1月頭に2回目の緊急事態宣言が発令され、新型コロナウイルス感染が収まりを見せないなか、自分たちの行動や考え方を見直し、いっそうの感染予防が求めらています。

ドラマや舞台で活躍する女優の川上麻衣子さん(54歳)は昨年11月上旬、仕事先の大阪で新型コロナウイルスに感染。大阪と東京で約2週間の療養後、12月に仕事復帰されました。

「私は幸いにも軽症ですみましたが、息切れや味覚・嗅覚異常などの後遺症には悩まされましたし、周りには重症になられたり、命を落とされた方もいらっしゃいます。私の体験談を共有することで、自分や大事な人をコロナから守ってもらえるきっかけになればと思います」

ここでは、川上さんが新型コロナ陽性になり、ホテル療養中の隔離生活〜退院までを時系列で追いながら、そこから感じたことについてお話を伺いました。


女優の川上麻衣子さん

保健所の「疫学調査」で自分の行動を振り返り、自責の念にかられた



川上さんが会食中に友人から「発熱した」と連絡があったのが昨年11月4日のこと。それから3日後の11月7日に、出張先の大阪で体調不良を感じた同様のタイミングで、保健所から「濃厚接触者なので2週間は外出を控えるように」と連絡が入り、その後PCR検査の結果「陽性」に。11月11日から、指定されたビジネスホテルに移動し、療養が始まりました。


2020年11月12日(木)
保健所と2時間近く電話で「疫学調査」を受ける。その後は、ホテルの部屋で療養。熱はなし。

2020年11月13日(金)
ホテルで療養。熱はなし。シャンプーの香りを嗅いだときににおいがわからず、嗅覚異常を認識。PCR検査をお願いしたクリニックに相談したところ、「治りかけの段階で嗅覚異常が出てくる人もいる」と言われる。


保健所が陽性者に行う「疫学調査」とは、どんなことをするのでしょうか?

「2週間近くさかのぼり、だれとどういう行動をしていたかを話す調査です。いつ、どこで、マスクの有無や換気のできる場所かどうか、食事の座る位置や直箸で食べなかったか、マスクなしで15分以上話していないかなどを、事細かに話します。

春の緊急事態宣言以降、私も感染予防に気をつけていましたが、疫学調査で振り返ると、“あのとき、向かい合って座っていたな”“食事のあと、しばらくマスクなしで話していたかも?”と、気が緩んでいたと思う行動が浮かんできました」

保健所の方いわく、発症日の前後2日間が他人にウイルスを感染させている可能性が高く、その後ウイルスは徐々に消滅していくそう。

「特に発症前の2日間は、自分でも感染の兆候すら感じていません。だからこそ、“今、自分は感染しているかも”と慎重に行動した方がいいと思いました。

ニュースを見ていると、“自分は元気だから大丈夫”と思って行動している人が多い気がします。一度、疫学調査を受けるつもりで、2週間の自分の行動を書き出して家族や友人と共有するのも、感染対策の見直しや危機感をもつという点で効果的だと思います」


療養先のホテルで支給されたお弁当の数々。「上が夕食で、下2枚は朝食。昼食も朝食に近いものでした」

「ホテル療養中の食事はお弁当が支給され、ロビーまで自分で取りにいきます。これ以外に食べたいものは、最初に自分で持ち込んだり、家族や友人に頼むなどして調達。

このとき、エレベーターが患者で密になるのが怖かったです。ホテル療養中の費用はすべて公費で無料でした」


「療養が終わると、使用したリネン類などはポリ袋に入れて戻しました」

●3泊4日のホテル療養後退院。息切れ、味覚・嗅覚異常、食欲不振など後遺症はしばらく続いた




11月14日(土)
3日連続投薬なしで平熱が続き、発症日(11月4日)から10日経っていることで療養は終了。夜、新幹線で東京の自宅へ。その後2週間ほど自宅療養を続け、11月末から徐々に仕事を再開。


治癒後の後遺症はありましたか?

