前日会見で日本サッカーへの熱い想いを明かしたケイロス監督。どこか余裕しゃくしゃくのようで……。(C)AFC

写真拡大 (全2枚)

 2019年の名場面を『サッカーダイジェストWeb』のヒット記事で振り返るこの企画。
今回は、今年1月に行なわれたアジアカップの準決勝を前に、対戦相手のイラン代表を率いるカルロス・ケイロス監督が語った「森保ジャパン評」を紹介する。かつて名古屋グランパスを指揮していただけに、日本への“想い”は人一倍のようで……。
 
記事初掲載:2019年1月28日
 
――◆――◆――
 
 優勝候補筆頭、イランとの大一番が迫る。

 日本時間の1月28日23時にキックオフされる、アジアカップ2019準決勝。日本代表は2大会ぶりのファイナル進出を懸けて、チーム・メッリ(国民のチームの意、イラン代表の愛称)と雌雄を決する。

 試合前日のチーム練習後、両指揮官が記者会見に臨んだ。2011年からイラン代表を率いて8年が経つカルロス・ケイロス監督は、感慨深げに大一番への決意を明かした。

「明日はとにかく、万全の準備をしていいサッカーをしたい。日本は素晴らしい選手がいて、素晴らしい国でもある。日本代表について、いまさらわたしが多くを語る必要はないだろう。そういう国との対戦を前にすごくわくわくしているし、興奮しているよ。我々は今回の準決勝に、8年という長い時間をかけ、苦しい道のりを経て到達した。ここまで来れたことは誇りであり、とても嬉しく思う」
 
 日本は今大会で5連勝を飾っているが、すべて1点差勝ち。ラウンド・オブ16のサウジアラビア戦では守勢に回る時間帯が圧倒的に長く、ポゼッション率も異例の「23%」と押し込まれた。報道陣から「日本はディフェンシブなチームだが、明日の対応策は?」と問われたケイロス監督。少しムッとしたように、その見方を真っ向から否定した。

「ディフェンシブ? 日本がとくに守備的にやっているとは思わないし、とんでもない話だ。わたしの見立てとは違うようだね。日本はアジアの名門であり、もっとも成功しているチームのひとつだ。選手たちは光り輝いていて、本当に素晴らしいサッカーをしている」

 そして、日本サッカーへの感謝を語り始める。1990年代半ばに名古屋グランパスで指揮を執った過去を紐解いた。

「わたしは3年間、日本で仕事をする機会があった。日本のみなさん『コンニチハ』。名古屋グランパスで仕事をしたが、育成プログラムや計画性、その取り組みへの姿勢などが実に印象的で素晴らしく、わたしも多くを学ばせてもらった。日本サッカー全体のそうした努力の成果が、いまやユース、女子、シニアとすべてのカテゴリーで結果となって表われている。ロシア・ワールドカップではコロンビアを破って決勝トーナメントに進出したし、この半年後には、コパ・アメリカに招待されていると聞いた。カタールも次のワールドカップ開催国として招待されているようだが、日本が招待を受けているのは偶然ではない。あくまでクオリティーを評価されてのことだ」
 
 名古屋監督時代のこんなエピソードも明かしてくれた。

「日本はとりわけ、代表チームの強化に注力してきた。本当に真剣に取り組んできたと思う。例を挙げよう。わたしがいた1998年に、フランス・ワールドカップへの準備として1月から6月までの期間に、クラブの選手9人を連れて行かれたんだ。非常に頭に来る出来事ではあった(笑)。でも日本では、それは協会とクラブの間で問題とならないのだよ」

 明日のビッグバウトはイランが勝つと、そう言い切る。

「日本はこの15年間、アジアで力を示してきた。そうしたチームとの対戦は光栄であり、 名誉なことだ。日本は素晴らしいサッカーをするが、我々にも負けず劣らず良い選手がいて、良いサッカーをする。明日はきっと、観ているひとが楽しめるような、ショータイムになるだろう。ただ日本のみなさんには申し訳ないが、ベストチームはイランだ。勝つのは我々だ。そう思うことは、許してほしい」
 
 では、具体的なゲームプランはあるのか?

「明日は日本に対して、『現実的に対応する』と言っておこう。日本はフィールドでの動きが良質で、判断力、アクション、斜めの動き、そしてスピードもある。そのなかで大事になってくるのは、自分たちのアイデンティティーを失わないこと。自信と信頼と、我々自身の武器をだ。日本の良さをよく分析して、その強みを上手くコントロールしなければいけない。それでも重要なのは、自分自身であること。自分たちのプレーを忘れてはならない! ここまでとても長い間、わたしもイラン代表も多くの犠牲を払ってきた。そして明日、我々は準決勝を迎える。なにが起ころうとも、自分たちであることを忘れずに、日本とのビッグゲームに臨みたい。覚悟はできているよ」

 最後はそう言って、不敵に笑ったポルトガル人指揮官。日本人選手と日本サッカーに精通する智将ははたして、いかなる策を講じてくるのか。総力戦にして壮絶戦となるのは、間違いなさそうだ。