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【「当たったんだか、ハズレたのか、よくわからなかった」、郄山俊の指名】

――引き続き、八重樫さんのスカウト時代を伺います。今回はヤクルトが14年ぶりに優勝した2015(平成27)年ドラフトを振り返りたいと思います。この年は1位で郄山俊(明治大)を指名して、当時の真中満監督が派手なガッツポーズを見せた年です(笑)。

八重樫 会場の控室でモニター画面を見ていて、「よし、獲得だ!」って喜んだんだけどね(笑)。控室にいたみんなで大笑いしましたよ。隣で真中が喜んでいるから、本当は当たっている阪神の金本(知憲監督)が残念そうにしていて、なおさらおかしかったよね。当たったんだか、ハズレたんだか、よくわからなかった(笑)。いかにも真中らしいですよ。


2015年ドラフトの郄山俊の抽選で、間違えてガッツポーズするヤクルト・真中監督(右)と阪神・金本監督(左)photo by Sankei Visual

――この年は、その郄山を外して、1位は原樹理(東洋大)、2位・廣岡大志(智弁学園)、3位・高橋奎二(龍谷大平安)、4位・日隈ジュリアス(高知中央)、5位・山崎晃大朗(日大)、6位・渡邉大樹(専大松戸)を指名しています。この年のドラフトでは八重樫さんが担当した北海道・東北出身の選手はいませんよね?

八重樫 いないですね。でも、山崎は青森山田高校時代に見ています。僕が見たときにはすでに日大進学を決めていたんですよ。印象としては「小さいな」と(笑)。シャープなスイングで見所はあったけど、「高校からすぐにプロ入りするよりは、大学に行ったほうが伸びるだろうな」とは感じていました。

――もし、日大進学が決まっていなかったら、指名もあり得ましたか?

八重樫 どうだろうな? 当時のうちのチーム事情から言えば「体の小さな外野手よりも大柄な選手を獲得しよう」という雰囲気があったからね。素質は感じられたけど、あの時点ですぐに指名とはならなかったと思います。

――この年はロッテに1位指名された平沢大河(仙台育英)が、東北球界では注目選手でした。当然、八重樫さんもマークされていますよね?

八重樫 注目の内野手ということで、彼はリストアップして球団に伝えました。チームとしてもほしい選手だったと思いますよ。でも、優先順位の問題なのかな? 六大学出身ということもあったのか、1位は郄山俊で行くことにしたんです。そして、指名を外してしまったので原樹理にした。これはスムーズに決まりましたね。

【1位・原樹理、2位・廣岡大志について】

――当初から「郄山を外したら原樹理を指名する」という既定路線だったのですか?

八重樫 そうですね。もちろん、他球団の動向を見ながらではあるけど、原樹理はスカウト陣みんなが見ていたんです。僕も見ました。大学時代の彼は粘っこいピッチングが持ち味でしたね。高橋(昭雄)監督が厳しく指導していたし、何よりも原樹理本人がチャラチャラしていない。そういう面でも、僕は直接の担当じゃなかったけど、「プロできちんとやれるタイプだろう」とは思っていたよ。


2009年から2016年までヤクルトのスカウトを務めた八重樫氏 photo by Hasegawa Shoichi

――この年の東都リーグには駒大の今永昇太もいましたよね。彼はDeNAが1位指名しましたが、今永との比較はいかがですか?

八重樫 今永はいいピッチングをしていても、イニングが変わってちょっと打たれ始めると、修正が利かなくなる傾向がありました。いいピッチングをしているのに、ビックイニングを作られて大量失点してしまう。大学時代の彼にはそんなイメージがありましたね。ボール自体はいいけど、原樹理のほうがピンチでも粘り強く投げるタイプだったので、「原樹理のほうが完成度は上だ」と僕は思っていたし、チームとしての評価もそうだったと思いますよ。

――2位の廣岡大志は、期待の若手として今シーズンのさらなる飛躍が期待されています。彼については当時、ご覧になっていましたか?

八重樫 廣岡は映像で見ました。後で知ったけど、廣岡の指導者が、僕と一緒で中西太さんの理論を学んだ人なんだってね。だから練習方法も中西理論でしたよ。これはヤクルトに入ってから感じたことだけど、とにかく練習熱心。かつての稲葉(篤紀)がそうだったですね。今まで、稲葉だけですよ。「もう練習を辞めろ」とこちらから言ったのは。廣岡も同じタイプでしたね。

――今年はプロ5年目を迎えます。そろそろ廣岡選手も結果がほしいところですね。

八重樫 そうだよね、もう5年目ですから。ただ、彼の場合は一生懸命にやりすぎるんですよ。いろいろな指導をすべて受け止めてしまう。何でも取り入れようとして、ちょっと混乱しているように見えるんです。去年、キャンプのときに練習を見たら、入団のときと全然、バッティングフォームが変わっていました。それで、「昔のほうがいいフォームだったと思うけど……」って伝えたら元に戻したようで、次の日の練習試合でホームラン打ったんだよね。

――でも、それはそれで、やっぱり「何でもアドバイスを受け入れてしまう」ということの証明でもありますね(苦笑)。

八重樫 確かに、そうだよね(苦笑)。何かをつかんだと思ったら、またスランプに陥ってしまう。その繰り返しだよね。でも、素質はピカイチだし、練習熱心だから、今年こそ期待したいよ。

【右打ちの長距離砲は天性の才能】

――この年、他に印象に残っている選手はいますか?

八重樫 他の選手は見ていないんだよ。でも、印象に残っているのは、2位の廣岡もそうだけど、6位の渡邉です。彼もものすごく練習熱心らしいね。渡邉を指導した専大松戸の持丸(修一)監督は、藤代高校時代に野口の指導者だったんですよ。

――1999年ドラフト1位でヤクルトに入団した野口祥順氏ですね。

八重樫 そうそう。たまたま持丸監督が野口の指導者ということもあって、野口を通じて僕も練習を見に行ったことがありました。持丸監督は渡邉について、「素質はあるんだけど、気が優しすぎるんだよな」って言っていたね。僕は、「右方向に打つのがうまいな」って思った印象があります。巨人の岡本和真のように逆方向に大きいのが打てるのは天性のもの。引っ張るバッティングは後からでも身につけられるんだから、渡邉には長所を生かして今のままで伸びていってほしいね。

――右方向に打てる右のスラッガーは、かつての清原和博氏、広島・鈴木誠也、巨人・岡本和真を彷彿させ、夢が広がりますよね。

八重樫 レフト方向に強い打球を打つ右打者は多いけど、逆方向に大きい打球を打つことは誰にでもできることじゃないから、その才能は順調に伸ばしてほしいな。理想としては多少粗削りな部分は目をつぶってでも、試合に出ながら経験を積んでいけばいい打者になると思う。かつての池山(隆寛)や、去年の村上(宗隆)のようにね。

――村上宗隆、廣岡大志、渡邉大樹がクリーンアップを打つようになると、新世代のスワローズ打線が完成しますね。

八重樫 今のヤクルトは、ちょうど世代交代が進んでいる時期にあるから、若手が台頭するチャンス。村上、廣岡、渡邉が出てくると、本当に面白くなると思いますよ。