松下洸平、朝ドラ出演で変化「今がスタートライン」
岡田准一と原田眞人監督が『関ヶ原』に続き再びタッグを組んだ映画『燃えよ剣』(近日公開)で、新選組副長・土方歳三(岡田)に仕える剣豪・斎藤一役に抜てきされた俳優の松下洸平。本作での経験が自信となり、NHK連続テレビ小説「スカーレット」の八郎役を射止める原動力になったと振り返る松下が、朝ドラ効果のすさまじさと気持ちの変化について真摯に語った。
『燃えよ剣』での経験が念願の朝ドラ出演を後押し
「スカーレット」で戸田恵梨香演じるヒロイン・喜美子の相手役となる八郎を好演し、多くの朝ドラファンの心をわしづかみにした松下。当然、その活躍が認められ、斎藤一役に抜てきされたものと思っていたが、『燃えよ剣』のキャスティングは同ドラマの製作が始まる前。まだ無名に近かった松下は、オーディションに参加し、自らの力で役を勝ち取った。殺陣はおろか、映画への本格出演も初めてだった松下は、「原田監督に正直にお話しした上でお芝居を見ていただいたのですが、その際、『素振りを見せてほしい』と言われたので、渡された竹光をとにかく一心不乱に振り続けました」と述懐する。
すると、原田監督から「君は左利きなんだね」と、意外な言葉をかけられた。今、振り返れば、松下の運命を大きく変えたひと言。「斎藤一が左利きであることを強調したい。だから、決して作り物であってはならない」と考えていた原田監督は、「左利きで、しかもこれからの活躍が期待できる新鮮な役者を使いたい」という基準を自身の中に設けていたのだ。この条件に松下はピタリとハマった。
原田監督のワークショップに誘われた松下は、その後、正式に斎藤一役をオファーされ、本格時代劇の現場に初めて足を踏み入れる。「京都で2か月半、撮影に臨みました。原田監督のもと、お芝居の付け方や撮影の進め方など、たくさんの経験を積ませていただきました。思えば、『燃えよ剣』で学んだことが僕にとって大きな自信になり、その流れのなかで『スカーレット』のオーディションに飛び込めたことが良い結果につながったのかもしれません」。
役のイメージを壊しながら突き進みたい
『燃えよ剣』での経験に後押しされ、見事「スカーレット」の八郎役を射止めた松下。舞台を中心にすでに10年以上のキャリアを持つ彼だが、初の本格映画出演、そして満を持して臨んだ朝ドラによって運命が劇的に変わった。「本当に多くの方が『スカーレット』を通して僕のことを知ってくださって、素直にうれしかったですね。新たな出会いもたくさんありましたし、(俳優として)花を咲かせていただいたことに関しては感謝しかありません」と思いをかみしめる。
Instagramのフォロワー数も、放送開始当初は3,500人ほどだったが、現在では約26万人と驚異的な伸びを示し、注目度の高さを数字でも証明している。「最初は驚きもあって『どうしよ、どうしよ』って動揺しましたが(笑)、ここで焦ってはいけないなと。せっかくたくさんの方に注目していただいているのだから、今まで抑えていた感情をもっともっと解放し、自由に表現してみようと。徐々にではありますが、前向きに捉えられるようになりました」と気持ちの変化を明かす。
さらに松下は、八郎人気に感謝すると同時に、「そこに縛られてはいけない」と自身を鼓舞することも忘れない。「良くも悪くも固定されたイメージで突き進んでいくのは、避けられたらいいなと思っていて。僕には、10年間舞台をやり続けてきたなかで、かけがえのない経験もたくさんあるので、今度は逆に、自分のなかにストックしてきたものを出しながら、これまでの自分を壊して突き進みたいと思っているんです。そういった意味では、ようやくスタートラインに立てた感じです」。
俳優だけでなく、シンガー・ソングライターとしても活動する松下。「お芝居も、音楽も、何かを作る、という意味では同じことだと思うんです。僕のなかでジャンル分けしたことはありません」とキッパリ言い切る姿に芯の強さがうかがえる。
「20代のころは、目の前の夢をつかんだら、そこがゴールだと思っていましたが、実際はつかんだ瞬間に目線が高くなって、遠くの方まで見渡せるようなるだけ。『あれ? まだ奥の方まで道が続いているぞ』っていうことに、ようやく気づいたんです」。まだ見ぬ自分に出会うために……松下の新たな戦いが幕を開けた。(取材・文:坂田正樹)