「温暖化で氷河から溶け出した水が、大量の二酸化炭素を吸収している:調査結果から明らかに」の写真・リンク付きの記事はこちら

北極にすさまじい勢いで大混乱が生じている。いま北極では、地球上のその他の地域の2倍の速さで温暖化が進んでいるのだ。

今年の夏、北極は前代未聞の暑さに見舞われた。アラスカだけでも、山火事によって2,400万エーカー(約97,130平方キロメートル)にも及ぶ地域が焼失し、膨大な量の二酸化炭素が排出されている。あまりの暑さに、通常は熱帯で頻繁に発生する雷雨が、北極点のすぐそばで生じたほどだ。

この奇妙な事態に加えて、常識では考えられないような不思議な調査結果が、グリーンランドにほど近いカナダの極北地方で報告されている。研究者によると、氷河の融解水を水源とする川、すなわち氷河川の流域で、かなりの量の二酸化炭素が吸収されているというのだ。これは一般的な川が二酸化炭素を排出するのとは対照的である。

2015年の融解期における氷河川の二酸化炭素吸収量は、1平方メートル当たり(誤解のないように言っておくと、総面積ではない)の平均で、アマゾン熱帯雨林の二酸化炭素吸収量の2倍に達した。なんとも皮肉なことに、地球温暖化の重圧に耐えかねて溶け出した氷河の氷が、二酸化炭素を封じ込めるうえで役立つ可能性があるのだ。これまで二酸化炭素の吸収源とは見なされなかったが、実は吸収源である氷河川の流域を、融解水がつくっているのである。

複雑な二酸化炭素のサイクルを理解する鍵に

差し迫った気候変動の危機から脱する方法として、氷河の融解水に期待しようとしているなら、それは無理である。まず第一に、氷河の融解水が二酸化炭素を封じ込める勢いは、人類による制御不能な二酸化炭素の排出はもとより、気候変動を引き起こすその他の要素、例えば永久凍土の融解といった北極からの二酸化炭素の排出のペースにも追いつかないからだ。そもそも氷河の氷が溶け続けたら、融解水そのものも尽きてしまう。

それでも、氷河の融解水が二酸化炭素の吸収に役立つという発見は、地球上のひどく複雑な二酸化炭素のサイクルを理解する鍵となる。

氷河川は、世界中にあるほかの川とはかなり異なっている。顕著な違いをひとつ挙げると、氷河川の大半には生物が生息していない。概して藻類や魚類は氷河川には群生しない。氷河川は水温が冷たすぎるからだ。このため氷河川に生物はほとんどいないが、その代わり堆積物が豊富にある。

「このような氷河は後退や前進を繰り返し、毎年のように動いているので、実はとても良質の堆積物を大量につくっています。堆積物は氷河の下部の地形に大きく広がっています」と、ブリティッシュコロンビア大学の生物地球化学者であるカイラ・A・サンピエールは言う。サンピエールは今回の調査に関する論文の筆頭著者でもある。

氷河の融解水はこの堆積物を取り込むので、ミネラル分が豊富になる。こうした融解水からなる氷河川は、やがてミネラル分が豊富な氷河湖に流れ込む。

PHOTOGRAPH BY JESSICA SERBU

氷河の融解水が二酸化炭素を吸収するメカニズム

二酸化炭素は水面を自由に漂い、水は温室効果ガスである二酸化炭素の吸収源にも排出源にもなりうる。一般的な川では、生物が有機物を消費し、二酸化炭素(CO2)を排出する。人間が息を吐いてCO2を排出するのと同じだ。

こうして川が究極の二酸化炭素供給源となるのは、川に大量のCO2が充満するせいで、川の水が大気中のCO2をそれ以上は溶解できなくなるからである。同じことが世界中の池や湖で発生し、温室効果ガスの発生源となる。

一方、氷河の融解水にはこうした生物の呼気が含まれないので、大気中の多くのCO2を溶解する。融解水が氷河川を流れる間に取り込んだ堆積物は、水中に溶けているCO2を吸収する。

「水中に堆積物が混ざり、さらに大気中の二酸化炭素が混ざると、氷河川の下流にいくにつれて化学変化が生じます」と、サンピエールは説明する。堆積物がCO2と反応し、CO2の一部が溶解すると、川そのものが流れながら二酸化炭素吸収源となる。それも、かなりの量を吸収するのだ。

融解水が比較的少なかった2016年は、北極の氷河川流域の1日分の1平方メートル当たりの二酸化炭素吸収量は、アマゾン熱帯雨林の二酸化炭素吸収量の半分だった。だが、氷河の融解水の量が2016年の3倍だった2015年には、氷河川の二酸化炭素吸収量は平均でアマゾンの2倍だった。

ある場所では1平方メートル当たりのCO2吸収量が、アマゾンの40倍にもなった。繰り返すが、これは総面積での比較ではない。アマゾン熱帯雨林の総面積は200万平方マイル(約518万平方キロメートル)であり、北極の氷河川流域の面積をはるかに上回る。

複雑な現象を理解する重要になる尺度に

氷河川流域で吸収される二酸化炭素量はともかく、今回明らかになったのは、氷河川流域がこれまで見落とされてきた二酸化炭素の吸収源であることだろう。気候変動が北極のシステムを大混乱に陥れるようになる前でも、氷河の融解水が二酸化炭素をどれほど吸収しているかを世界に知らしめるのは極めて困難だったはずなので、今回の調査は非常に意義がある。

しかし、それと同時に今回の調査の素晴らしい点は、複雑な現象を理解するうえで重要になる尺度をもたらしていることだ。

「北極は、わたしたちが予測した最適なモデルよりもはるかに速く変化しています」と、ミシガン大学の生物地球化学者ローズ・コーリーは言う。コーリーは今回の調査には関わっていない。「何が起こりつつあるかをモデル化したり、予想したりできるようにするためには、北極の変化に関する情報を処理しなければなりません」

氷河の融解水が淡水系にいかに速く影響を与えるか、また融解水がどれほど二酸化炭素を吸収するかについて、科学者には深い理解が必要である。こうしたことを深く理解すれば、科学者はより確かなカーボンバジェット(炭素予算)を算出できるようになる。

つまり、パリ協定の目標を達成するには、大気中の二酸化炭素排出量をここまでに抑えればよいという上限値を計算できるようになるのだ。「そのために必要な研究の実例に、今回の調査は見事に当てはまります」とコーリーは付け加える。

誤解のないように言うと、今回の調査は、氷河の融解水が地球に化学的変化を起こし、人類の救世主になるとみなしているわけではない。確かに氷河川や氷河湖はCO2を吸収しているが、それだけではない。

「同時にそれ以外の変化も高緯度北極と低緯度北極で発生しており、温暖化によるCO2の排出量を左右しつつあります」とコーリーは語る。「例えば、永久凍土の融解によって二酸化炭素が放出されますが、その二酸化炭素が氷河湖で生じる二酸化炭素の吸収によって相殺される可能性はありません」

とはいえ、氷河川の流域が二酸化炭素の吸収源であることに違いはない。そして、こうした複雑なプロセスの理解が進めば、混乱をますます極める二酸化炭素のサイクルの解明も進むはずだ。

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