ついに始まった「NHKプラス」、どう使う? 何が見られる? 色々試した
●NHKプラスの始め方
NHKは4月1日から、スマートフォンやPCでNHK総合テレビとEテレ(教育テレビ)の番組を見られる新しいサービス「NHKプラス」を正式にスタートします。本格展開に先がけて試行的なサービスが3月1日から始まっており、実際の使い勝手や操作感を確かめるべく、手持ちのスマホやパソコンでさっそく登録してみました。
NHKプラスの狙いや詳細については、山本敦氏の事前体験レポートでお伝えしたとおりですが、
今回は利用登録の流れやサービスの使い方、さらに使っていて気付いたことや細かな疑問についても、色々と掘り下げてご紹介します。
利用登録なしでいきなり見られる!?
NHKプラスは、iPhone/Android用アプリやPC・スマートフォンのWebブラウザから視聴できます。対応環境はNHKプラスの公式サイト内ヘルプを見ていただくとして、今回は筆者の手持ちのiPhone 7/XSとXperia XZ1 Compact、それにMacBook Air(Retina 2018)から試しました。
初回起動時は、NHKプラスのサービス概要が表示され、規約への同意が求められます。その後、映像を読み込む画面が映ってから数秒で、地上波で放送されているNHK総合の番組が流れ始めました。
NHKプラスを利用するための「NHKプラスID」(アカウント)は1つの放送受信契約に対して1つだけ登録でき、受信契約者と生計を同一にする人は追加の料金負担なしで利用できます。1アカウントで最大5画面での同時再生が可能で、たとえば父親が受信契約をしている場合、父親本人とその配偶者、子ども祖父母など最大5人が同時にNHKプラスの映像を楽しめます。ただし、NHKプラスのサービス提供は国内に限られ、たとえば海外に赴任したり、子どもが海外留学に出たりといったときには現地から国内の放送を見ることはできません。
ID登録はカンタンです。アプリ内ブラウザから「メールアドレスの入力」と「ID・パスワード設定」、「受信契約情報の入力」を済ませると、画面右下を覆っていたメッセージが消えてサービスの全機能が使えるようになります。入力にかかる時間はせいぜい10分くらいでした。なお、NHKの番組内や公式サイトでもたびたび呼びかけているとおり、NHKプラスを利用することで受信料が値上がりしたり、追加料金を要求されるといったことはなく、口座番号やクレジットカード番号の登録も必要ありません。
NHKプラスIDを登録してから1〜3週間後にNHKからハガキが届くので、ハガキに記載されている確認コードを指定の期限日までにWeb画面で入力して、登録手続きを完了させます。これは、なりすましによるID不正利用を防ぐ2段階認証のようなもので、ID登録情報と受信契約者本人の住所が一致してはじめて、すべての登録作業が完了します。
先ほどの「受信契約情報の入力」のときに、必須事項ではありませんが10ケタの「お客様番号」(NHKの払込用紙や領収書に記載されている)を入力しておくと、NHK側の作業がスムーズに進むのかもしれません。なお、確認コードを期限内に入力しないと再度メッセージが画面に表示され、登録前の状態に戻ります。
ちなみに、ID登録をせずにNHKプラスを見続けても、一定時間たつと映像が見られなくなったり、アプリが強制的に終了させられたりといったことは起きません。画面の右下がメッセージで覆われて見づらいだけで、執筆時点(3月4日)はNHKの受信契約がなくてもそのまま使えるようです(災害時などはこのメッセージ表示が消える運用になっています)。
しかし、これでは放送番組の「追いかけ再生」や、1週間分の「見逃し配信」といった便利な機能の大部分が使えませんので、素直に前述のID登録を済ませてしまいましょう。朝の連続テレビ小説「スカーレット」や、大河ドラマ「麒麟がくる」、NHKの生活・情報・教養番組を楽しみにしている人にとって、NHKプラスはきっと重宝するはずです。
