ペンギンは1.34メートル先までウンチを射出できると判明、イグノーベル賞受賞の研究を超える結果に
ヒゲペンギンやアデリーペンギンは子どもを育てている間、巣を離れることがほとんどありません。そのため、排便する際には巣を汚さないように、巣から離れた位置にお尻を向けて、飛ばすように糞(ふん)を排出することで知られています。ペンギンが糞をひり出す圧力とその射出距離についての論文が2003年に発表されましたが、日本人研究者が再計算を行った結果、「ペンギンは1.34メートルも糞を飛ばすことができる」と判明しました。
https://arxiv.org/abs/2007.00926v1
The explosive physics of pooping penguins: they can shoot poo over four feet | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2020/07/poopy-projectiles-penguins-can-fling-their-feces-over-four-feet-study-finds/
ペンギンがどのように糞をするのかは以下のムービーを見ることができます。
Penguin Poo - YouTube
2003年の研究論文著者で物理学者のビクトル・ベンノ・マイヤーロホ氏は、自身のブログでペンギンの糞について研究するきっかけを語っています。それによると、マイヤーロホ氏が日本の北里大学での講義で、自身が南極調査に参加した時に撮影したペンギンの写真を学生たちに見せたところ、受講していた学生から「ペンギンの巣からなぜ白やピンクの線が放射線状に伸びているのでしょうか?これは飾りですか?」と質問があったそうです。
マイヤーロホ氏は学生に「ペンギンが立ち上がって巣の端に移動し、向きを変えて尻尾を持ち上げて排便することで、30〜40cmの半液体の白い物質がペンギンの背後に残ります」と回答。なお、糞の色はペンギンの餌によって異なるとのことで、魚を食べていれば糞は白くなり、オキアミを食べているとピンクがかった色になるそうです。
講義室は笑いに包まれたそうですが、マイヤーロホ氏は「これは馬鹿げた質問ではありません」と主張しています。この学生の質問をきっかけに、マイヤーロホ氏は巣から広がる線の長さ、そして巣の地上高とペンギンの総排出腔を計算し、ペンギンの糞の粘着性も測定。この情報をもとに、マイヤーロホ氏と物理学者のヨゼフ・ガル氏は、ペンギンが糞を30〜40cm飛ばすのに必要な力を計算し、ペンギンが糞を巣から射出するために必要な圧力を推定しました。
その結果、ペンギンが糞を排出する時の圧力は10〜60キロパスカルに達する可能性が示されました。この圧力は、人間が排便時に加える平均的な圧力よりもずっと高い数値だとのこと。マイヤーロホ氏は、「この圧力はタイヤの空気圧の少なくとも半分に匹敵します」「人間よりもずっと小さな生き物にしては悪くない数値です」と述べました。この結果をまとめた(PDFファイル)論文により、マイヤーロホ氏とガル氏は2005年にイグノーベル流体力学賞を受賞しました。
ところが、高知大学理工学部で特任助教を務める田島裕之氏と高知市・桂浜水族館所属のフジサワフミヤ氏が、2003年の論文では「ペンギンの糞が飛ぶ軌跡」が考慮されていなかったことを指摘し、改めて計算した結果を示す論文草案を公開しました。
田島氏とフジサワ氏は、ペンギンの繁殖環境が高い場所にある場合、例えばペンギンが排便時に岩の上に立っている場合などでは糞の射出角が0度にならないと主張。そして、この仮定に基づいた場合には、両氏はペンギンの糞の最大射出距離が1.34メートルと算出しました。
ただし、この1.34メートルという数値は、計算する上で「ペンギンの糞が完全流体である」と前提されていることに注意が必要です。
※ただし、このときお腹を壊していて液体は完全流体として振る舞うものとする— Hiroyuki Tajima (@HiroyukiTajima3) July 3, 2020
論文草案によれば、「糞に粘性抵抗が存在する場合、ペンギンの糞の設置時間と飛距離はランベルトのW関数で表すことが可能」とのこと。さらに、放射線の軌道を達成するために必要なペンギンの直腸圧は、ベルヌーイの定理とハーゲン・ポアズイユの式を組み合わせることで測定することができ、実際に計算してみたところ、マイヤーロホ氏らが出した推定値よりもわずかに高い結果が導き出されたと両氏は報告しています。
なお、田島氏とフジサワ氏は研究の動機について、「水槽のような飼育環境下では、ペンギンの糞は飼育員を困惑させることがあります。ペンギンの糞がどれくらいの距離まで到達しているかを知ることは実際的に重要です。そのような情報は飼育員を危機から救うでしょう。また、このような事故を回避することは、飼育員の初心者育成にも有用です」と述べています。