品薄でマスクやアルコールジェルなどが買えず、困る人が増えています。一方でフリマサイトなどでは、それらの商品が高額で売られている状況。
転売専門業者ではなく、普通の人も転売に手を出す事例が確認されています。

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マスクが売られる現場は今、どうなっているのでしょうか。3月3日、東京都にある、中央線某駅のドラッグストアを訪ねてみました。


マスクの品薄状況が続いています

本人確認の簡略化と匿名配送で、転売の敷居が下がった



そのドラッグストアの前についたのは10時開店の10分ほど前。すでに55人もの人が列をつくっています。
最後尾の人に声をかけると、「今から並んでも買えないですよ。ここに並んでいる人は先に配った整理券を持っている人ですから」と話してくれました。

●購入現場にどことなく漂う“プロ感”

さらに、先頭に並んでいた50代の男性に聞くことにしました。
「ここはこの辺でいちばん多くマスクを入荷する店なんだよ。僕は朝6時20分頃に並んで6番目。今日は整理券を8時頃に配ったんだけど、7時に並んでギリギリ買えるか買えないかって感じ。昨日は普通のサイズのマスクが1箱買えたけど、今日は小さいサイズのが1箱買えるっていうんだよ」

饒舌に話してくれる中年男性は、今は妻と二人で暮らしているといいます。一昨日も来たと話すので、「ご家族で使うものなんですか?」と質問すると、途端に口ごもって「…まぁ…知り合いに配るんだよ…」とボソリと答えました。

列を見ると、アウトドア用の携帯イスを持っている人や、しっかりしたダウンコートを着込んで完全防寒で開店を待つ人が目立ち、並び慣れている“プロ感”が漂っていました。


マスクを買うための整理券

いよいよ開店です。10時になると同時に、整理券を店員が順番に受け取って、段ボールから出した箱マスクを渡し、レジに誘導します。商品は奥田薬品の「メガネが曇りにくい息がしやすいマスク小さめサイズ65枚入り」(税込382円)。調べてみるとメルカリでは10枚送料込みで999円、アマゾンではなんと20倍の7800円で売られていました。

整理券のシステムがわかっていない外国人と見られる男性が購入を断られ、「なぜ買えないのか?」とつめ寄るシーンがありましたが、それ以外はハプニングもなく、開店5分でソールドアウト。
直後に来店した高齢女性が「マスクありますか? え? もう売りきれですか? そうですか…」と言って、トボトボと帰る姿が目に焼きつきました。

●時間に余裕のある人しか買えない現状

周辺の別のドラッグストアでも状況を聞きました。ここの駅周辺では、先の店舗以外では入荷がない店舗が多くを占めました。一方、駅から少々離れたところにある食料品も売っている広い店舗では数個以上の入荷があったと答えるところが多く、ドラッグストアによっても入荷に偏りが見られました。

整理券配布制をとる、とあるドラッグストアの店員は「正直、『この人、毎日来てるよね?』と、転売屋かなと感じるお客さんもいます」と話します。
「うちは朝確実に並んで10番以内なら、どんな種類でもよければマスクは手に入ります。逆に言うと、一部商品以外は朝に入荷しているので、それ以外の時間帯だと商品がないんです」

朝早い時間の開店に万全の準備で備えられるという、時間にかなり余裕のある生活をしている人以外は、購入が難しいのが実情のようです。

●転売の参入障壁が低くなった理由

依然として品薄が続くマスクですが、多くの一般人転売ヤーが参入している背景にはいったいなにがあるのでしょうか? ネット転売事情に詳しいライターの村田らむ氏に聞きました。

「一般の人が転売しやすくなった背景は、おもに2点あるでしょう。
ひとつは、出品登録が簡単に無料でできるようになったこと。以前はヤフオクの出品者になる場合は、本人の手元に届く書類を受け取るのに、免許証や保険証等の公的証明書を配達員に提示しなければなりませんでしたし、数百円の月会費を払う必要がありました。

しかし、スマホの登場で、本人確認が証明書の写真で瞬時にすませられるようになり、出品者登録も原則無料。販売が成立したときのみ、その分の手数料が引かれて振り込まれる仕組みに、業界全体が変わったんです。今ではスマホと身分証が手元にあればだれでも出品者になれます。

もうひとつは取引の匿名化です。以前は落札されたら出品者も購入者もお互い住所や名前を明かしたうえに、銀行口座を明かしてお金を振り込んでもらう必要がありました。悪質な転売ヤーは、ネットで住所や名前を晒されるリスクが常にあったんです。
一方、今は郵便局やヤマト運輸の協力により、出品者も購入者もお互いの住所や名前、銀行口座を明かさないまま取引ができます。このことが身バレを防げるということで、主婦など一般人の転売ヤー化を助けている面はあるでしょう」

●政府もマスク転売規制、しかし…
こうした状況を受けて、3月5日、政府はマスクの転売を禁止し、違反したら懲役5年以下、または、300万円以下の罰金を科すことを検討していることが一部メディアによって報じられました。

現時点では、規制の詳細がわからないためなんともいえませんが、オークションサイトやフリマアプリでの高額転売のみを規制したところで、主婦転売ヤーのような素人転売は一掃できても、プロ転売屋はどうでしょうか。Amazonや楽天などECサイトを使って本格的に高額転売をする人・業者も同時に規制しなければ、高額転売が横行する事態の収束ははかれなさそうです。

そもそもマスクは、感染を防ぐ意味ではあまり効果がないと、専門機関も指摘しています。高額なマスクを求めるよりも、手洗いうがいを徹底することや、人の密集する場所に極力行かないことが、今できる最善策ではないでしょうか。

<撮影・取材・文/中野一気>