試行的サービスを開始した初日の3月1日には申し込みが殺到したためか、ID登録ページが一時閉鎖される一幕もありましたが、現在は解消されています。
よくできたアプリで快適。ワンセグ? 知らない子ですね……
ID登録を済ませると、NHKプラスでさまざまな番組が見放題になります。
アプリを立ち上げてタテ向きに構えると、地デジ番組の同時配信が画面上に表示され、すぐ下にお知らせや前後の放送番組サムネイルが並びます。横画面にして映像を大きく表示することもできます。AbemaTVなどの映像配信アプリに慣れていれば、上下スクロールや左右フリックを多用した操作にはすぐなじむことでしょう。
サービス開始時は、南関東エリア(埼玉・千葉・東京・神奈川)に向けた放送を全国に同時配信しており、放送中の番組映像には赤い「LIVE」アイコンが表示されます。同時配信とはいえ放送から30秒程度遅れて配信されるので、時刻表示などは正確ではありませんが、不便は感じません。映像をタップすると、番組の観たい場所まで戻って流せる「追いかけ再生」機能などが利用可能。冒頭に戻る三角形のアイコンや、30秒送り/10秒戻しのボタン、シークバーが現れ、放送済みの見たいポイントへ自由にジャンプできます。
画質は、11.5Mbpsの場合は最高960×540ドット(QHD)。地デジの解像度(1,440×1,080ドット)や一部のBS放送(フルHD/1,920×1,080ドット)に比べると品質はだいぶ落ちますが、スマホ画面で見る限りはけっこうキレイな印象。映像に映っている被写体やテロップなど文字の輪郭に目をこらすと映像圧縮によるノイズがチラつきますが、必要十分な画質と言えるでしょう。音声は設定で主音声と副音声(二カ国語、解説放送など)が選べます。
イマドキのネット配信サービスらしく、観ている番組や特定の場面へのリンクを他のNHKプラスユーザーに共有できます。共有用のURLが自動生成され、TwitterやSMS、Eメールなどで自由にシェアできるので、家族や友だちがNHKプラスに登録していれば「この番組、面白いよ!」と知らせてあげられます。
テレビやBDレコーダーでおなじみの電子番組表(EPG)と同じように、番組内容や出演者・放送時間などの詳細説明を確認するといった機能もしっかり備えています。
画質に関しては、受信する端末側の回線品質に合わせて自動で最適化してくれますが、4段階での手動設定もできます。モバイル回線とWi-Fiの回線ごとに設定でき、最低画質は416×232ドット/192kbps、1時間あたりのデータ容量の目安は約0.1GBです。
最低画質でずっと見続けるのはちょっとツラいですが、観ていてふと「ワンセグとどっちが見やすいだろう?」と疑問に思ったので、宅内で手持ちのスマホで見比べてみました。当然ながら、ワンセグの最大320×240ドット(QVGA)画質と比べればNHKプラスのほうがまだ見やすく、文字周りの潰れ具合もいくらかマシに見えます。最近のスマホはワンセグ非対応のモデルも多いので、今後ワンセグ機能はカーナビ市場で生き永らえることになるのかもしれません。
字幕表示は、映像の上に文字を重ねるオーバーレイ表示と枠外表示に対応しています。映像よりもだいぶ遅れて表示されますが、音を出せない場所でも番組内容を把握できるので、通勤中にニュースや朝ドラを観る人にとってはありがたい機能ではないでしょうか。
●見逃し配信が便利、ただし課題も
見逃しても1週間は大丈夫! ただしキーワード検索は改善の余地アリ
放送番組を一通り堪能してからNHKプラスアプリの画面をじっくり見渡すと、番組を見つけやすくするためのメニューが多数用意されていることに気付きます。
まず、画面下には、NHKがカテゴリやトピックごとにまとめた「プレイリスト」、番組名や出演者から見たい番組を探せる「キーワード」検索、日時で番組を探せる「配信カレンダー」があります。
