名前が「金色」になっている墓石を、あなたは見たことがあるだろうか。

墓石に彫られる文字と言えば、全国的には着色されていない「素彫り」が一般的。金色なんてお墓にしてはゴージャスすぎやしないか...?と思う人もいることだろう。

しかし長崎県大村市にある浄土宗白龍山長安寺の僧侶・吉田武士さんは2020年3月10日、ツイッターでこんな投稿をしている。

「九州のお墓は文字が金色。他所は違うらしいぜ......」

なんと九州では名前が金色になっているのが当たり前だという。吉田さんのアップした墓地の写真では、墓石の名前は金色ばかりだ。

この投稿に対し、他のユーザーからは、

「そうそう!関東に来たら金色じゃなくてちょっとびっくり!」
「九州だけなんですね 我が家のお墓も金文字でしたー@福岡」
「金色、初めて見ました!私は趣味でお墓を見て回ってますが、地域と特性があって素敵ですね」

といった声が寄せられている。吉田さんは「これが普通と思ってましたー!」と他のユーザーにリプライ(返信)しており、全国区でないことに驚いているようだ。

中国の風習が由来?


九州のお墓は名前が金色(画像は吉田武士さん提供)

Jタウンネットは3月18日、関東、東海、九州地方で仏壇仏具や墓石を販売するはせがわ(本社:東京都文京区、福岡県福岡市)の営業企画部に取材した。

金色部分は一般的に金箔を使用。担当者によれば、金箔文字の墓石が多い地域は、長崎、佐賀、熊本など。鹿児島・大分・福岡にも金箔文字はあるが素彫りやペイントの比率が高く、九州以外となるとその確率はさらに下がる。九州北西部の文化と言ってもいいだろう。

それにしても、なぜ墓石の文字を金箔にするのだろうか。

担当者は周りの墓が金箔であることを第一の理由として挙げている。しかし九州の中でも金箔文字が多く見られるという長崎には、どうも別の事情があるようだ。

「長崎県と他県では、金箔を使用する理由が少し違っていると思われます。長崎は古からの風習として、金箔文字以外にも独特の地域性があります。
お墓の金箔文字は長崎で多くみられ、中国の中国盆に由来していると言われています。金箔以外にも彩色を施す、土神を祀る、お盆はお墓に提灯を飾る、花火をする等々、九州の中でも独特な風習が色濃く残っています。ご存じの通り長崎は出島が有名で、古くから外国(特に中国)との貿易が盛んだったため中国の影響を受けたと言われています。
それに対し、福岡や熊本などでは、どちらかといえばお墓が豪華に見えることが理由になっているのではないでしょうか」

長崎市の老舗石材店・のなか石材の公式サイトには、長崎の墓石に金箔が貼られているのは中国盆の「金をもやす」風習があることに基づくと記載がある。中国では清明節の墓参りの際にお金を模して作った「紙銭」を燃やす風習があり、そのことを指しているようだ。

しかしはせがわの担当者によれば、金箔文字の墓石は少なくなってきている。

「価格的な問題もありますが、お墓の形も和型が少なくなり、シンプルな形や洋風のお墓も増えてきたためだと思われます」

金箔文字のメリットを聞くと、「施主様からすれば、周りのお墓と比べて見劣りしない。石材店からすれば、墓石の単価が上がることぐらいでしょうか」と担当者。施主のニーズの変化とともに減っていってもおかしくないのかもしれない。