by raggio5

時空のある1点から別の1点へ直結する空間のトンネルが「ワームホール」ですが、ワームホールが現実に存在するかどうかについては世界中の物理学者が長年議論しても決着がついていません。そんなワームホールが仮に存在した場合、「どうやってワームホールを見つけるのか」を考察した論文が発表されました。

Phys. Rev. D 100, 083513 (2019) - Observing a wormhole

https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.100.083513

How to spot a wormhole (if they exist)

https://phys.org/news/2019-10-wormhole.html

ワームホールは「時空を超えて離れた2点をつなぐトンネル」であり、超時空ワープを可能にする存在としてSF作品に登場することがよくあります。現実でもワームホールの存在が議論されており、「あまりにも強すぎる重力によって光すら逃げ出せないブラックホールは、ホワイトホールと呼ばれる天体とワームホールを通じてつながっている」という説もあります。

アメリカのニューヨーク州立大学バッファロー校の物理学者であるデヤン・ストイコビッチ氏は、射手座A*と呼ばれる宙域に注目。地球からおよそ2万6000光年離れた射手座A*には、太陽の431万倍という超大質量のブラックホールが存在していると以前から指摘されています。



by NASA

ワームホールが存在するためには超巨大ブラックホールのような極端な重力条件が必要となるため、この射手座A*がワームホールを探すのに適した場所だとストイコビッチ氏は論じ、射手座A*の近くにある恒星S2の軌道をチェックすることがワームホールの発見につながるだと主張しています。

ストイコビッチ氏は「ワームホールの両側に2つの星が存在する場合、重力のゆがみはワームホールを通過し、片方の星は反対側にある星の重力の影響を受けることとなります。射手座A*にワームホールがあると仮定した場合、観測されるS2の軌道は予想からずれてしまうはずです」と述べました。

ただし、あくまでもストイコビッチ氏の主張は「もしワームホールが存在するならば」という仮定に基づいたもの。「たとえ実際にS2の軌道にズレが認められても、それがワームホールの存在を証明するというわけではありません」とストイコビッチ氏は注意を促しています。

なお、「実際にワームホールが発見されたとしても、SF作品で描かれるようなものではないでしょう」とストイコビッチ氏はコメント。「仮にワームホールが通過可能だったとしても、人や宇宙船はほとんど通過できません。現実には、ワームホールを開いたままにするためには負のエネルギー源が必要になります。しかし、私たちは負のエネルギーを作り出す方法を知りません。安定して巨大なワームホールを作るためには魔法が必要なのです」と論じています。



by JohnsonMartin