そして画面上には、同時配信の画面がある「放送中」のほか、カテゴリやトピックごとに映像をまとめたタブを横スクロールしてザッピング的に映像を楽しめる「まとめ」があり、上部右端の「検索結果」からは以前探した映像の一覧リストにすぐアクセスできます。
NHKプラスでは、放送番組の同時配信に加えて、放送終了時刻から数えて7日間の見逃し配信を行っていますが、上記のメニューは見逃し配信の対象番組を探すのに役立ちます。さらに各番組を再生するプレーヤー画面にも、下部にサムネイルを並べることで、関連番組を次々に楽しめるように作られていて便利です。
ドラマなどの見逃し配信は、最新話の同時配信が終了するまで前回の放送話を見られます。見逃し配信が終了するタイミングが分かりやすいよう、配信終了日が近づくと該当番組に「残り○日」というタグが自動で付くほか、「#まもなく配信終了」といったまとめページからも探せます。
気になるところもあります。プレイリストは、自分で好みの番組を並べ替えたり整理できるわけではなく、NHKがキーワードに沿って用意した番組リストのようなもの。また、カテゴリやトピックの文頭に付けられた「#」は、SNSなどのハッシュタグとは違い、リンクを伝ってジャンプする機能はありません。ネット文化を取り込みつつも、NHKプラス内では独自の意味づけがなされているようで、こうしたネーミングには個人的に違和感を覚えることもありました。慣れの問題かもしれませんが……。
キーワード検索については、たとえば「ニュースウオッチ9」の数字を「ナイン」とカタカナで入れたり、ひらがな入力にするとヒットせず、ぴったり同じにしないといけない、といった課題も。サービス開始当初はこうした仕様と上手に付き合っていく必要がありそうです。将来的にはあいまい語検索の技術を導入し、タレントや場所などの名前がうろおぼえでも探せるようにすると、ユーザーにとって親切な作りになるでしょう。
放送番組を全部見られるワケではありません
NHKスペシャルなどのドキュメンタリー番組や「沼にハマってきいてみた」など、良質な番組を録画して観ている筆者にとってはありがたいNHKプラス。ですが、正式スタート前だからか、自分が見たい番組のバリエーションがまだまだ多くはないな、というのが正直な感想です。
たとえば、執筆時点では音楽番組「SONGS」は検索しても見つかりませんでした。おそらく権利的な問題がクリアされていないために、NHKプラスでは配信できないのでしょう。また、NHKプラスの放送時間(午前7時から翌日午前0時までの17時間)を過ぎた遅い時間帯のアニメ「映像研には手を出すな!」も、当然ラインナップされていません。
こうした番組の放送時間は、同時配信画面に「現在放送中の番組は配信しておりません」というメッセージとともに、NHKキャラのどーもくんやうさじいの映像がループ再生されます(深夜は放送休止の案内表示が出ます)。NHKキャラの映像は見ていると若干なごみますが、こればかり表示されてもうれしくはないので、正式スタートの折にはぜひ配信番組のバリエーションを増やして欲しいと思います。ちなみに、配信対象の番組が再生されている最中でも、「この映像は配信しておりません」という「ふたかぶせ(代わりの静止画を差し込むなどの処理)」が差し込まれることもあります。
新型コロナウイルス感染症のまん延を防ぐ施策のひとつ、全国小中学校・高等学校などの休校を受け、NHKではこの3月、Eテレを中心に番組を特別編成で放送するとのこと(詳細PDF)。NHKプラスアプリでは今のところ、朝〜昼のEテレサブチャンネルの放送時間帯にサブチャンネルのタブが増えることは確認できましたが、ほとんどの番組が配信対象外のようで、上記の「現在放送中の番組は配信しておりません」がずっと流れていました。今後、NHKプラスのEテレサブチャンネルも活用されることに期待です。
IDひとつでホントに5人同時に見られる?
