欧州宇宙機関(ESA)は5月27日、2020年以降に予定されている火星探査ミッションについてまとめた「Europe to Mars - and back!」(欧州は火星に向かい、戻ってくる!)と題したテキストと動画を公開しました。



現在ESAが計画している火星探査ミッションは、大きく分けて2つあります。


1つは、ロシアのロスコスモスと共同で進められている「ExoMars 2020(エクソマーズ2020)」です。エクソマーズ2020の打ち上げは2020年7月、火星到着は2021年3月が予定されており、着陸地点で定点観測を行う地表プラットフォームと、地下2mから採取したサンプルを分析して生命の痕跡を探す探査車「ロザリンド・フランクリン」から構成されています。


着陸予定地点の「オキシア平原(Oxia Planum)」ではかつて水が流れていたとされており、生命の痕跡が粘土や堆積物によって放射線や酸化作用から守られてきた可能性があると考えられています。


「エクソマーズ2020」の探査車「ロザリンド・フランクリン」(手前)と地表プラットフォーム(奥)の想像図(Credit: ESA/ATG medialab)


もう1つは、NASAと協力して進めることが予定されている、史上初の火星からのサンプルリターン(回収)ミッションです。このミッションは「サンプルの採取と保管」「サンプルの打ち上げ」「サンプルの帰還」と、全部で3つのステップを踏むことが検討されています。


1つ目のステップ「サンプルの採取と保管」は、エクソマーズ2020と同じ2020年7月に打ち上げが予定されているNASAの火星探査車「マーズ2020」が担当します。マーズ2020には採取したサンプルを保管するペンほどの大きさの容器が搭載されており、火星の岩石や土のサンプルを詰めた状態で地表に残すことができます。


火星の地表で活動する探査車「マーズ2020」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)


2つ目のステップ「サンプルの打ち上げ」は、NASAとESAが共同で担当する予定です。このステップでは、マーズ2020が地表に残したサンプルの容器をESAのローバーが回収し、NASAが開発を主導する着陸プラットフォームから火星の周回軌道に向けて打ち上げることが検討されています。


3つ目のステップ「サンプルの帰還」は、ESAが開発を主導する探査機が担います。地球を出発した回収用の探査機は、地表から打ち上げられたサンプルを火星の周回軌道上で回収し、地球と戻ります。回収されたサンプルは探査機が搭載している再突入カプセルに移し替えられ、地上へと帰還することになります。


火星の地表から打ち上げられたサンプルを回収する探査機の想像図(Credit: ESA/ATG Medialab)


回収を実施する探査機には、現在水星に向けて飛行を続けている日欧共同の水星探査機「ベピコロンボ」の技術を応用。また、サンプルとのランデブーと回収には、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶために合計5機が打ち上げられた「欧州補給機(ATV)」で培われた技術が用いられる予定です。


火星探査機や探査車には限られた観測/実験機器しか搭載できませんが、もしも火星からのサンプルリターンが実現すれば、火星の土を地球上の施設で詳細に研究することが可能となります。


火星地表からの打ち上げ、火星軌道上でのサンプル回収、そして地球への帰還と初めてづくしの意欲的なミッション。それだけハードルも高くなりますが、今から実現が楽しみです。


 


Image credit: ESA
https://www.esa.int/Our_Activities/Human_and_Robotic_Exploration/Exploration/ExoMars/Europe_to_Mars_and_back
文/松村武宏