じわり人気、代替肉使用「ソイバーガー」の正体
SDGsの広がりなどを背景に高まる代替肉の潮流。写真はロッテリアの「ソイ野菜ハンバーガー」(筆者撮影)
今、代替肉に注目が集まっている。その背景の1つが、動物性食材を食べない「ヴィーガン」というライフスタイルの広まり。先般の11月1日は世界ヴィーガンデーだったが、本年は日本でもその認知度が急に高まった印象だ。
大きな理由が、近年のインバウンド増加。そして2020年7月に予定されていた東京オリンピックを視野に、世界的に需要が高まっているベジタリアン・ヴィーガンへの対応が急務とされたことだろう。
また一方で、「ミレニアル世代」の食への志向も影響を与えている。ヘルシーな食生活をしたいというだけでなく、SDGs(持続可能な開発目標)など持続可能性の観点から、ベジタリアン、ヴィーガン、フレキシタリアンなどを選ぶ若者が増えているのだ。ちなみにフレキシタリアンは、より緩やかに、たまには動物性食材を食べる人たちのことだ。
ファストフードの取り組み
こうした流れに、飲食チェーンの中でもいち早く対応しているのがファストフードの業態だ。今回はハンバーガーチェーンを取り上げ、代替肉の潮流を追った。
今、ハンバーガーチェーンとして代替肉に対応しているのが、ロッテリア、モスバーガー、フレッシュネスバーガーなど。いずれも、ソイパティ、つまり大豆原料のパティを用いている。
ロッテリアは2019年5月に初めて「ソイ野菜ハンバーガー」(税抜き370円)を発売。また2020年7月には新たに「ソイ野菜チーズバーガー」(税抜き390円)をラインナップに加えてレギュラーメニューとして販売を開始した。
モスは2015年からソイパティ商品をラインナップ。また2020年3月より動物由来の食材と匂いの強い野菜を使わない、「グリーンバーガー」を一部店舗で先行発売、5月から本格発売している。
フレッシュネスは、低糖質バンズとソイパティの組み合わせ「ザ・グッドバーガー」を8月より一部店舗で試験販売、10月より一斉発売した。
モスは従来、バンズをレタスに替えたバーガーなどヘルシー志向を取り入れてきており、ソイパティにも早くから取り組んでいたようだ。それを別にすると、世界の代替肉需要を視野に入れた販売戦略としては、ロッテリアがいち早くスタートを切った模様。
「もともとモーニングメニューとして発売しましたが、想定の約2倍という販売状況を受けて、本格的に取り組みを始めたものです。他商品のキャンペーンに左右されず、一定の率で売れ続けています」(ロッテリア販売企画課課長の緒方高行氏)
同社が製法のうえでこだわったのは、「肉の食感と後味」だそうだ。大豆粉末をいったん粒状に成型し、水分で膨らませることによって、ふっくらとした肉の食感を再現。また、後味として残りやすい大豆の香りをどうするかに苦心した。
「当初発売した商品では、大豆の香りを消すために、あえて香辛料を多めに配合していました。ただ、お客様からいただいたご意見に『香辛料が強い』との声が多かった。そこで今年5月のリニューアルで配合を見直しました」(緒方氏)
外出自粛の影響でカロリーを気にする人が増加
開発にあたっては、大豆ミートなどの植物性食を普及する団体、「まめプラス推進委員会」と連携。肉に近づけるというよりは、「大豆らしさ」を大切にしたソイパティにした。
その理由は、ソイバーガーの開発目的とも関係している。
「ソイバーガーを訴求する方法はいろいろと考えられます。その中で当社が切り口としたのが『日本人になじみのある味』『健康食』『代替肉』『おいしい食感』の4つです。女性や健康を気にしている人、ミレニアル世代など、広い層に訴えていけると考えたからです」(緒方氏)
また、本格的なベジタリアンやヴィーガン対応をうたうとなると、パティを焼く鉄板を分けるなど、特別な品質管理が必要になってくる。現時点で同社ではそこまでは考えていないということだろう。
実際の客層を見ても、想定内の20〜40代女性のほか、30〜50代男性など、あまり偏ることなく、幅広い層に購入されているという。
「1つには、コロナの影響も大きかったのではないでしょうか。外出自粛でコロナ太りが問題になっていましたから、カロリーを気にして食べるお客様も多かったと思います」(緒方氏)
ソイ野菜ハンバーガー、ソイ野菜チーズハンバーガーのカロリーはそれぞれ260kcal、302kcalと、ミートパティのバーガーに比べ30%程度低い。ソイパティそのものもカロリーが低いが、さらにマヨネーズやドレッシング、ケチャップでもカロリーやコレステロールを抑えているためだ。
コールスローサラダ、コーヒーなどと組み合わせても400kcalいかないので、ダイエット中でも罪悪感なく食べられる。
しかし、いくらダイエットのためとはいっても、味気のないハンバーガーにわざわざお金を払う気はしない。味のほどを確認するためにも試食してみた。
ほどよい厚さのバーガーを一口かじると、まず、レタス、トマト、玉ねぎなどの野菜の香味が口内を快く刺激。パティは食感、味わいともに軽さがある。バンズ、野菜と溶け合い、調和した味となって、口の中に広がってくるような印象だ。