NHKプラスでは、「1つのNHKプラスIDで最大5画面の同時再生が可能」と説明しましたが、本当にできるのか簡単に調べてみました。家族1人につき1台利用するという想定でスマホとPCを計5台用意し、同じNHKプラスIDでログインして番組を流すだけです。
実際に試すと、確かに5画面で同時にNHKプラスを利用できました。宅内のネットワークとインターネット回線が良好なら、特に問題なく使えそうです。
5台の機器で表示しつつ、6台目のPCから同一のNHKプラスIDでログインしてみると、正常に画面が映りました。その代わり、既にログイン済みのスマホ1台の画面から映像が消えて真っ暗になり、「同時に視聴できる端末数の上限を超えました」というメッセージが表示されました。各端末の認証状態は、どうやらリアルタイムで把握しているようです。
スマホからのキャスト出力はできません
2月に行われたNHKプラスの事前説明会において、質疑の中で挙がった「NHKプラスの映像は外部出力できるのか」問題。NetflixやYouTubeといった一般的な映像配信アプリでは、同一ネットワーク内のメディアプレーヤーやスマートテレビにWi-Fi経由でキャスト出力できますが、NHKプラスは有線ケーブルによる出力も含めて、テレビやチューナー非搭載のモニターで視聴できないように設計されているとのことです。
実際にAndroidスマホの画面キャスト機能を使ってみると、NHKプラスのアプリ画面は表示されました。しかし、放送番組の映像は真っ黒のままで、音声だけが流れます。
なお、NHKプラスアプリはバックグラウンド再生や(Androidの)分割画面に対応していません。テレビの音声だけを聞いたり、番組を見ながらネットで調べ物をするといった使い方もできませんでした。こういった使い方をしたいときは、素直にテレビの前に座ったほうがよさそうです。
スマホを機種変したらどうなるの?
ちょうどiPhone 7からiPhone XSに乗り換えるタイミングだったので、今回はiPhoneを機種変したときのNHKプラスIDの扱いも調べてみました。
結論から言うと、旧機種のNHKプラスアプリからログアウトし、新機種で同じIDでログインすれば問題ありません。旧機種のNHKプラスアプリにログインしたままだと、バックアップデータを新機種にそっくり移し替えても、NHKプラスのログイン情報は引き継がれません。そのため、新機種でNHKプラスアプリを立ち上げると、受信契約確認メッセージがまた表示されます。
NHKプラスに限りませんが、スマホを機種変して旧機種を手放す場合は、各種アプリ・サービスからログアウトして、本体のリセットを忘れないよう気をつけましょう。
NHKプラスを使わなくなったら? 解約できる?
NHKプラスIDを登録してみたけれど、アプリ(サービス)はもう使わないのでIDを削除したいという場合は、NHKプラスの「マイページ」から削除できます。
マイページの最下段に「ID利用終了手続き」というリンクがあり、画面の案内に従って手続きするだけで削除完了します。NHKプラスを止めても受信契約の解約とはなりません。逆に、受信契約を解約したらIDも自動的に削除されます。
放送・オンデマンドのさらなる融合に期待
テレビ放送とオンデマンドの垣根を(部分的ながらも)取り払った「NHKプラス」。現行のテレビ放送の付帯サービスという位置づけであり、NHK受信契約を伴わない利用は想定されていません。Netflixといった既存の映像配信サービスとは立ち位置が異なりますが、NHKプラスの登場は個人的には歓迎しています。見逃し配信が基本のTVerや、インターネットテレビ局として幅広く利用されているAbemaTVといった民放側のサービスも、これを機に放送とオンデマンドのさらなる融合を目指して切磋琢磨して欲しいと思います。
放送局としての方向性に疑問を持たれたり、賛否両論があることも分かりますが、NHKが受信料を元に制作した良質なコンテンツを多数抱えるコンテンツホルダーであることもまた事実。放送事業とは別立てで展開されている有料配信サービス「NHKオンデマンド」との関係も気になるところですが、NHKプラスの使いやすさや豊富なコンテンツの見せ方が進化していくことに期待しています。
NHKは4月1日から、スマートフォンやPCでNHK総合テレビとEテレ(教育テレビ)の番組を見られる新しいサービス「NHKプラス」を正式にスタートします。本格展開に先がけて試行的なサービスが3月1日から始まっており、実際の使い勝手や操作感を確かめるべく、手持ちのスマホやパソコンでさっそく登録してみました。
NHKプラスの狙いや詳細については、山本敦氏の事前体験レポートでお伝えしたとおりですが、
利用登録なしでいきなり見られる!?
