J1リーグ第20節。ヴィッセル神戸はホームに、首位FC東京を追いかける横浜F・マリノスを迎えた。

 連敗中の神戸は、頼みのアンドレス・イニエスタを、ボランチからより高い位置のインサイドセンターに上げ、チームの得点源であるダビド・ビジャを左ウイングに置く4−3−3にシステムを変更。一方の横浜FMは不動のメンバーだ。


横浜F・マリノスとの試合中、祈るような仕草を見せるアンドレス・イニエスタ

 試合の序盤は、神戸が前線からプレッシャーをかけ、横浜FMに自由にボールを回させない。前半3分には、前線でボールを奪って古橋亨梧がシュートを放つなど、完全に神戸ペースで進んだ。

 なかなかシュートを打てない横浜FMだったが、けっして慌てることはなかった。すると前半38分、思いがけないチャンスがやってくる。バックパスを繋ごうとした神戸のGK前川黛也が足を滑らせると、エジガル・ジュニオがボールを奪い、最後は仲川輝人からのパスを受けたエジガル・ジュニオが冷静に決めて先制に成功する。

 後半に入ると、横浜FMにアクシデントが続出する。まず後半9分にエジガル・ジュニオが負傷交代。後半14分にはチアゴ・マルチンスが古橋の突破をファウルで止め、決定機阻止で一発退場となった。後半早々に得点源と守備の要を失い、10人で戦うことになる。

 それでも横浜FMは、選手ひとりひとりの運動量を活かし、ひとり少ない数的不利を感じさせないばかりか、逆に何度か決定機を作り出す。すると後半32分、リスタートからゴール前に抜け出した仲川がGK前川に倒されPKを獲得。それをマルコス・ジュニオールが決めて0−2とした。

 その後も横浜FMは冷静な試合運びを見せ、神戸に決定的なチャンスを作らせないまま、危なげなく逃げ切った。

 これで神戸は3連敗。ACL圏内どころか、再び残留争いに巻き込まれそうだ。試合の入りは悪くなかった。前半にミスで失点し、後半は数的優位になりながらも、それを活かせなかった。弱いチームにありがちの試合展開だ。

 トルステン・フィンク監督の采配にも疑問が残る。イニエスタを高い位置に置いたことは悪くない。だが、ワントップで結果を出していた、チームの得点源であるビジャを左ウイングに置いたのはなぜか。ウェリントンをCFで使ったが、彼の高さ、強さを活かしたプレーはほとんどなかった。世界的なストライカーを中央で使わない理由がわからない。

 また、相手が10人になってから、どういう指示を出していたのかも疑問だ。数的優位に立ちながら、まるで攻め切れない。0−2になってから小川慶治朗、田中順也を投入したが、選手交代も遅いくらいだ。10人になった相手をどうやって崩すつもりだったのか。それが見えてこない。

 イニエスタはこの日も魅せてくれた。前半終了間際にはビジャとスイッチして相手を置き去りにしてシュートするなど、異次元のプレーを披露してくれた。ただ、彼ひとりで何でもできるわけではない。

 周囲の問題もある。もっと動いて、イニエスタからのパスを引き出すべきだ。走ればボールが出てくる。それを信じて動かなければ、イニエスタがいても宝の持ち腐れになりかねない。

 イニエスタのサッカー人生で、勝ち続けたことはあっても、これほど勝てないのは初めてのことだろう。そう思うと、気の毒になってしまうのだ。