【村上 和巳】新型コロナウイルス、実は「マスク着用」より先にやるべきことがある WHOが示した「5つの推奨行為」

写真拡大 (全4枚)

消毒薬やマスクが飛ぶように売れているが

昨年12月、中国湖北省武漢(ウーハン)市から発生した謎の肺炎。昨年末時点では患者は武漢市のみ数十人程度で原因不明だったが、1月9日に中国当局は原因が新型コロナウイルスとみられると発表した。

中国国内では1月20日以降、感染者数の報告が増加し始め、中国国家衛生健康委員会による1月31日午前時点での発表では死者が213人、感染者は9692人にまで達した。またこの時期は中国の旧正月に当たる「春節」の休暇中で、国内で感染して海外に渡航していた中国人も多く、感染者の確認は30日時点で18か国にまで拡大している。

日本ではこの新型コロナウイルス感染症について急遽、感染者の強制措置も可能な感染症法に基づく「指定感染症」と定め、WHOは1月31日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言する事態に至った。

日本でも1月16日には神奈川県在住の中国籍男性の感染が発覚。この事態に日本政府は武漢市住日本人の退避のため政府専用機を派遣する異例の措置をとった。この政府専用機での帰国者の中からも3人の感染が発覚し、1月31日時点で日本国内で判明した感染者は12人、うち2人は武漢市渡航歴がない国内での二次感染とみられている。

国外二次感染例一覧
拡大画像表示

すでに国内では日本での感染者発覚直後から、ドラッグストアなどで消毒薬やマスクが飛ぶように売れているが、日本国内の二次感染者が発生したことでこのような動きは加速するとみられる。

だが、まず結論から言おう。慌てるなかれ。ごく普通の感染対策で、感染のリスクを減らすことが可能なことを知っておこう。

「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」

そもそもコロナウイルス自体は珍しいウイルスではない。

現在、存在が知られているコロナウイルスは6種類。うち4種類は通常ヒトの間で流行する風邪の原因ウイルスであり、残る2種類が動物からヒトに感染し、比較的重症の肺炎を起こしやすいことが分かっている。

photo by iStock

風邪の原因となる4種類のコロナウイルスは、通常風邪といわれるものの10〜15%、風邪流行期では3人に1人が感染する。コロナウイルスという名前を報道で初めて聞いた人もいるかもしれないが、広い意味でのコロナウイルスは実はほとんどの人が幼少時までに感染経験があるものなのだ。

残る2種類のコロナウイルスは、一つが2002年に中国広東省を起点に32か国・地域で流行した重症急性呼吸器症候群 (SARS) の原因として見つかったSARSコロナウイルス、もう一つが2012年にイギリスで中東渡航歴にある肺炎患者から見つかった中東呼吸器症候群(MERS)のMERSコロナウイルス。

SARSコロナウイルスはコウモリ、MERSコロナウイルスはヒトコブラクダの中にいたウイルスがヒトに感染するようになったものだ。

これまで判明しているデータから計算できるこの2つのコロナウイルスでの感染者での死亡割合を示す致命率は、SARSコロナウイルスは約10%、MERSコロナウイルスが約34%と比較的高い数字となっている。

これらのコロナウイルスの感染経路は、咳やくしゃみなどで飛び散ったウイルスを含む唾など(飛沫)を吸い込む「飛沫感染」、感染者から発生したウイルスが付着したものを手で触り、その手で口や鼻を触るなどをして体内にウイルスが入り込んで感染する「接触感染」の2つとされている。

一方で飛び散った飛沫から水分が抜けた状態でウイルスが長時間空気中を漂い、それを吸い込むことで感染が起こる「空気感染」はないと考えられている。

最新研究「新型コロナウイルス感染症の動向」

今回の原因ウイルスについて世界保健機関(WHO)は1月10日、これまで存在が確認されている6種類とは別の新型コロナウイルスであるとして、「2019-nCoV」と命名している。

photo by Gettyimages

新型コロナウイルスは、そもそも昨年12月に武漢市の海鮮卸売市場「華南海鮮城(2020年1月1日に閉鎖)」の関係者を中心に感染者が発生した。

同卸売市場は海鮮品だけでなく食用野生動物も取り扱っていることから、現時点ではSARSコロナウイルスやMERSコロナウイルスのように食用野生動物のいずれかの体内にいたウイルスが、何らかの形でヒトに感染し始めた疑いが強まっている。