NHKプラスは、iPhone/Android用アプリやPC・スマートフォンのWebブラウザから視聴できます。対応環境はNHKプラスの公式サイト内ヘルプを見ていただくとして、今回は筆者の手持ちのiPhone 7/XSとXperia XZ1 Compact、それにMacBook Air(Retina 2018)から試しました。
初回起動時は、NHKプラスのサービス概要が表示され、規約への同意が求められます。その後、映像を読み込む画面が映ってから数秒で、地上波で放送されているNHK総合の番組が流れ始めました。
NHKプラスを利用するための「NHKプラスID」(アカウント)は1つの放送受信契約に対して1つだけ登録でき、受信契約者と生計を同一にする人は追加の料金負担なしで利用できます。1アカウントで最大5画面での同時再生が可能で、たとえば父親が受信契約をしている場合、父親本人とその配偶者、子ども祖父母など最大5人が同時にNHKプラスの映像を楽しめます。ただし、NHKプラスのサービス提供は国内に限られ、たとえば海外に赴任したり、子どもが海外留学に出たりといったときには現地から国内の放送を見ることはできません。
ID登録はカンタンです。アプリ内ブラウザから「メールアドレスの入力」と「ID・パスワード設定」、「受信契約情報の入力」を済ませると、画面右下を覆っていたメッセージが消えてサービスの全機能が使えるようになります。入力にかかる時間はせいぜい10分くらいでした。なお、NHKの番組内や公式サイトでもたびたび呼びかけているとおり、NHKプラスを利用することで受信料が値上がりしたり、追加料金を要求されるといったことはなく、口座番号やクレジットカード番号の登録も必要ありません。
NHKプラスIDを登録してから1〜3週間後にNHKからハガキが届くので、ハガキに記載されている確認コードを指定の期限日までにWeb画面で入力して、登録手続きを完了させます。これは、なりすましによるID不正利用を防ぐ2段階認証のようなもので、ID登録情報と受信契約者本人の住所が一致してはじめて、すべての登録作業が完了します。
先ほどの「受信契約情報の入力」のときに、必須事項ではありませんが10ケタの「お客様番号」(NHKの払込用紙や領収書に記載されている)を入力しておくと、NHK側の作業がスムーズに進むのかもしれません。なお、確認コードを期限内に入力しないと再度メッセージが画面に表示され、登録前の状態に戻ります。
ちなみに、ID登録をせずにNHKプラスを見続けても、一定時間たつと映像が見られなくなったり、アプリが強制的に終了させられたりといったことは起きません。画面の右下がメッセージで覆われて見づらいだけで、執筆時点(3月4日)はNHKの受信契約がなくてもそのまま使えるようです(災害時などはこのメッセージ表示が消える運用になっています)。
しかし、これでは放送番組の「追いかけ再生」や、1週間分の「見逃し配信」といった便利な機能の大部分が使えませんので、素直に前述のID登録を済ませてしまいましょう。朝の連続テレビ小説「スカーレット」や、大河ドラマ「麒麟がくる」、NHKの生活・情報・教養番組を楽しみにしている人にとって、NHKプラスはきっと重宝するはずです。
試行的サービスを開始した初日の3月1日には申し込みが殺到したためか、ID登録ページが一時閉鎖される一幕もありましたが、現在は解消されています。
よくできたアプリで快適。ワンセグ? 知らない子ですね……
ID登録を済ませると、NHKプラスでさまざまな番組が見放題になります。
