ペットの柴犬の写真をツイッターに投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inubot
。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。
第20回は、現在の「犬」の前に北田家にいた、雑種の「エース」の思い出です。

北田家の愛犬。兄みたいな存在だった「エース」



家のなかで、「エースやったら」という話題がよく挙がる。エースというのは12年前に亡くなってしまった柴犬と雑種のミックスの男の子で、私にとって初めての愛犬。


懐かしのたまごっち

体は柴犬よりも一回りほど大きく、長い耳は重力にゆだねてほんの少し前のめりに垂れていた。


首輪のうしろに猫じゃらしがささっているのは妹の仕業

物心ついた頃には家にエースがいて、エースありきで世界は始まっており、もうひとりの兄のように慕っていた。私にとっては兄のようなエースを、妹は弟みたいな存在だったと言うので、おかしい。


父が撮影した妹とエース(弟)

少し前に亡くなった祖母から聞いた話によると、よく私と祖母とエースで家のまわりを散歩していた。歩みが遅い私に、年若く活気盛りのエースがテンポを合わせてゆっくり歩いてくれたそうだ。
「たまに先に行っても、あぁって気づいたら振り向いて、待ってくれとった」と懐かしそうに、だが昨日の出来事みたく話すので、家の裏道でこちらを振り返っているエースの姿が鮮明に浮かんだ。伝えなかったのを悔やむが、祖母が笑うと目尻に刻まれる深い皺が好きだった。


現在の「犬」との散歩の様子

今は犬のふりふりと揺れるおしりを眺めたいので後ろをついて歩いているが、声をかけたらたまに振り返ってくれる。


すみに自転車の前かご

これは妹が自転車に乗りながら撮っている写真。リードを握っているのは親戚のお姉ちゃんだろう。エースが身内の親戚はもちろん野良猫や業者といった見知らぬ来訪者に向かって激昂して吠えるところを見たことがない。
いつだって穏やかで、凪のような性格だった。


2020/02/11

エースの写真は妹がインスタントカメラで撮ったものだ。当時はインスタントカメラを使いきればカメラ屋さんに持っていって、現像したネガとプリントアウトしたL版の写真を受け取るまでが「写真を撮る行為」だった。
母が写真をアルバムに丁寧に保管してくれていたおかげで色褪せず残っている。今回はそれらの写真をエプソンの家庭用プリンターでスキャンをしてデータ化している。


エース




いい機会だから昔の両親や祖父母との写真もデータ化してハードディスクに保管した。すべてやろうとすると大変なので、特別な写真だけでもデータとしても残しておくといい。
カメラのキタムラなど、カメラ屋さんによっては写真やアルバムのデータ化を請負ってくれるのでご検討ください。


いい感じの木の棒

母と犬の行動を眺めていて「エースはこうやったよね」と、どちらからともなく話し始めることがある。なにも比べて優劣をつけているわけではなく、ただ違いをおもしろがっている。
そして性格のここが違う・こういうクセがあるないと気づいていくのは個々を深く認識していくことに繋がってゆき、より個人の輪郭がはっきりしていくように思う。


犬と暮らしていて、日々進行形でエースを知っていっている。それぞれの違いがおかしく、おかしくて、いつくしい、すっごく。


これは、妹が撮影したエースのごはん。


盛られたジャーキーは今もよくあるおやつで、犬も大好物だ。

しかし母が「エースは妹だけはやたらナメとったと」と言う。ふたりは生まれた日も近くてなんならベストフレンドとすら思っていたが、母いわくやたらナメとったらしいのでたまげた。
電話越しに妹に伝えてみたが自覚はなし、うそやん!? と素っ頓狂に笑っていた。


この連載が本『inubot回覧板』
(扶桑社刊)になりました。第1回〜12回までの連載に加え、書籍オリジナルのコラムや写真も多数掲載。ぜひご覧ください。

【写真・文/北田瑞絵】

1991年和歌山生まれ。バンタンデザイン研究所大阪校フォトグラファー専攻卒業。「一枚皮だからな、我々は。」で、塩竈フォトフェスティバル大賞を受賞。愛犬の写真を投稿するアカウント@inubot
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