アップルが11月17日に発売した新型「MacBook Pro」13インチモデルを実際に使ってみた(筆者撮影)

アップルは11月17日に、新型「MacBook Pro」13インチモデルを発売する。今回は、まったく新しいアーキテクチャー(構成)へと一新した定番ノートブック型コンピューターを、いち早くレビューする。

アップル独自CPU「M1」搭載のMacBook Pro 13インチは、デザインこそまったく変わらないが、これまでの‟ノートパソコン”の常識とバランスを崩すような、高性能と省電力性の両立を実現している。

今まで、バッテリー持続時間と処理性能に優れたiPad Proを主たるモバイルコンピューターとして活用してきた筆者にとって、SIMカードを内蔵してモバイル通信につながることと軽さ以外は、すべてMacBook Proの魅力が勝ってしまうほどだ。

MacBook Proの中では最も価格が安く性能も控えめであるはずのモデルにもかかわらず、特にビデオ編集のスピードは驚くべきで、これが下位モデルに位置するとは信じがたい。

価格は8GBメモリーと256GBストレージで13万4800円(税別)からだ。試用したモデルは、多くの人が選択するであろう構成で、メモリー16GBと1TBストレージを搭載し、19万4800円(税別)だ。

待望の初号機

アップルがコンピューターの心臓部となるチップを置き換えたのは3度目だ。前回は2006年からの2年間でインテルチップに移行した。今回も2020年からの2年間で、全ラインナップを自社チップへと置き換えていく計画だ。

その第1弾として、MacBook Air、Mac miniとともに登場したのが13インチMacBook Proだ。いずれも、インテル版とまったく同じ筐体デザインで登場しており、MacBook Proも例外ではない。


MacBook Proシリーズのエントリーモデル、13インチ。安い価格とM1チップの高性能・優れたバッテリー持続時間、500ニト・P3の高品質ディスプレーを備える(筆者撮影)

13インチMacBook Proは、2020年5月にマイナーチェンジを行っており、不評だった薄いバタフライキーボードが廃止され、深さと静かさを両立したMagic Keyboardに置き換えられた。これもそのまま踏襲している。

上位モデルには4つあったThunderbolt 3ポートだが、下位モデルは左側面の2つのみとされた。しかしポートの使用はThunderbolt/USB 4ポートとなっており、速度が向上した。


キーボードはMagic Keyboardを引き続き採用し、アプリごとに直感的な操作を実現するTouch Barも搭載。矢印キーの左にある「fn」ボタンにはキーボード切り替えの役割も備え、絵文字をワンタッチで選べる(筆者撮影)

もっとも、ワイヤレス中心でデータのやりとりをするという人も多いはずで、ワイヤレス通信はWi-Fi 6(802.11ax)に対応し、高速化、省電力化、混雑への強さを実現した。そのため、ケーブルは電源だけで、後はワイヤレスで済む、という人にとっては、ポート数の少なさは問題にならないだろう。

デスクでキーボードを接続したり、カメラをつなぐなど、USBデバイスを複数活用している人にとっては、2ポートでは足りない。どうしてもという人は、4ポート搭載しているMacBook Proの刷新まで待つべきかもしれない。

しかし、そうもいっていられないほどに、M1のスピードは恐るべきものがあった。

M1のパワーは静かさも作り出す

なお、これらに搭載するM1チップにはいずれも差はなく、軽い作業を行う分にはその性能差はない。今回レビューするMacBook Proにはファンが搭載されており、ファンが省かれたMacBook Airに比べると、高付加時のピーク性能を長時間維持することができる排熱機構「アクティブクーリングシステム」を搭載する。

ただし残念ながら、短いレビュー期間の間に、ファンを回すほどの作業を行うことはできなかった。4Kビデオの編集や、20GBにも及ぶ完成ビデオファイルの書き出しも、M1チップにとっては「軽い作業」に含まれてしまうのかもしれない。

4K HDRビデオの書き出しのスピードをテストしてみると、2020年モデルの2.3GHz 4コアIntel Core i7搭載MacBook Pro 13インチモデルの2.5倍のスピード、2019年の2.3GHz 8コアIntel Core i9搭載MacBook Pro 16インチモデルとの比較でも25〜30%高速に、ビデオファイルが完成した。