アプリを立ち上げてタテ向きに構えると、地デジ番組の同時配信が画面上に表示され、すぐ下にお知らせや前後の放送番組サムネイルが並びます。横画面にして映像を大きく表示することもできます。AbemaTVなどの映像配信アプリに慣れていれば、上下スクロールや左右フリックを多用した操作にはすぐなじむことでしょう。
サービス開始時は、南関東エリア(埼玉・千葉・東京・神奈川)に向けた放送を全国に同時配信しており、放送中の番組映像には赤い「LIVE」アイコンが表示されます。同時配信とはいえ放送から30秒程度遅れて配信されるので、時刻表示などは正確ではありませんが、不便は感じません。映像をタップすると、番組の観たい場所まで戻って流せる「追いかけ再生」機能などが利用可能。冒頭に戻る三角形のアイコンや、30秒送り/10秒戻しのボタン、シークバーが現れ、放送済みの見たいポイントへ自由にジャンプできます。
画質は、11.5Mbpsの場合は最高960×540ドット(QHD)。地デジの解像度(1,440×1,080ドット)や一部のBS放送(フルHD/1,920×1,080ドット)に比べると品質はだいぶ落ちますが、スマホ画面で見る限りはけっこうキレイな印象。映像に映っている被写体やテロップなど文字の輪郭に目をこらすと映像圧縮によるノイズがチラつきますが、必要十分な画質と言えるでしょう。音声は設定で主音声と副音声(二カ国語、解説放送など)が選べます。
イマドキのネット配信サービスらしく、観ている番組や特定の場面へのリンクを他のNHKプラスユーザーに共有できます。共有用のURLが自動生成され、TwitterやSMS、Eメールなどで自由にシェアできるので、家族や友だちがNHKプラスに登録していれば「この番組、面白いよ!」と知らせてあげられます。
テレビやBDレコーダーでおなじみの電子番組表(EPG)と同じように、番組内容や出演者・放送時間などの詳細説明を確認するといった機能もしっかり備えています。
画質に関しては、受信する端末側の回線品質に合わせて自動で最適化してくれますが、4段階での手動設定もできます。モバイル回線とWi-Fiの回線ごとに設定でき、最低画質は416×232ドット/192kbps、1時間あたりのデータ容量の目安は約0.1GBです。
最低画質でずっと見続けるのはちょっとツラいですが、観ていてふと「ワンセグとどっちが見やすいだろう?」と疑問に思ったので、宅内で手持ちのスマホで見比べてみました。当然ながら、ワンセグの最大320×240ドット(QVGA)画質と比べればNHKプラスのほうがまだ見やすく、文字周りの潰れ具合もいくらかマシに見えます。最近のスマホはワンセグ非対応のモデルも多いので、今後ワンセグ機能はカーナビ市場で生き永らえることになるのかもしれません。
字幕表示は、映像の上に文字を重ねるオーバーレイ表示と枠外表示に対応しています。映像よりもだいぶ遅れて表示されますが、音を出せない場所でも番組内容を把握できるので、通勤中にニュースや朝ドラを観る人にとってはありがたい機能ではないでしょうか。
●見逃し配信が便利、ただし課題も
見逃しても1週間は大丈夫! ただしキーワード検索は改善の余地アリ
放送番組を一通り堪能してからNHKプラスアプリの画面をじっくり見渡すと、番組を見つけやすくするためのメニューが多数用意されていることに気付きます。
まず、画面下には、NHKがカテゴリやトピックごとにまとめた「プレイリスト」、番組名や出演者から見たい番組を探せる「キーワード」検索、日時で番組を探せる「配信カレンダー」があります。
そして画面上には、同時配信の画面がある「放送中」のほか、カテゴリやトピックごとに映像をまとめたタブを横スクロールしてザッピング的に映像を楽しめる「まとめ」があり、上部右端の「検索結果」からは以前探した映像の一覧リストにすぐアクセスできます。