新型コロナウイルスについては、1月24日に中国の研究グループが国際的にも有名な医学誌「ランセット」と「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に最新の症例報告などを発表している。ここから現時点でのこのウイルスの特徴の一端が見えてくる。

まず、ランセットに報告されたデータは、12月16日から1月2日までに感染が確認された入院患者41人に関するもので、その66%が華南海鮮城と何らかの接触があった人だ。

患者の年齢層は25〜49歳までのいわゆる勤労層が最も多く、これ以下の年齢の感染者は少ない。全体の32%がすでに持病があり、主なものは糖尿病が20%、高血圧、心血管疾患(いわゆる心臓病や脳梗塞など)がそれぞれ15%。

この論文では全体の32%が集中治療室での治療が必要になったと記述されているが、この割合は入院に至る重度な症状の人でのことであり、現時点では参考値程度に考える方が望ましいだろう。

入院患者は、1人を除いて発熱の症状を訴え、うち半数以上は38.1℃以上の発熱。これ以外に目立つ症状は、多い順に咳、筋肉痛・倦怠感、痰などで、一部の患者では血痰、下痢、頭痛などの症状もあったという。また、この41人から推定される経過としては、症状を感じてから入院までは1週間程度ということだ。

感染力は「インフルエンザ」と同等かやや低い

一方、「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」に公表された論文では3人の感染者のうち2人の経過などが記載されており、1人が華南海鮮城で働く49歳の女性、もう1人は華南海鮮市場を頻繁に訪問している61歳男性。

女性は最初37〜38℃の発熱、咳、胸部不快感の症状が出て、4日後には熱は下がってきたものの咳、胸部不快感が悪化。男性の方は発熱、咳が始まってから7日後に呼吸困難の症状を訴え、さらにその後2日間で呼吸困難の症状が悪化し、人工呼吸器の使用が開始された。女性の方はすでに回復して退院したものの、男性の方は死亡している。

なお、現在のところ新型コロナウイルスの感染から発症までの潜伏期間は、ランセットに発表された論文では推定で7日程度としているが、まだ正確には不明。ただ、MERSコロナウイルスが最大で14日間と言われているため、おおむねこの期間内と考えられる。

すでにこの状況下では、新型コロナウイルスがヒトからヒトへの感染が起こることは明らかだが、その感染力を示す数字として1人の感染者が何人に感染させるかという基本再生産数という指標がある。

現在、WHOが公表している新型コロナウイルスの暫定の基本再生産数は1.4〜2.5。つまり1人の感染者から2〜3人に感染を拡大させる可能性があるということだ。

ちなみによく知られている季節性インフルエンザの基本再生産数は2〜3で、データによっては最大4超というのもある。現時点で分かっている新型コロナウイルスの感染力は、インフルエンザと同等かやや低いということになる。

一方、ウイルスなどの病原体は、感染から症状発症までの潜伏期間中に他人に感染力を持たないケース(エボラウイルスなど)と感染力を有するケース(インフルエンザなど)があるが、中国国家衛生健康委員会は今回の新型コロナウイルスは後者ではないかとの見解を示している。

致命率は2.2%

さて今回の新型コロナウイルスについて感染者数も死亡者数も過去1週間、増加の一途をたどっている。ただ、これは検査体制の強化と報道の増加で、検査を受ける人が増えた結果とみられる。

WHOは1月21日から毎日、「Situation Report」という新型コロナウイルスの発生状況について発表している。ここからこのウイルスの致命率を計算し、日毎にその変動を見るとグラフのようになる。

コロナ致死率推移
拡大画像表示

当初致命率が上昇したものの、感染者と死亡者の増加とともに致命率は徐々に頭打ちから横ばいになり、そこから緩やかに低下している。最新のWHO公式発表による致命率は2.2%である。その数字はこれまで分かっているSARSコロナウイルス、MARSコロナウイルスの致命率よりも低い。

また、今回、武漢市から帰国した人の中には、検査でウイルスが検出されたにもかかわらず、症状がない人が2人いたことが分かっている。

中国現地での報道でも同様のことが伝えられている。「不顕性感染」と呼ばれる、こうした症状のないあるいは軽度のまま経過する感染者は他の一部のウイルスでも存在することが分かっている。こうした人たちは咳をするなどの症状が少ないため、他人に感染させるリスクは低くなる。

