“沈黙の臓器”と呼ばれる腎臓。慢性腎臓病の患者はなんと成人の8人に1人。糖尿病の患者数よりも多く、1330万人いるとも言われています。

健康診断の結果では、血圧や血糖値、中性脂肪だけではなく、腎臓の機能が正常かどうかを示すクレアチニン値やタンパク尿をチェックしましょう。eGFR(推算糸球体濾過量)として記載されていることもあります。これらの数値が悪いと指摘されても、とくに気になる自覚症状がないからと、再検査を受けない人が多くいます。しかし、これが運命の大きな分かれ道なのです。


腎機能、なぜ大切?

腎機能は一度悪くなると元に戻らない。運動で腎機能を守る



腎機能がなぜ大切なのかを、透析専門医の大山恵子先生に教えてもらいました。

●腎機能は一度悪くなると元に戻らない!



腎臓は肝臓とともに“沈黙の臓器”と呼ばれ、腎機能が悪化するまで自覚症状がほとんど現れず、気づいたときには手遅れ…なんてこともしばしば。腎機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)と診断されるといずれ「人工透析」か「腎移植」をせざるを得なくなります。しかも、腎機能は低下するとその機能を回復させることは難しく、一度悪くなると元に戻らないのです。つまり、できるだけ腎臓が元気なうちに、腎機能を維持する努力を始める必要があるのです。

腎機能は加齢とともに少しずつ低下するものですが、糖尿病や高血圧、脂質異常症高尿酸血症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病や、運動不足、喫煙、ストレス、飲酒などは腎機能を低下加速させます。30代、40代で糖尿病や高血圧、血尿などを指摘された経験がある人は、50代で人工透析に至るケースも少なくありません。

●腎臓病のタイプは2つ




腎臓病はこれといった自覚症状が現れない「無症状タイプ」と、むくみや尿の異常、高血圧などの「急性症状タイプ」があります。腎機能が低下すると体内の水分量の調整がうまくいかなくなるので、尿量が増えます。しかし、腎臓への血流が悪くなると反対に尿量が減ります。そのため、腎機能の低下に気づいたときにはすでにかなり進行している場合もあるのです。

●GFRが44以下だと要注意




慢性腎臓病(CKD)は血中のクレアチニン値から算出されるGFR(糸球体濾過量)と、腎機能の低下を示すタンパク尿が一定以上みられるかによって、診断されます。健康診断の結果からクレアチニン値がわかる人は調べてみましょう。


慢性腎臓病の重症度分類

このGFRの数値によって慢性腎臓病はステージG1〜G5まで6段階あります。とくにGFRが44以下の場合は慢性腎不全や心血管疾患のリスクが格段に上がるので、腎機能の低下の進行を食い止めるにはこの段階までに対策を始める必要があります。

●タブーと言われていた運動で腎機能を守る



慢性腎臓病の治療には、食事療法や薬物治療に加え、生活習慣の見直しと改善が必要です。しかし、運動については、運動することによってタンパク尿が増加したり、腎機能が低下するからと「安静第一」が基本条件でタブーとされてきました。

ところが、その後の研究で運動によってタンパク尿が増えるのは一過性のものだとわかり、適度に運動を続けたほうが長期的にみて腎機能の維持につながり、心血管疾患のリスクを抑えられることがわかったのです。また、透析治療の開始後であっても、運動をすることで透析効率がよくなり、衰えていた体力や筋力が戻るケースもあるようです。

腎機能を守るためには、ウォーキングなどの有酸素運動と、筋肉に抵抗をかけるレジスタンス運動が必要です。ウォーキングは15〜20分/kmほどの速さで歩くとよいでしょう(短い距離から徐々に延ばす)。レジスタンス運動は、現状の運動能力をチェックしたうえで、低下している能力を補います。強度が強すぎると心臓に負担がかかり、弱すぎると効果が得られないため、適切な運動強度が大切です。ご自身の腎機能の重症度ステージや体調と向き合いながら、無理せずに行いましょう。

●足の筋力をみる「立ち上がりテスト」




A:高さ40cmほどのイスや台に腰掛け、両腕を組む。片足(どちらの足でもよい)を軽く前に伸ばしたまま、反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒間キープする。

B:高さ20cmほどのイスや台に腰掛け、両腕を組む。両足は肩幅くらいに広げ、床に対してすねが70度ほどにする。反動をつけずに立ち上がり、そのまま3秒間キープする。

・Aはできないが、Bはできるという人
足の筋力低下が始まっています。このままでは立つ・歩く・座るなどの移動能力が下がっていきます。

・AもBもできないという人
ロコモティブシンドロームの可能性があり、将来寝たきりになるリスクが非常に高いです。

このテストができない人は、足全体の筋力が弱く、階段を上るのに手すりが必要ではありませんか? 日常生活の中に積極的に足(太もも前やハムストリング)、お尻の筋肉量を増やすトレーニングを取り入れましょう。

●太ももトレーニング「腰かけスクワット」




(1) 高さ40cmほどのイスや台に浅く腰かける。
(2) (1)の状態から立ち上がり、(1)の状態に戻る。これをゆっくりと指定回数くり返す。

<指定回数>
慢性腎臓病の重症度ステージによって回数が異なります。GFRを算出し、ご自身のステージに合ったものを行ってください。また、タンパク尿が出ている人、G4、G5、透析患者さんは運動を開始する前に必ず主治医に相談してから行いましょう。

運動を毎日行い、運動習慣をつけることで腎機能の低下を食い止めることができます。腎機能の低下を放置すると、食事に制限が出たり、生涯にわたり人工透析をせざると得なくなったり、腎移植が必要になる可能性が高まります。

いつまでも元気に、不自由なく生活できる体を手に入れたいのであれば、自分の腎臓としっかり向き合いましょう。
大山先生監修のムック『腎機能を運動で守る
』(扶桑社刊)では、さらに詳しい運動法が掲載されています。ご自身のGFR区分を調べたうえで、ぜひやってみてください。

<イラスト/石玉サコ 取材・文/ESSE編集部>

●教えてくれた人
【大山恵子先生】



医療法人社団つばさ つばさクリニック院長。2012年スポーツトレーナーの指導による透析患者への運動療法を開始。2016年、日本医療ホスピタリティ協会主催「医療アワード2016」にて最優秀賞受賞。透析専門医。日本腎臓リハビリテーション学会代議員。腎臓リハビリテーション指導士。透析運動療法研究会世話人。