「千葉愛では、社内の誰にも負けません」ZOZO西巻拓自が語るスポーツ協賛
日本最大級のファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOは、千葉県千葉市に本社を構えており、Jリーグのジェフユナイテッド市原・千葉、プロ野球の千葉ロッテマリーンズの2チームへスポーツ協賛をしています。
そのZOZOにおいてスポーツ協賛を担当するのが、想像戦略室室長(取材時点)の西巻拓自(にしまき・たくじ)氏。2005年にアルバイトとして入社し、その後に正社員となった経歴を持つ西巻氏は、千葉市出身でもあります。スポーツを通して本社のある千葉市を盛り上げるべく、幼少期からスポーツに親しんできたスポーツ愛と地元愛も生かしながら、スポーツ協賛に力を注いでいます。
西巻氏が、前社長とともに積み上げてきた“ZOZO流”スポンサーアクティベーションと、スポーツ協賛にかける想いとは。ブランディングパートナーを務める、ジェフ千葉の事例を中心にお伺いしました。
前社長の地元愛が協賛のきっかけ
ZOZOは2016年11月に千葉マリンスタジアムの命名権を取得して、「ZOZOマリンスタジアム」と改めました。実はマリンスタジアムの命名権の話は私がアルバイトとして入社した直後から始まっています。以前の名称は「QVCマリンフィールド」でしたが、2011年にQVCさんが命名権を獲得した時には、ZOZOも手を挙げていたんです。
残念ながら2011年は当社が命名権を取得することは出来ませんでしたが、「何かスポーツの力になれないか」ということで、前社長が千葉マリンスタジアムに個人で1億円を寄付。その後もスタジアムのスタッフが着るクルーユニフォームのデザイン刷新のお手伝いなど、マリーンズとお付き合いを続けてきました。
取り組みの経緯としては前社長の地元愛があるものの、会社のある千葉市を盛り上げたいと思う気持ちはスタッフも一緒でした。クルーユニフォームの刷新もそうですが、現場のスタッフからの企画・立案をマリーンズに持ちかけて実現したこともたくさんあります。
私は企業がスポーツチームへスポーツ協賛するのであれば、企業側に「本気でやりたい人」がいないと面白くならないと思っています。そして前提として、チーム側もそれを求めているという関係性が重要です。
チーム側には、「物を言わないスポンサー企業を欲しているのであれば、そう言ってほしい」と伝えています。一緒にやるからには私たちの得意なことを生かしてサポートしていきたいと考えているからです。
スポーツチームへのスポーツ協賛を通した成果として、ZOZOTOWNの新規顧客を開拓できればもちろん嬉しいですが、それと同じくらい同じ千葉市に拠点を置く仲間として、千葉市を盛り上げることに価値を置いています。例えばZOZOTOWNがユニークなユニフォームのデザインを担当することで、それが話題になり、今までユニフォームを買わなかった人たちが購入してくれる。そして、そのユニフォームを着てスタジアムに行きたくなる。そういったスパイラルが生まれればいいなと。
今後のスポーツ界を盛り上げていくには、企業が自分たちの得意分野を生かしながらスポーツ協賛して、シナジーを生み出していくことが必要だと思います。ただ、そのためには企業側に「本気でやりたい人」がいないといけません。ZOZOの良いところは、本気でやりたい人を本気で応援できる社風にあると考えています。
ちなみにZOZOでは、私が一番千葉を愛していると思います(笑)。前社長より私のほうが千葉愛は強いと思っていますし、現行の澤田宏太郎社長の体制でも私が一番千葉を愛している自負があります。小学生の時にマリーンズのファンクラブに入っていましたからね。Jリーグが開幕した当時からジェフを見ていますし、舞浜の練習場にも行っていましたよ。
ジェフは、裏方が職人気質。着実に変化をしてきている
本来、スポンサー企業はチームの営業担当とコミュニケーションを取るものだと思います。ただ、私の場合はジェフのGMと同い年で地元も一緒なので、何かと縁があり、ご飯へ一緒に行くことも多いです。また、前社長の前田英之さんにも仲良くしていただいたので、経営陣の温度感も体感させてもらっています。
2019年に引退した佐藤勇人選手をはじめ、一部の選手とも仲良くしていただいています。しかも、サポーター軍団の中には、私の親族もいて。あらゆる方面と繋がりがあることも、ZOZOがスポンサー活動を通じたコミュニケーションを取る上で役立っています。
私はただお金を出すだけがスポーツ協賛だとは思っていないので、費用対効果を高めるだけでなく、自分達にできることをしたいという気持ちがすごく強いんですよ。スポンサー企業だからこそできることがありますし、スポンサー企業から言われたほうがチームも動きやすかったりしますからね。
実は、ZOZOがジェフのスポンサー企業になったきっかけは、私の親族にあるんです。親戚が正月に集まった時に、「マリーンズとは一緒にやっているのに、なんでジェフとはやらないの?」と言われて。やらない理由は特になかったものの、きっかけが無いというのが答えだったと思います。
そうしたら、彼がジェフの営業部に連絡して、「ZOZOの西巻宛に営業に行ってください」と言ったんですよ(笑)。その後に実際にジェフから連絡が来たので、私が話を伺うことになりました。
