コロナ患者受け入れ、1泊2500円…アパ社長の究極経営判断と「ハッテン場化の是非」
■なぜコロナ患者を積極的に受け入れたか
--新型コロナウイルス感染者の受け入れを決めた経緯について教えてください。
4月2日に政府から新型コロナウイルス無症状者及び軽症者の受け入れについて意向打診をいただきました。日本中が戦後最大の国難にあり、世界中が第3次世界大戦ともいえる大打撃を受けている中で、ホテル業界のリーディングカンパニーとして医療崩壊を防ぐためのご協力をしたい、皆さまの期待にお応えしたいという想いから、即座にお引き受けさせていただく方針を固めました。
■なぜ…近隣住民から渡された千羽鶴
--そうとはいえ、受け入れを決めたときは、コロナウイルスについて今よりもわかっていなかった時期だと思います。不安ばかりが募る状況で、従業員や近隣住民から反対の声は上がらなかったのでしょうか。
従業員から協力者を募ったところ、むしろ予定していた数を上回るたくさんの応募がありました。自治体への一棟貸しなのでそもそも従業員の数は少なくて大丈夫で、例えば「アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉」(横浜市中区・2311室)では通常時で70〜80人の従業員が働いていますが、コロナウイルス感染者の受け入れ時に従事してもらうのは10人くらい。少し手当てを出したこともあるかもしれませんが、その定員の何倍もの応募がありました。多くの従業員が代表・社長の想いに共感して頑張りたいと思ってくれたことに、正直救われましたね。
周辺住民の方からは、最初は反対がありました。受け入れ当初はまだコロナウイルスについて今よりもわかっていないことが多く、「空気感染をするのではないか」と何十メートルも離れた住民の方から不安の声をいただくこともありました。そこで、東京都に資料を作ってもらって、コロナウイルスは2〜3メートル離れれば感染のおそれはないことや、患者さんの送迎は車で行うので接触の心配はないことを周知したのです。
「アパホテル&リゾート〈両国駅タワー〉」(東京都墨田区)は新築オープン前に東京都に棟ごと貸すことになっていました。周辺住民を説得するために、そこの建設を担当した一級建築士が直接出向いて説明したりもしましたね。そうしたら東京都に渡す日に、反対されていた方の一人が「コロナ患者さんが早く回復するように」と千羽鶴をくださったのです。「アパホテル〈大阪肥後橋駅前〉」(大阪市西区)の受け入れのときも千羽鶴をいただきました。周辺住民の方々にも私たちの想いを理解していただけて、ほっと胸をなでおろしました。
■感染者受け入れ時に従業員がしたこと
--感染予防策はどのようにしていたのでしょうか。
アパホテルの社員はホテル従業員であって医療従事者ではないので、患者さんがいる客室までは行かなくていいことになっています。業務としては、電話がかかってきたら取り次いであげたり、食事をエレベーターの前に置いて、取りに来ていただくよう連絡を入れたり、患者さんと直接接触しないようなことに限っています。
■1泊2500円の破格はなぜ可能だったのか
また、自衛隊の方々に感染対策を指導していただいたりもしました。レッドゾーンとグリーンゾーンのゾーニング、防護服の正しい着脱方法などを教えていただいたのですが、彼らはプロ。おかげさまで従業員の中でコロナウイルス感染者は出ませんでした。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」では感染者が増えてしまったようですが、うちでは徹底した感染防止策が功を奏しました。
--コロナウイルス感染者の受け入れに加えて、アパホテルさんは「新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン」でも注目されましたね。反響はどうでしたか?
テレワークでの利用や長時間通勤による感染リスク軽減のため、アパ直(アパホテル公式サイト・アパアプリ)から予約することで、シングル1泊1室2500円(税サ込)〜の特別料金でご宿泊いただけるプランを6月30日までの期間限定でご提供しています。感染者受け入れと同様、このコロナ禍で私たちができることは何かと考えた末の方針です。
それまで1泊1室の相場は1万円程度だったので、30〜50代の出張族サラリーマンの方々の利用が多数でした。しかし、2500円という格安プランが出てきたことで、20代の若い層の利用も増えてきたのです。
このプランではアパ直からでないと予約できないようにしました。というのも、代理店を通すと2500円という低価格はとても実現できないからです。アパホテル会員はこのキャンペーンが起爆剤となり一気に増えて、開始前と比べてグンと伸び、累積会員は現在1800万人いらっしゃいます。
■アパでしかできない究極のキャンペーン
この低価格キャンペーンは、アパホテルのような体力のある企業でないと実現しづらいと思います。うちも始めてからしばらくは赤字でしたしね。この機会に、今までアパホテルを利用したことのなかった方、例えば若い方などにもぜひ試してほしいと考えました。「競合のビジネスホテルよりも設備が進んでいて、きれいで、おしゃれで、郊外のロードサイドではなく都心の駅近の立地にあって、やっぱりアパは違うな」と感じていただくために今仕掛けたという狙いもありますから。ベッドの上で資料を広げられるように通常のシングルよりも大きめサイズを備えつけていますし、仕事や勉強をしやすいように部屋の照明はオフィス並みに明るめにしてあります。ミラーリングできるテレビも置いているので、テレワークもはかどりますよ。
--アパホテルさんは「ピンチはチャンス」という言葉をコロナ対応で体現しました。ところで、低価格にすることによって客層が荒れてしまったという情報もインターネットで散見されました。新宿の大浴場付きのアパホテルで、男性同性愛者が性行為に及んでいるという話も……。
■アパホテル社長がハッテン場化の是非を語る…
インターネットでそういった書き込みを見つけてから、大浴場の点検を強化し、大浴場の深夜の営業時間を短縮するなどの対策をとりました。ほかのお客さまの迷惑になってはいけないですし。一人ひとりに宿泊目的を聞いても意味はないと思うので、どうしても見つけ次第の対応にはなってしまいますが、これまでのところそのような事実は確認できておりません。
--2500円という破格となるとラブホテルに泊まるよりも安いですからね。
ただ、われわれのような宿泊主体型ホテルは、カップル向けというよりビジネス利用者向けに作られています。先ほど申し上げたようにベッドの大きさや照明の明るさがビジネスマンのことを考えて設計されているので、リモートワークのため利用される方が多いんですよ。
だから、リモートワークが推奨されている今こそ、キャンペーンを利用してアパホテルを体験していただきたいのです。デパートの試食のような感覚で気軽に来てください。1回泊まってくださったら、ファンになっていただける自信がありますので!
--コロナの影響で今期の業績はいかがでしょうか。
幸いにも利益額は例年よりは落ちますが、今期も50億円の黒字を見込んでおります。
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元谷 芙美子(もとや・ふみこ)
アパホテル社長
1947年、福井県生まれ。高校卒業後、福井信用金庫に入社。金融機関の会合で元谷外志雄と出会い、結婚。71年夫が起業した信金開発(現アパグループ)に入社。94年アパホテル取締役社長に就任。
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(アパホテル社長 元谷 芙美子)