カーリング北澤育恵と中嶋星奈が明かす「必勝アイテム&勝負メシ」
中部電力カーリング部
北澤育恵&中嶋星奈の「名コンビ」対談(後編)
初の五輪出場を目指して、日々鍛錬を重ねている中部電力。今回の日本選手権は、2022年の北京五輪出場権をかけた第一歩となる。そこでの奮起が期待されるフォースの北澤育恵とスキップの中嶋星奈に、大会への意気込みを聞いた――。
中部電力のフォースを務める北澤育恵
――五輪出場へ向けて、重要な日本選手権が始まりました。同大会への抱負をうかがう前に、昨季から今季ここまでの過程を振り返っていただきたいと思います。よかった点、課題となった点など教えてください。
※1=パシフィック・アジア選手権。2019年11月に中国・深圳で開催され、日本代表として出場した中部電力が準優勝。その結果、3月にカナダ・プリンスジョージで行なわれる世界選手権の出場枠を獲得した。同大会には、今回の日本選手権優勝チームが出場予定。
課題は、チームとして、アイスリーディング(氷を読むこと)の能力がまだ足りていないことですね。とくに、そのスピード。アイスの変化に気づくのが遅い。変化そのものもそうなんですけど、(アイスの状態が)変わりそうな時にはもう、(石を投げるスピードやスイープの強弱を)調整していかなければいけないので。
中嶋 言いたいことは全部、イクべぇ(北澤)に言われてしまいました。(課題となるアイスリーディングについては)とくにPACCの時のようなアイスアリーナだと、変化に気づくのが遅くなるので、そこは、正確な幅(※2)をより意識できるようにしたい。スキップとして、もっと経験を重ねていかないといけないと思っています。
※2=ストーンの曲がりをある程度予測して、味方が投球する際にスキップが目標となるポイントをブラシで示すこと。「曲がり幅」や「幅をとる」などと表現する。
あと、個人的には体力面も課題となりました。私はスキップなので、スイープ(の回数)は多くないんですけど、世界選手権のような過密スケジュールでは、最初に脳が疲れて、その後に体も疲れて、ショットが決まらなくなってしまって……。そういうゲームがあったので、トレーナーさんにも相談して、今季は少しだけ、ランのトレーニングを増やしました。
北澤 少しだけ? たくさん走りなよ!
中嶋 うるさい! 走ってるよ!!
中部電力のスキップを担う中嶋星奈
――北澤選手から見て、中嶋選手が「疲れているな」と感じた場面はありましたか。
北澤 疲れからなのか、集中力が切れてしまうことが、時々ありましたね。少し前に投げた幅の取り方を覚えていなかったり、ショットの秒数を計り忘れたり。
――そういう時は注意したり、怒ったりするのですか。
北澤 怒ったりはしないですし、疲れている時に注意しても解決しないので、周りでフォローするようにします。
中嶋 いつもありがとうございます。
――北澤選手のフォースとしてのパフォーマンスはいかがでしたか。自己評価していただけますか。
北澤 昨季も、今季も、調子の波が激しいかもしれません。感覚をつかめている時は、いいショットが決まるんですが、つかめていないと決まらない。試合前練習から、いつも以上に緊張感を持って臨むとか、自分なりにうまくいく方法を模索中です。
――昨年出場した世界選手権において、お手本となるようなスキップとフォースの選手はいましたか。
北澤 カナダ代表はもちろんのこと、やはり決勝まで進んだスイス代表の(シルバーナ・)トリンゾーニ選手、スウェーデン代表の(アンナ・)ハッセルバーグ選手はすばらしかったです。スキップとしても、チームとしても、本当に強さを感じました。
中嶋 そう、キーショットがバンバン決まって、大事な場面では最強でした。
北澤 技術や経験値も高いんですけど、それらの国がすごいのは、チームとして好不調の波が小さいこと。たとえば、ひとり調子がよくない選手がいても、ほかの選手がいいショットをしてカバーしたりして、崩れない強さがあると感じました。ウチはひとりでも調子が悪いと、チーム全体のパフォーマンスが落ちてしまうことがあるので、そういう強豪国のような安定感がほしいです。
――世界のトップチームとの対戦を経て、チーム内に変化は見られましたか。
北澤(チームや個々で)足りないものは、選手それぞれが気づいたと思います。中嶋がさっき言った体力もそうですけど、私はリリースの安定だったり、(石郷岡)葉純ちゃんはリリースの改善だったり、(松村)千秋さんもスイープを繰り返すフィジカルだったり、それぞれに課題が生まれた。そして世界選手権以降、モロちゃん(両角友佑コーチ)を含めて、メンバー同士でもいろいろと話し合って、各自の課題克服に取り組んでいます。
中嶋 また、私が言いたいことを、だいたい言われちゃいました。
――さて、日本選手権。おふたりは、2017年大会と2019年大会と、2度優勝を経験しています。そして今回は、”女王”として大会に臨むわけですが、現在の思い、意気込みなどを教えてください。
中嶋 2017年と2019年の大会については、選手もポジションも違うので、単純に比較はできませんが、どちらもその時のチームのいい色が出ていて、それが結果につながったのかな、と思います。今大会に向けては、まずはこの1年間に取り込んできたことを出せるように、一試合、一試合、集中してプレーできたら、と思っています。
