見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (6) 治療薬アビガンに催奇性?

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 病状を改善し快癒させるための医薬品は、どれだけ知恵と努力と時間を注ぎ込んでも、副作用のリスクをゼロにすることは出来ない。極力副作用を低減させたうえで、副作用によるデメリットを受け入れてもなお治療によるメリットが享受できるかどうかだ。平たく言えば、治療効果と副作用を天秤にかけるということになる。

【前回は】見えない敵・新型コロナウイルスとの”静かな戦争” (5) 日本のPCR検査はどうあるべきか?

 エボラ出血熱の治療薬として開発されながら、今回新型コロナウイルスの治療薬として先陣を切ったレムデシビルにも、既に懸念されている副作用が大きく分けて2つある。1つ目は「異常行動」で、2つ目は腎臓との相性の悪さだ。

 インフルエンザの治療薬で異常行動を引き起こす恐れがあるとされるタミフルと、レムデシビルはどちらも米製薬会社ギリアド・サイエンシズが開発したものだ。もちろん、異常行動とギリアド・サイエンシズとの間に相関関係はない。

 タミフルを服用させて引き起こされる異常行動が制御可能であれば、インフルエンザの症状悪化をなすすべなく見守るよりましだという選択があるように、レムデシビルにも同様の選択は可能だ。

 レムデシビルに懸念される2つ目の副作用は腎臓への負担が増して、腎機能が低下する懸念があることだ。究極の選択に近いが、腎臓に負担を掛けたくないので、命を失うという選択はほとんど考えられない。

 ウイルスの複製を阻害することで抗インフルエンザ効果を求めたアビガンだが、RNAポリメラーゼ酵素の阻害効果があることから、「新型コロナウイルスにも効く筈だ」という期待が先行している。

 中国では、米アッヴィがウイルスの拡大阻害を目指す抗HIVウイルス薬として開発した「カレトラ」を45人、ファビピラビル(アビガン)を35人に投与する合計80人規模の臨床研究が行われ、ウイルス消失時間の短縮効果が観察されたようだ。

 結果は、ファビピラビル(アビガン)の投与群に、ウイルス消失時間の短縮と画像所見の改善が見られたという。だが、患者のランダム化や、どちらの薬剤が投与されたかを患者にも主治医にも伏せておく二重盲検も実施されていない臨床研究だったため、「効果はありそうだな」と期待させる参考記録のようなものだ。

 富士フイルム富山化学のHPには、非重篤な肺炎を有するCOVID-19患者を対象としたファビピラビルの有効性及び安全性の検討として、アダプティブ、単盲検、ランダム化、多施設共同比較試験への参加者が募集中であることが告知されている。

 新型コロナウイルスへの有効性や安全性は、これから確認される開発途上の位置付けにある筈のアビガンが、最近は新型コロナウイルスの特効薬的な扱いで、マスコミが先走って見込みの承認時期を打ち上げる有様だ。安倍晋三首相も前のめり気味だし、茂木敏充外相は4月30日の参院予算委員会で「アビガンが80カ国近くから提供要請を受けていて、既に39カ国への無償供与が調整済み」と公表している。

 アビガンは、インフルエンザ薬として日本では承認されているが、催奇性があるためか新型インフルエンザが発生した場合の奥の手のような存在だった。

 催奇性とは「胎児に奇形を生じる危険がある」ということだから、過去のサリドマイド禍における教訓を見るまでもなく、慎重に検証すべき副作用だ。妊娠中の女性が服用することはもちろん、服用中の男性が妊娠させることも禁忌なのだ。

 催奇性という副作用の厄介なところは、副作用の結果が胎児に生じるということだ。自らが引き受ける副作用であればどんな判断になろうと本人が被るしかないが、胎児に生じる副作用を選択することは誰にも出来ない。

 アビガンに限らず、治療薬にはどんな副作用があるのかも、しっかりと頭に入れておく必要があるだろう。