今後、検査体制の拡充に伴い、こうした不顕性感染者が増えてくる可能性はあり、その結果致命率が低下する可能性は十分にある。

一方、完全なデータではないものの、現状で公表されている死亡者のデータを見ると、その多くが60歳以上の高齢者、かつ糖尿病や高血圧、心臓疾患、慢性気管支炎などを有しているケースである。

さらにこれまで報告されている事例の範囲では、感染者からの二次感染は、ともに居住する家族など濃厚接触をしている人がほとんんどである。中国国外で判明している二次感染例も表を見ればわかる通り、やはり濃厚接触した事例で、感染源も推定可能な状況である。

少なくとも日本に入り込んだウイルスが感染源も特定できないほどまでに蔓延している状況ではない。

季節性インフルエンザと「同様」の対策を

そして前述のWHOが公表している1人の新型コロナウイルス感染者からどれだけの人に感染させるかという暫定の基本再生産数1.4〜2.5についても考えてみたい。

この数字は単純なウイルスの持つ能力以外に流行地域の人口密度、各国の医療レベルや国民の行動様式、個人の感染防御対応などにも左右される。そして今回の暫定基本再生産数はほぼ中国のデータを中心に計算されている。

やや踏み込んだ解釈になるが、例えば過去に前述のランセットに2017年に掲載された世界の195か国・地域の医療の品質ランキング・アクセスのランキングを見ると、今回新型コロナウイルスの感染者が発生している先進国の順位は日本が11位、フランスが15位、カナダが17位、ドイツが20位、アメリカが35位などとなっている。これに対して中国は60位である。

また、米コンサルティング会社マーサーが毎年行っている医療・衛生状況なども含めた「世界生活環境調査都市ランキング」を見ると、日本を含む前述の感染者が発生している先進国の都市の順位は概ね70位程度までにランクインしている。

これに対し、中国の首都北京をはじめとする各都市は100〜130位台に並ぶ。やや酷な評価になるが、中国以外で発生していた場合、基本再生産数は低めになる可能性もある。

致命率、二次感染の発生状況、基本再生産性などを総合すると、日本国内で新型コロナウイルスの感染を避けるための対策は通常の季節性インフルエンザなどと同様のものと考えるべきである。

WHOが示した推奨行為の中身

では、どのような対策が必要か?

実はWHOがすでに一般人に対し、新型コロナウイルスへの感染リスク低下のための推奨行為を示している。列挙すると以下のようになる。

・アルコール洗浄剤か石けんを使って水で頻繁に手を洗う
・咳やくしゃみはひじの内側やティッシュで口と鼻をカバーし、ティッシュを使った場合はすぐ捨てて手を洗う
・発熱や咳のある人に密接に接触しない
・肉や卵はよく加熱する
・野生動物や家畜に防御なしで接触しない

まず、咳やくしゃみ時に鼻や口を手で覆う通称「咳エチケット」は多くの人が習慣化しているだろうが、ここでは素手ではなくひじの内側かティッシュで覆うとしている。

これはすでに判明しているコロナウイルスでは、前述の接触感染が判明しているためだ。ひじの部分にウイルスが含む飛沫がついても、頻繁にモノに触れる手の平と比べ、そこからの接触感染リスクは低い。また、ティッシュで覆った場合もすぐに捨て手を洗うのは同様の理由からである。

肉や卵に対する加熱処理、動物にむやみに接触しないというのは、今回の新型コロナウイルスがSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス同様、動物が持つウイルスがヒトに感染したと考えられているからである。

一方、この推奨の中にマスク着用がないことを不思議に思う人もいるかもしれない。しかし、意外と知られていないが、マスクは呼吸器感染症で咳などの症状がある人が、飛沫を飛ばして他人に感染させるリスクを減らすのが第一の使用目的である。

一般人が着用するマスクで感染症を防ぎきれるものではない。逆にマスクを着用することで、ウイルスなどで汚染されている可能性がある手で口や鼻の周辺を触る機会が増え、感染リスクが高くなることもある。

何よりも第一に行うべきことはまめな手洗いである。

咳、発熱があったら…

一方、このような事態が発生すると、発熱や咳の症状があるだけで、「新型コロナウイルスに感染したかも…」と思いこんで医療機関を受診する人が増える傾向がある。しかし、こうした行為は避けた方が良い。