北澤 昨年優勝している、というのは、実はあまり意識していません。それでも、他のチームはウチのことを研究してくると思うので、それに負けずに、攻めるところと引くところを見極めて、(すべての試合で)波のない試合をしたいですね。まずは、しっかりとアイスリーディングして、見ていて楽しい、やっている選手はもっと楽しい、”攻めるカーリング”をお見せしたいです。
日本選手権で1年間取り組んできたことを出し切りたいと話す中嶋星奈
――近年の日本選手権は常に、中部電力、ロコ・ソラーレ、北海道銀行フォルティウス、富士急の「4強の争い」と言われています。その「4強」の中で、中嶋選手は一番若いスキップですが、気後れするようことはありませんか。
中嶋 みなさん、本当にすばらしい技術があって、それに比べて、私のスキップとしての能力はまだまだです。でもその分、(自分には)伸びしろしかないと思っているので、1ショット、1試合、1大会ごとに成長していけると思っています。それに、イクべぇの勝負強いショットを引き出すのは、私にしかできない仕事だと思っています。
――おふたりは、大勝負の前にゲンを担いだりしますか。
中嶋 そこまで強く意識していませんが、昨年の日本選手権の決勝では、『千と千尋の神隠し』の湯婆婆の靴下をふたりとも履いていましたね。
北澤 あれは、魔力が使えるようになるので。あと、中嶋のお母さんが買ってくれた『クレヨンしんちゃん』のチョコビの靴下を履いた時も調子がいいので、(大勝負の時は)どちらかを履いて試合に臨むと思います。
――”勝負メシ”のようなものはありますか。
中嶋“勝負メシ”ってわけではありませんが、最近ハマっているのは、イクべぇが連れていってくれた、佐久にあるお店のもんじゃ焼き。
北澤 もんじゃ焼きって、絶対に中嶋の好きな味だと私は思っていたんですよ。でもこの人、最初は「嫌いだ、嫌いだ」って、ずっと言っていて……。それが、いざ連れて行ったら、「美味しい!」って……。
――では、日本選手権の前には、もんじゃ焼きで決起会ですね。
中嶋 あ〜、でも、日本選手権の前は母が作ってくれる、たらスパですね。あれを食べると、調子がいいんです。
北澤 あのたらスパは、少し硬めのアルデンテで本当に美味しい。
――北澤選手も一緒に食べられるんですか。
中嶋 私の家は(活動拠点となるアイスアリーナがある)軽井沢町内なんですけど、イクべぇの家は佐久なので、よくウチに泊まりに来るんです。そういえば、2017年の日本選手権決勝の日も、たらスパを一緒に食べたかもしれない。
北澤 雪が降ったりすると、移動も大変なので、大会中などは中嶋の家に泊まらせてもらっています。でも、それ以外の時も、小さい頃からお世話になっています。
日本選手権では「攻めるカーリング」をお見せしたいという北澤育恵
――そうすると、今回の日本選手権でも、大会中は中嶋選手のお宅にお世話になるのでしょうね。
北澤 天気予報にもよりますけど、お世話になる予定です。エビチリも美味しいし、定番のきゅうりの漬物は外せない! とても楽しみです。
――最後に「ウチのチームのここを注目してほしい」というポイントを教えてください。
北澤 まずは、葉純ちゃんのセットアップです。そこで、ウチのチームらしい展開を作ってもらって、幸運をもたらす”ラッキーガール”の中嶋につないでもらいたい。
中嶋 千秋さんのパワフルなランバック(※3)には注目してほしいですね。テイクがうまい、イクべぇのダブル・テイク(※4)も見どころです。
※3=ストーンの進路を塞ぐために置かれた、ハウスに入っていない相手のガードストーンに当てて、そのガードストーンをハウスに向かわせるショット。玉突きのように、複数のストーンを動かすこともある。
※4=テイクとは相手のストーンをハウス内から押し出すショット。1投で、2つの相手ストーンを押し出すことをダブル・テイクアウトと言う。3つ出せば、トリプル・テイクアウト。
北澤 とにかく、ウチのチームは中嶋に、彼女の集中力にかかっているので、みなさん、彼女に注目してください! 試合に勝ったあとの、氷上インタビューも一生懸命に取り組むので、応援してあげてください!!
(おわり)
北澤育恵(きたざわ・いくえ)
1996年10月12日、長野県生まれ。中学校2年生の時にカーリングを始める。ジュニア世代から全日本ジュニアに名を連ね、フィニッシャーとして将来を嘱望される存在となる。2015年、中部電力に入社。2017年はセカンドを担い、2019年はフォースとして活躍し、チームの日本選手権制覇に貢献した。東京ディズニーリゾートが好きで、お気に入りのアトラクションは『トイ・ストーリー・マニア!』
中嶋星奈(なかじま・せいな)
1997年12月2日、長野県生まれ。14歳でカーリングを始める。すぐに頭角を現して、高校3年時には中部ブロック代表(チーム軽井沢)として日本選手権に出場。プレーオフ進出を果たすなど、世代を代表する選手のひとりだ。2016年に中部電力に入社し、2017年はフィフスとして、2019年はスキップとして奮闘し、チームの日本選手権優勝に貢献した。好きな言葉は、鵜沢将司トレーナーから贈られた「感じるな、考えろ」