。
悪玉コレステロールが増える原因は、肉や卵、内臓類などの動物性脂肪、バター、乳脂肪など、コレステロールそのものや飽和脂肪酸を含む食べ物の取りすぎです。中性脂肪が増えるのは、食事の量が多すぎ、清涼飲料水やお酒の飲みすぎ、揚げ物や甘いお菓子の食べすぎなどが原因です。
善玉コレステロールが少なすぎる症状は、中性脂肪の高値と連動することが多いと言われます。肥満や運動不足、喫煙も原因です。
悪玉コレステロールの増加も善玉コレステロールの減少も中性脂肪の増加も、動脈硬化を引き起こします。動脈硬化は血管をもろくします。
心臓の血管が詰まれば狭心症や心筋梗塞や心不全、脳では脳梗塞、脳出血などの脳血管障害を引き起こします。血管が弱くなるため、血管性認知症になりやすいこともわかっています。また、アルツハイマー病になるリスクも高まります。
高くても問題ないは誤解
LDLコレステロールの数値に関して、高くても問題ないという説がありますが、誤解です。40代から60代で高コレステロール血症にかかり、そのまま放置していると、アルツハイマー病にもなりやすいことがわかっています。
高齢になってから脂質管理を始めても、認知機能の低下を防ぐ効果は得にくいとされます。早めの対策が効果的です。
安心材料としては、コレステロールと中性脂肪にはコントロールしやすいという特徴があります。糖尿病の場合は食事制限や運動などやるべきことがたくさんありますが、コレステロールと中性脂肪には薬が効きやすいです。