NHKプラスでは、放送番組の同時配信に加えて、放送終了時刻から数えて7日間の見逃し配信を行っていますが、上記のメニューは見逃し配信の対象番組を探すのに役立ちます。さらに各番組を再生するプレーヤー画面にも、下部にサムネイルを並べることで、関連番組を次々に楽しめるように作られていて便利です。
ドラマなどの見逃し配信は、最新話の同時配信が終了するまで前回の放送話を見られます。見逃し配信が終了するタイミングが分かりやすいよう、配信終了日が近づくと該当番組に「残り○日」というタグが自動で付くほか、「#まもなく配信終了」といったまとめページからも探せます。
気になるところもあります。プレイリストは、自分で好みの番組を並べ替えたり整理できるわけではなく、NHKがキーワードに沿って用意した番組リストのようなもの。また、カテゴリやトピックの文頭に付けられた「#」は、SNSなどのハッシュタグとは違い、リンクを伝ってジャンプする機能はありません。ネット文化を取り込みつつも、NHKプラス内では独自の意味づけがなされているようで、こうしたネーミングには個人的に違和感を覚えることもありました。慣れの問題かもしれませんが……。
キーワード検索については、たとえば「ニュースウオッチ9」の数字を「ナイン」とカタカナで入れたり、ひらがな入力にするとヒットせず、ぴったり同じにしないといけない、といった課題も。サービス開始当初はこうした仕様と上手に付き合っていく必要がありそうです。将来的にはあいまい語検索の技術を導入し、タレントや場所などの名前がうろおぼえでも探せるようにすると、ユーザーにとって親切な作りになるでしょう。
放送番組を全部見られるワケではありません
NHKスペシャルなどのドキュメンタリー番組や「沼にハマってきいてみた」など、良質な番組を録画して観ている筆者にとってはありがたいNHKプラス。ですが、正式スタート前だからか、自分が見たい番組のバリエーションがまだまだ多くはないな、というのが正直な感想です。
たとえば、執筆時点では音楽番組「SONGS」は検索しても見つかりませんでした。おそらく権利的な問題がクリアされていないために、NHKプラスでは配信できないのでしょう。また、NHKプラスの放送時間(午前7時から翌日午前0時までの17時間)を過ぎた遅い時間帯のアニメ「映像研には手を出すな!」も、当然ラインナップされていません。
こうした番組の放送時間は、同時配信画面に「現在放送中の番組は配信しておりません」というメッセージとともに、NHKキャラのどーもくんやうさじいの映像がループ再生されます(深夜は放送休止の案内表示が出ます)。NHKキャラの映像は見ていると若干なごみますが、こればかり表示されてもうれしくはないので、正式スタートの折にはぜひ配信番組のバリエーションを増やして欲しいと思います。ちなみに、配信対象の番組が再生されている最中でも、「この映像は配信しておりません」という「ふたかぶせ(代わりの静止画を差し込むなどの処理)」が差し込まれることもあります。
新型コロナウイルス感染症のまん延を防ぐ施策のひとつ、全国小中学校・高等学校などの休校を受け、NHKではこの3月、Eテレを中心に番組を特別編成で放送するとのこと(詳細PDF)。NHKプラスアプリでは今のところ、朝〜昼のEテレサブチャンネルの放送時間帯にサブチャンネルのタブが増えることは確認できましたが、ほとんどの番組が配信対象外のようで、上記の「現在放送中の番組は配信しておりません」がずっと流れていました。今後、NHKプラスのEテレサブチャンネルも活用されることに期待です。
IDひとつでホントに5人同時に見られる?