その時の営業部の方はものすごくノリが良くて。最初は公式戦で何かをやるのはハードルが高かったので、2015年に開催したレジェンドマッチで、ZOZOが試合のユニフォームをデザインすることになりました。その時に7、8個のデザインを用意して、その中の1個はかなり冒険したものだったんですけど、ジェフが選んだのはそれでした。
あまりにも斬新なデザインだったので、世界中でユニフォームが話題になったんです。海外のユニフォームのコレクトショップから、ジェフに問い合わせがあったとも聞きました。
翌2016年には、クラブ設立25周年を記念したスカジャンのデザインも担当しました。このスカジャンは、ジェフがクオリティの高い工場を見つけて作ったので、すごく良いものができたと感じています。価格は約2万円とグッズにしては高めですが、スカジャンは5、6万するものもありますし、あの値段であのクオリティは素晴らしいですよ。
提供:株式会社ZOZO
ZOZOのデザイナーの力もありますし、足を動かして工場を見つけてきた営業の方の力も大きかった。ジェフは裏方で活躍する方がみなさん職人気質で、チームの勝利に向けて着実に変化をしてきています。
企業のアイデンティティに繋がる“ロジカルではない”部分
ZOZOで15年勤務し、人生の3分の1以上を共に過ごしています。そのZOZOと、幼少期から応援してきたジェフのロゴが並んでいるだけで、すごく血が騒ぐんです。もちろんスポーツ協賛において、数字で測れる部分は効果検証をしたほうが良いとは思いますが、ZOZOの場合は「千葉市を応援して盛り上げる」ためにスポンサー活動を行っているので、単に売上を上げたり、会員数を増やすためだけにスポンサー活動を行っているわけではありません。
ただ、前社長はかなり数字を見ていましたよ。ロジカルな部分と、そうではない部分のバランスをものすごく気にしていて、ずっと「西巻はバランスが悪い」と言われ続けていました。言われたときは納得できなかったんですが、今になってその言葉の意味がすごく分かるんです。
何かしらツールを入れることで費用対効果を計測できるのであれば、すべきだと思います。ただ、正確な数値を測るには、導線をしっかりしないといけません。そうやって効果検証をするために取り組みを複雑化させたり、コストを上乗せしたりするのは、今は違う気がします。
もちろんこれはスポーツ協賛で「千葉市を応援して盛り上げる」という目的があるからであって、そのほかの形の施策であれば、当然ながらしっかりとした効果検証はしますけどね。スポーツ協賛でどれだけの効果が得られるかは未知数ですが、ZOZOが収益を上げられているうちは続けていきたいですね。
スポンサー活動を続けていくためには、会社として利益を生み出し続けていかなければいけませんが、ロジカルではない部分にどれだけ投資できるかは、企業のアイデンティティにも繋がると思っています。
スポーツ協賛は、スタッフのモチベーションに直結する部分もあります。例えば、スポンサー企業は試合のチケットを貰える機会も多いので、スポーツファンのスタッフにとっては嬉しいですよね。スタッフの休日が充実しますし、ZOZOにはスポーツファンが多いので、毎回スポンサーチケットはあっという間になくなります。
ZOZOの企業体質として、短期的に事業の業績に直結する事だけに投資しているわけではないという特徴があります。そういったDNAが刻み込まれていますし、スポーツ協賛はそれが表れている一つの例です。また、社内のデザイナーにとっても各チームのエンブレムを使う際には重みを感じていますし、責任が生じるやりがいのある仕事です。
点を線にするイメージを持って
クラブの価値を上げるためには、スポンサー企業とクラブの関係に、選手が入ってくることも重要だと思います。選手の社会体験にもなりますし、実際に積極的に間に入ってきてくれた選手もいました。
今後は佐藤勇人CUOや選手達とも手を取り合って、何かやりたいなと思っています。彼らの発信力や影響力は、もっとクラブのために生かせるはずですから。そこは佐藤勇人CUOとも相談して、クラブで影響力のある人達を巻き込みながら、サポーターの方々が喜んでもらえる様な取り組みを考えていきたいです。
スポーツ協賛には、お金を出してサポートするスポンサー企業と、ZOZOのように施策ベースでお金を出すスポンサー企業の2つがあります。どちらが良いという話ではないですが、私たちは「こういうことがやりたい」という目的意識を持ってスポーツ協賛しています。
もちろん単発施策としてやるべきものは沢山あると思うのですが、大切なのは行き当たりばったりの施策にしないことです。独立した単発施策も、ひとつの大きなストーリーに乗せることで、その影響力は何倍にも変わってくるのではないでしょうか。
そういった意味で、これからジェフと取り組む時には、今まで以上にストーリーを意識し互いに共有した上で、沢山の点を線にしていける様にサポートさせていただきたいと思っています。ブランディングパートナーという肩書きを掲げている以上は、もっと大きなことを成し遂げたいです。そのために、地元のチームとは今後も共に歩んでいきたいと考えています。