多様化する映像クリエイターの制作スタイルを訊く『Videographer’s File<ビデオグラファーズ・ファイル>』中島唱太
中島唱太
1987年生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。ディレクター・撮影監督・ドローンオペレーター・VJ・ARデザイナーなど幅広く活動する。父親は世界的CMディレクターとして有名な中島信也さん。幼い頃から映像制作は身近なもので、現場に見学にいくこともあったという。
文●松岡佳枝/現場写真提供●中島唱太
TISSUE STORY
中島さんが撮影監督を務めたFANZAのコンセプトムービー。空から地上までカットを感じさせない流れるような展開。YouTubeではメイキングムービーも公開されている。
想い出が悴んでて
監督、脚本を加藤拓也(劇団た組)が務め、母の再婚相手に恋をして想い出に縛られる女性役を広瀬アリスが演じる。日本映画専門チャンネル開局20周年ステーションIDとして制作。
機材は自分への投資 価値を感じられれば買う
中島唱太さんは、1993年に日清食品カップヌードル「hungry?」でカンヌ国際広告祭グランプリを受賞し、その後も数々の名ヒットTVCMを手がけたCMディレクター・中島信也さんのご子息。幼いころから映像の世界に興味があったというサラブレッドとも言うべき存在だ。
「父の仕事は子どもながらにすごいと思っていましたし、憧れの存在でした。映像の世界は身近にあったため興味はあったんです。中学生になるとゆとり教育以前の実験的な授業のなかに、週に2コマ、自由に興味のある分野について活動できる時間というのがあり、1年間かけて映画を撮影しました。タイトルは『シッパイダ-マン』。いま思えばすごいタイトルですが(笑)。中学生ながらにクロマキー合成や荷車を代用したドリーなども使った、15分くらいの映像でした。父の仕事を見ていたので、段取りがなんとなくわかっていて、絵コンテも描きましたね」
スパイダーマンが好きでVFXに興味があったという中島さんは撮影そのものよりもCGの分野から映像に入り、大学ではモーショングラフィックスやARに関する企画・映像制作も仕事として手がけてきたそう。
「撮影・編集をしてという映像ではなく、“目で見る映像”にずっと触れてきて、After Effectsだけを頼まれたりすることも多かったんです。撮影そのものは最近になってしっかりやるようになりましたね。新しいテクノロジーが好きで、PhantomにGoProをつけていた時代からドローンを導入したり、機材も使ってみて価値を感じられれば買います。自分に投資するという感覚ですね。実は最近ALEXAを購入したんですが、結構僕、いいものを安く、タイミングよく買う『買い物上手』なんですよ(笑)。ALEXAは既に仕事に使っています。シンプルで使いやすいですね。ただ物理的に重くてひとりでは難しいのですが、それなりの規模の現場ならすごく使い勝手が良いです」
自分自身が純粋に楽しいと 感じるライフワークを始めたい
現在は映画やCMの撮影監督として現場に入ることが多いという中島さんに今後について伺ってみた。
「撮影部はもちろん実写畑の人が多くて、僕みたいにCGから入る人はあまりいないので、コンプレックスみたいなものは少なからずあります。これまで、なんでもやってきて、実際僕のことを便利に使っていただくのが自分自身でも好きなんですね。『飛び道具』と周りに言われることもあるように、ある意味、不可能を可能にする、その人の頭のなかにしかないものを実際に映像化していくような仕事がすごく好きなんです。学生のころは楽しみという部分がメインで、楽しいことがお金になるという恵まれた状況でした。あらためてもう一度自分自身が楽しいと思えることを、仕事ではない部分でやっていきたいですね。今は仕事ばかりで、もちろんそれも楽しいのですが、自分自身で企画そのものから立ち上げるようなことをやってみたいと思っています。個人的には今、あらためてARの分野に注目しています」
●最近主に使う機材リスト
●ARRI ALEXAを個人で所有! ドローン、AR、VFX制作と幅広く活動
▲最近は撮影監督としての仕事が多いため、ARRI ALEXA SXT PLUSを導入し、現場でも運用している。
▲ドローンは黎明期から導入し、映画・CM等で空撮を手がけている(最近、水中ドローンも導入)。
▲自宅兼アトリエの機材室。
▲編集・グレーディング・VFX制作は自室で。
●幼少期に見学に行った父親の現場にて
父親に連れられて、現場に見学にきた幼き頃の中島さん。扉の写真と同じ構図でARRIのフィルムカメラのファインダーを覗き込む。
●VIDEOSALON 2020年1月号より転載