しっとりしているので、歯ごたえ、舌触りは肉に近いかもしれないが、後味がとてもスッキリしているのが、やはり植物性素材ならでは。
チーズバーガーは今回試食しなかったが、これに乳製品の濃厚さがプラスされるので、さらに味わいのバランスがいいのではないだろうか。
実際に、ソイ野菜チーズバーガーのほうがソイ野菜ハンバーガーよりも売れ行きがいいようだ。同社によると、ソイパティだけでも同社としては思い切った取り組みだったので、ラインナップまでは当初考えていなかった。ところが、発売後に「チーズバーガーを販売してほしい」という声が消費者から寄せられたのだという。
しかし、ゆるいベジタリアンにとって、足りなくなりがちなタンパク質や脂肪分をチーズで補うという感覚は普通なので、そもそも当然考えられる組み合わせであろう。
年に1度だけ販売する「ジビエ鹿肉バーガー」(写真:ロッテリア)
同社ではソイミートへの対応以外にも、SDGsや環境問題を意識した取り組みを続けていくとしている。その1つとして、2016年から開始したのがジビエ鹿肉バーガー。害獣指定されている鹿肉を採用し、日本ジビエ振興協会との連携で開発した。
現時点では不定期で年に1回だけ店舗を限って販売している。そのうちの1つ、銀座店舗では、食に対する意識が高い、30代前後の女性客をターゲットにワインとともに提供。税抜720円と高級ながら、毎回好評とのことだ。
ジビエ鹿肉バーガーは今後も発売予定だが、時期は今のところ未定だ。2019年は11月29日、「いいにくの日」だったが、現時点で未発表のため、今年はその日ではないと予測される。
ほかのチェーンについても、駆け足で触れておこう。
肉に近いボリューム感があるモスバーガー
モスのグリーンバーガーは、文字どおりきれいなグリーンのバンズが印象的だ。パティには大豆のほかこんにゃくやキャベツを加え、歯ごたえを出している。
モスが5月19日に本格発売した「グリーンバーガー」(税抜き538円)。肉に近いボリューム感という意味では、今回食べ歩いた中では1番(筆者撮影)
バンズにもほうれん草が練り込んであるので、全体で野菜をたっぷり食べられる、ヘルシーなバーガーという印象だ。カロリーは299kcal。
食べてみると、バンズのほうれん草の味が思った以上に濃く感じられる、個性派のバーガーだ。厚味のあるパティはこんにゃくなどの効果だろうか、食べ応えがあり、「チキンのひき肉でできたパティ」と言われても信じてしまいそうなぐらい、お肉に近い。
ただし豆の味わいもしっかり残っていて、トマトやソースと混じり合って爽やかで奥行きのある味わいとなっている。ホームページの情報によると、バンズ生地をふっくらとさせるバターや、チキン、玉ねぎなど、うま味を出す素材を使えない分、おいしさを出すのが難しく、開発に半年かかったという。
ソイパティの選択肢が多いのがモスの特徴。写真は「ソイモスチーズバーガー」税抜き371円(筆者撮影)
またモスは、9種類のレギュラーメニューがソイパティにできるので、選択肢が豊富なところが特徴。ただ、モスの残念なところは、訴求をあまりしないことだ。グリーンバーガーやソイパティは取り扱っていない店舗もあり、事前に調べることも難しい。
筆者も、グリーンバーガーにたどり着くまでに数店舗足を運ばねばならなかったうえ、店舗に行ってさえ、置いてあるかどうかがぱっと見でわかりにくかった。六本木、秋葉原、表参道、銀座といった、本来ならインバウンドが多い界隈では、全国展開に先駆けて先行発売したので、メニューにある可能性が高いだろう。
日本のソイバーガー市場は今後、拡大していくか
フレッシュネスのザ・グッドバーガーは、低糖質バンズを使用。大豆との相性からか、醤油ベースのテリヤキソースを合わせた。あくまで印象だが、同チェーンのソイバーガーはしっかり味のソースを使ったことからも、なるべく大豆らしさを消して「お肉らしいガッツリ感」を出そうとしたのかもしれない。
フレッシュネスの「ザ・グッドバーガー」(税込み480円)。ソイパティに低糖質バンズを組み合わせた(筆者撮影)
反面、今回食べ比べた3チェーンの中では、最も「ソイミートを食べている」という印象も強く感じられた。
フレッシュネスではすべてのバーガーのバンズを低糖質に替えられる。筆者の好みではあるが、低糖質バンズはお肉との相性がよいように感じる。
ソイミートバーガーに共通して言えるのが、後口が爽やかという特徴。お肉のバーガーでは、食べた後、自分に肉の匂いがついてしまうのが気になる。また、満足感があっておいしいのだが、胸がいっぱいになる。
ソイバーガーにはそれがないので、例えば「今日はさっぱり食べたい」というときや、人と会う前、あるいは夕食のタイミングが夜遅くになったときなど、選択肢の1つにしてもよいのではないだろうか。
ほかに魅力的なメニューがある中で、ソイバーガーが一定の率で購入されているということに、日本のハンバーガー需要の変化、そして、市場成長の可能性も感じた。