2020年に登場したインテルチップを搭載するMacBook Pro 13インチモデルは、すぐにファンが回り始めて、コンピューターが排熱を試みていることがわかる。最上位ノートブックの16インチモデルでも同様だった。
しかしM1搭載のMacBook Proには、せっかくファンがあるのに、その音を聞くには至らなかった。そうした不快な音を立てないことは、昨今のワークスタイルにはとても重要だ。

多くの人が、当たり前のようにリモート会議をこなすようになると、ファンの音がうなり始めて、それが雑音として相手に届いてしまうことは、ストレスになるからだ。

MacBook Proを4日ほど試しながら記事を作成している。週末はNetflixを楽しみ、ウィークデーは原稿を書いたりビデオ編集をしたりと、特別なことをせず普段どおりのコンピューターの使い方で、M1搭載のMacBook Proを試してきた。

結論から言えば、その日のうちにバッテリーを使い切る日はなかった。少し具体的に書くと、朝100%で仕事を始めて、エディター、ブラウザー、Slack、Messenger、メールといった文字中心の仕事を1時間半行なって、やっとバッテリーが1%減った。この計算だと、60時間以上使えることになってしまう。さすがにそんなことはないと思うが、少なくとも毎日充電器を持ち歩かなくてもいい、ということになる。

MacBook Pro 13インチモデルは、ネットサーフィン18時間、ビデオ再生20時間というカタログ値を示している。普通のコンピューターでは、こうした値はあまり当てにならず、よくて半分、というマシンがほとんどだった。実作業の負荷次第だからだ。

ところがMacBook Pro 13インチモデルは、本当に12時間以上使うことができるだけのスタミナの強さを発揮し、実利用の中では「使う筆者の目が疲れて試合終了」を迎えることになった。

iPad Proに対してMacBookシリーズが劣っていたバッテリー持続時間というポイントが完全に消滅した瞬間であった。

多くの人は、毎日ビデオ編集をしたりはしないだろう。そうした人なら、充電器をカバンに入れ忘れても、不安はなく、そのうち荷物を軽くするために、充電気を持とうとしなくなるかもしれない。それぐらいの安心感を、ノートパソコンのバッテリーから感じたことがあっただろうか……。

夢の1台だが…

高性能と省電力性は、まさにアップルがインテルチップから自社設計のM1に移行した理由だ。そして、その移行の理由を納得して余りあるほどに、高性能化と省電力化の双方が達成され、両立している存在。

これが2020年にM1チップ搭載で再び刷新されたMacBook Pro 13インチモデルである。速くて電池が持つことは、ノートパソコンを使うあらゆる人にとって望む機能であり、夢のマシンと言っても過言ではない。
同時に、この夢のマシンを選びにくい事情もある。MacBook Airの存在である。


今回のモデルには、Thunderbolt/USB 4ポートが2つのみ備わる。4ポートモデルは、インテルチップを搭載して引き続き販売されており、今後の刷新に期待がかかる(筆者撮影)

同じディスプレーサイズでさらに薄く、110g軽いボディを実現しているM1搭載のMacBook Airは、Proよりも、ネットサーフィンもビデオ視聴も2時間ずつ短い。

しかしMacBook Pro 13インチで、どうやっても使い切れないほどバッテリーが持つのであれば、ちょっと少ないバッテリーでも十分ではないか、と思ったのだ。価格も3万円安くなり、税抜10万4800円から手に入る。

一方、ビデオ編集など負荷の高い作業を行う場合、MacBook Pro 13インチの排熱性能は有利になるし、ディスプレーの明るさもProのほうが上だ。少しでもクリエイティブな作業に活用しようと考えているなら、MacBook Proを選ぶべきだ。

こうした夢のような1台に仕上がったM1搭載MacBook Pro 13インチ。ただしこれが、アップルのプロ向けノートブックの中で最下位モデルであることを、改めて思い出しておきたい。大満足の1台でも、まだ先があると思うと、その期待を隠しきれないのだ。