「平熱でも息切れが激しく深呼吸ができない状態がしばらく続きました。また味覚・嗅覚異常が続いたため、11月末まで食欲も湧きませんでした。嗅覚は最近戻ってはきましたが、元々の嗅覚がどのくらいだったのか、自分でもわかりません。味覚はだいぶ直ってきたと思います」


「大阪での療養中は、東京に残した2匹の愛猫のことも心配でした」。自宅でタックと一緒に

●コロナは風邪とは違う。命のはかなさを考えさせられる病



芸能界では昨春に志村けんさんが新型コロナ感染で逝去されました。

「志村けんさんの訃報を聞いたときに、本当に命のはかなさを感じて悲しくなりました。私の友人も、私と同時期に新型コロナに感染して発熱、翌日に入院。その後、意識不明から危篤になり、エクモ(人工心肺装置)につながれ2か月近く入院していました。

その間に血栓や脳梗塞にもなったそうです。また別の友人は回復後も体調がすぐれない日々が続き、それが後遺症なのかもわからない。

新型コロナの怖いところは、急激に悪化して死を覚悟しなければならいこと、また後遺症に悩まされたり、隠れていた病気が出てくる可能性があることだと思います。風邪気味からはじまっても、まったく違う。私はたまたま軽症だっただけです」

●感染経験があるからこそ、「外出の自粛」と「マスク」が大事だと痛感




ペットの側でも使用できる除菌スプレーなども使い、こまめな消毒も心がけている

新型コロナに感染する前と後で、意識や行動に変化はありましたか?

「もともと高齢の母と仕事で接することも多かったので感染予防に気をつかっていましたが、さらに注意深くなりました。感染者数が増えている今は、できるだけ外出を控えています。

飛沫感染を防ぐことがなにより大切なので、マスクの徹底。フェイスシールドよりもマスクですね。外出時はアルコールスプレーを持ち歩いています」

自宅は玄関の外にも消毒用アルコールも設置。掃除感覚でドアノブなどは除菌し、加湿器には次亜塩素酸水を使い、終日加湿器をつけつつ、こまめに換気をしているという川上さん。

「感染後、外食も注意するようになりました。同席する人とは斜めに座る、料理や箸は共有しない、食べ終わったらすぐマスク。

飲食店の感染対策はきちんとしていると思うのですが、仲のよい人と食事に行くほど話が盛り上がってマスクをするタイミングが遅れたりと甘くなりがちなので、緊急事態宣言後は自粛しています。持ち帰りなどの利用で貢献できればと思っています」

●「コロナとともに暮らす」ことをもっと自覚したい。今私たちにできることとは



最後に川上さんは、社会全体で新型コロナを受け入れていってほしいとおっしゃいます。

「陽性者になった瞬間に、ウイルスの塊だと自責の念にかられましたが、感染対策をしていてもうつってしまうものです。それに“感染して申し訳ない”と思い始めると、疫学調査で自分が正直に話すと一緒にいた人にも迷惑をかけるのでは、と調査に協力することもためらってしまいそうになるかもしれません。

“だれかに感染させたかも”という恐怖や後悔はありましたが、それ以上に当事者は長い間、後遺症や新たな病に悩まされることになります。すべての人が“自分もコロナに感染しているかもしれない”という立場で考えれば、感染予防の行動につながるし、優しい声かけも生まれます。感染していなくても、まずは自分事として考えるきっかけになればうれしいです」

<写真提供/川上麻衣子さん 取材・文/磯 由利子>

【川上麻衣子さん】



1966年生まれ。女優。14歳でデビューし、「3年B組金八先生」(TBS)の生徒役で注目を浴びる。以後、数々のテレビ・映画・舞台に出演。愛猫家としても有名で、仲間とともに「猫と人が暮らしやすくする提案を東京(to-kyo)から発信する」という思いを込めて、2018年「ねこと今日 Neko-to-kyo
」を立ち上げ、理事長を務める。YouTubeチャンネル「川上麻衣子ねこと今日neko-to-kyo
」にて、猫の情報や新型コロナ体験の動画も配信。近隣の人や猫好き仲間の情報交換の拠点になればと、2019年千駄木に「Maj no ma(まいの間)」をオープン。著書に『彼と彼女の538日 猫からはじまる幸せのカタチ
』(竹書房刊)