NHKプラスでは、「1つのNHKプラスIDで最大5画面の同時再生が可能」と説明しましたが、本当にできるのか簡単に調べてみました。家族1人につき1台利用するという想定でスマホとPCを計5台用意し、同じNHKプラスIDでログインして番組を流すだけです。
実際に試すと、確かに5画面で同時にNHKプラスを利用できました。宅内のネットワークとインターネット回線が良好なら、特に問題なく使えそうです。
5台の機器で表示しつつ、6台目のPCから同一のNHKプラスIDでログインしてみると、正常に画面が映りました。その代わり、既にログイン済みのスマホ1台の画面から映像が消えて真っ暗になり、「同時に視聴できる端末数の上限を超えました」というメッセージが表示されました。各端末の認証状態は、どうやらリアルタイムで把握しているようです。
スマホからのキャスト出力はできません
2月に行われたNHKプラスの事前説明会において、質疑の中で挙がった「NHKプラスの映像は外部出力できるのか」問題。NetflixやYouTubeといった一般的な映像配信アプリでは、同一ネットワーク内のメディアプレーヤーやスマートテレビにWi-Fi経由でキャスト出力できますが、NHKプラスは有線ケーブルによる出力も含めて、テレビやチューナー非搭載のモニターで視聴できないように設計されているとのことです。
実際にAndroidスマホの画面キャスト機能を使ってみると、NHKプラスのアプリ画面は表示されました。しかし、放送番組の映像は真っ黒のままで、音声だけが流れます。
なお、NHKプラスアプリはバックグラウンド再生や(Androidの)分割画面に対応していません。テレビの音声だけを聞いたり、番組を見ながらネットで調べ物をするといった使い方もできませんでした。こういった使い方をしたいときは、素直にテレビの前に座ったほうがよさそうです。
スマホを機種変したらどうなるの?
ちょうどiPhone 7からiPhone XSに乗り換えるタイミングだったので、今回はiPhoneを機種変したときのNHKプラスIDの扱いも調べてみました。
結論から言うと、旧機種のNHKプラスアプリからログアウトし、新機種で同じIDでログインすれば問題ありません。旧機種のNHKプラスアプリにログインしたままだと、バックアップデータを新機種にそっくり移し替えても、NHKプラスのログイン情報は引き継がれません。そのため、新機種でNHKプラスアプリを立ち上げると、受信契約確認メッセージがまた表示されます。
NHKプラスに限りませんが、スマホを機種変して旧機種を手放す場合は、各種アプリ・サービスからログアウトして、本体のリセットを忘れないよう気をつけましょう。
NHKプラスを使わなくなったら? 解約できる?
NHKプラスIDを登録してみたけれど、アプリ(サービス)はもう使わないのでIDを削除したいという場合は、NHKプラスの「マイページ」から削除できます。
マイページの最下段に「ID利用終了手続き」というリンクがあり、画面の案内に従って手続きするだけで削除完了します。NHKプラスを止めても受信契約の解約とはなりません。逆に、受信契約を解約したらIDも自動的に削除されます。
放送・オンデマンドのさらなる融合に期待
テレビ放送とオンデマンドの垣根を(部分的ながらも)取り払った「NHKプラス」。現行のテレビ放送の付帯サービスという位置づけであり、NHK受信契約を伴わない利用は想定されていません。Netflixといった既存の映像配信サービスとは立ち位置が異なりますが、NHKプラスの登場は個人的には歓迎しています。見逃し配信が基本のTVerや、インターネットテレビ局として幅広く利用されているAbemaTVといった民放側のサービスも、これを機に放送とオンデマンドのさらなる融合を目指して切磋琢磨して欲しいと思います。
放送局としての方向性に疑問を持たれたり、賛否両論があることも分かりますが、NHKが受信料を元に制作した良質なコンテンツを多数抱えるコンテンツホルダーであることもまた事実。放送事業とは別立てで展開されている有料配信サービス「NHKオンデマンド」との関係も気になるところですが、NHKプラスの使いやすさや豊富なコンテンツの見せ方が進化していくことに期待しています。