繰り返しになるが、現時点での二次感染は感染者との濃厚接触者が中心。新型コロナウイルスの感染を疑うべき人は「最近まで中国の流行地に在住・渡航していた人と同一空間で過ごすなどの濃厚な接触機会があり、発熱や咳、呼吸の苦しさなどの症状がある」という人である。

もし、この条件に合致する場合は、医療機関の受診よりもまずは最寄りの保健所に連絡を取り、指示を受けることが先決だ。保健所に先立って医療機関を受診せざるを得ない場合でも事前にその医療機関に電話などで連絡を取ってから向かうべきである。

ちなみに従来知られているコロナウイルスも今回の新型コロナウイルスも現時点で「空気感染」するとの報告はない。つまり流行地から来た人と街中ですれ違ったぐらいで感染するリスクはほぼないと言ってよい。

流行地にいた人と濃厚接触がなく、咳や発熱の症状がある人は、通常の風邪やインフルエンザの方が可能性が高い。この場合も高齢者や乳幼児、糖尿病、高血圧、慢性の呼吸疾患がある人以外は、発症から3〜4日は自宅で静養に努めることが望ましい。それは以下のような3つの理由からだ。

(1)風邪やインフルエンザはおおむね3〜4日間に症状が軽快に向かう
(2)医療機関内は高齢者や何らかの病気を持っているなど感染症全般が重症化しやすい人たちが多く、その人たちに感染させてしまう恐れがある
(3)発熱や咳だけで医療機関に殺到すれば、医療機関の限られたマンパワーが疲弊する

新型ウイルスでも個人の基本対策は同じ

また、これを機会に自身の感染症対策を見直そう。

そもそも前述のWHOによる新型コロナウイルスの感染リスク低下を目的とした推奨行為を「当たり前過ぎる」「バカバカしい」と思った人もいるかもしれない。だがそれを本当に日常的習慣させている人はどれだけいるだろうか?

くしゃみを素手で抑えて、その手をティッシュで拭くだけで、手を洗わずに日常生活を送っている人は意外と多いのではないか? 前述の推奨行為はすべての感染症リスク低下につながる行為であり、これを機に日常習慣化させよう。

また、今回の新型コロナウイルスよりも日本で毎年数多くの死者を出している感染症、新型コロナウイルスよりも感染力が強い感染症など、身近で侮れない感染症があることは知っておいた方がいい。

厚生労働省が公表している2018年人口動態統計では、感染症による死者が国内で9674人も報告されている。この中で最も死亡原因として多い感染症はズバリ、インフルエンザの3325人である。これに次ぐのが感染性胃腸炎の2332人、結核の2204人である。

インフルエンザ、感染性腸炎の一部、結核はワクチン接種でリスクを低下させることができる。よく巷では「インフルエンザワクチンは効かない」と喧伝する人がいるが、これは正確ではない。

インフルエンザワクチンの予防効果が完全でないのは確かだが、それでもワクチンを接種しないで感染した人の6割はワクチン接種で防げていたもので、ワクチンを接種したにもかかわらず感染した場合は、ワクチン接種をしないで感染した場合と比べて、死亡に至るリスクは6〜7割は低下することが過去の研究からわかっている。

WHOもインフルエンザ感染の回避方法として「毎年ワクチンを接種することが最善策」としている。

予防は可能だ

そして今回の新型コロナウイルスの感染力を示す基本再生産数1.4〜2.5より高い感染症もある。例えば空気感染する麻疹(はしか)の12〜18、風疹の5〜7、おたふく風邪の4〜7などだ。

麻疹は先進国では致命率0.1%と言われるが、日本で麻疹患者が全例報告となった2008年以降の致命率を厚生労働省の人口動態統計などで割り出すと、2013年には0.9%を記録するなど、むしろ日本は先進国一般よりも高い致命率の年もある。そしてこの麻疹、風疹、おたふく風邪などもワクチンでの予防が可能である。

いずれにせよ、普段からの前述のような手洗いを中心とする感染予防対策の習慣化、ワクチンでリスクを減らせる感染症ではワクチンを接種するという感染症対策マインドを心掛けよう。

そうすることで今回のような騒動での動揺をある程度抑えることができる。こうしたこともせずに今回のような騒ぎの時だけマスクを買いに走るのは本末転倒。そういう人は、やや品のない言い方になるが、まるで上半身だけ服を着て、下半身丸出しで歩くようなものなのである。