東京大学宇宙線研究所は7月3日、チベットに設置されている観測装置によって観測史上最高のエネルギーを持ったガンマ線を捉えることに成功したと発表しました。研究結果は論文にまとめられ、7月29日付でPhysical Review Lettersに掲載されています。


超新星残骸「かに星雲」の姿(Credit: NASA, ESA, J. Hester, A. Loll (ASU))


研究に利用されたのは、標高4300mのチベット高原に設置されている「空気シャワー観測装置」という装置のデータです。これは東京大学宇宙線研究所や中国科学院高能物理研究所をはじめとした日中の国際研究グループが取り組む「チベットASγ(ガンマ)実験」の観測装置で、宇宙から飛来した高エネルギーの宇宙線に由来する「空気シャワー」(宇宙線が地球の大気中で原子核と反応した際に生じる素粒子やガンマ線など)を捉えるために建設されました。


チベット高原に設置されている空気シャワー観測装置


今回、ガンマ線の観測精度を高めるアップグレードが実施された2014年から2017年までの約2年間に渡る観測データを研究チームが解析したところ、100TeV(テラ電子ボルト)以上という非常に高いエネルギーを持つガンマ線が20個ほど、宇宙の1点から地球に向かって飛んできていたことがわかりました(※1eVとは、1つの電子が1Vの電圧で加速されたときに得るエネルギー量のこと)。


検出された超高エネルギーガンマ線は、最大で450TeV。ヒッグス粒子の発見に貢献したスイスの粒子加速器「LHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)」の最大衝突エネルギーが13TeVですから、その34倍という強力なエネルギーを持っていたことになります。


このガンマ線を放出していたのは、おうし座の方向およそ6500光年先にある「かに星雲」でした。かに星雲は1054年に爆発した恒星の超新星残骸として知られており、その中心にある高速で自転する中性子星「かにパルサー」は高エネルギーのX線やガンマ線を放っています。


今回検出された超高エネルギーのガンマ線は、かにパルサーによって1000TeVに加速された電子が、初期宇宙の名残として全天から観測される「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」の光子と衝突して発生したものと推測されています。


従来観測されていたガンマ線の最高エネルギーは75TeVとされており、今回の観測によって最高記録も一気に6倍まで引き上げられました。人類にとって未知の領域だった超高エネルギーのガンマ線は、宇宙線の性質や発生源について新たな知見を得るために役立つと期待されています。


 


Image Credit: チベットASγ実験グループ
http://www.icrr.u-tokyo.ac.jp/beta/190703.html
文/松村武宏