(左から)東俊介氏、森井啓允氏、尾上健二氏

アスリートやスポーツマーケティング分野が抱える課題を、指導者・競技団体・研究者・スタートアップ企業などとの交流を通じて、テクノロジーを活用したソリューションの実現やスポーツ分野でのイノベーション創出を目指すプロジェクト、「Athlete Port-D」。

前回は、最先端のテクノロジーを誇る3社が登壇し、アスリートのパフォーマンスを向上させるプロダクトを紹介した。

そして今回は、スポーツの“観戦体験”を変えるプロダクトを開発している3社が、ピッチを行なった。そのプロダクトに対して、東俊介氏(元ハンドボール日本代表主将)、森井啓允氏(オープンハウスCIO/シリコンバレーオフィス)、尾上健二氏(NTTドコモ スマートライフ推進部長)が、三者三様の視点で議論していく。

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クラウドファンディングを活用したリアルイベント

千葉勇太氏

トップバッターを務めたのは、株式会社NTTドコモだ。株式会社CAMPFIREのサービスであるクラウドファンディングを活用した、ハンドボールの認知向上イベントを提案している。ハンドボール界の著名人の生解説付きライブビューイングイベントとなっており、さらにアイドルのゲスト出演によって、競技に関心のない人にも訴求を図っている。

ハンドボールをより身近に感じてもらうべく、シュートを間近で体感できるブースなども設置する。また、競技の面白さを最大限に伝えるべく、ドコモのテクノロジーを生かし、試合中の選手の運動量や、チームのフォーメーションなど、観客にリアルタイムな情報を提供していく。

クラウドファンディングのリターンとしては、イベントの参加権や会場での飲食チケット、アイドルとの交流などの特典を用意している。当日にイベントに足を運べない人にも、ハンドボール教室の開催権や、サイン入りハンドボールなどを提供する。

 

このプロダクトに対して、ハンドボール界のトップで活躍してきた東氏は「ハンドボールはデータが得点くらいしか出てこないので、良い選手を見極める材料が少ない。データが可視化されるのはありがたい」と指摘した。特にハンドボールは試合展開が早いため、データを通して観客の試合への理解度を補完することは有効だろう。

東俊介氏

また、ハンドボールの体験イベントを実施するにあたって、当然ながら「レベルの差」は生じてしまう。その差を埋めるために東氏は、実際の競技だけでなく、eスポーツでハンドボールを楽しむ施策を提案した。ハンドボールやアイドルのファンだけでなく、eスポーツのファンも取り込むことによって、訴求対象を拡大させる狙いもある。

一方で森井氏は「単発的なイベントで終わってしまうのではないか」と問題点を指摘した。発展途上のスポーツを普及・発展させるには継続性が求められるため、その先のビジョンを明確にする必要があるだろう。

 

ファン・サポーターの熱狂を“可視化”するダッシュボード

中根将史氏

続いて登壇したのは、株式会社ウフルのX United事業本部 シニアプランナーを務める中根将史氏だ。スタジアム×IoTをテーマに事業を展開しており、試合会場でのファン・サポーターの熱狂を高めるプロダクトを提案している。

ウフルが開発を進めているのは、応援を可視化できるダッシュボードである。観客席の盛り上がりを時系列で見ることが可能で、将来的にはヒートマップや波形図なども取り入れていく。

 

中根氏は横浜F・マリノスのサポーターとしてJリーグに足を運んでいる。サッカーでは一般的に、熱狂的なサポーターは“ゴール裏”に集結するが「ゴール裏以外の観客を巻き込めているのか」「その時にどの応援歌を歌っていたのか」など、応援のPDCAサイクルを円滑に回すことができる。

現在は音だけでデータを取得しているが、将来的には脳波やデモグラフィック、映像などを組み合わせていく。ファン・サポーターが直接導入することは考えがたいが、運営が「ハーフタイムイベントがどれだけ盛り上がったか」を数値で確認するためにも活用できる。

 

このプロダクトに対して三者は、そろってマネタイズの課題を指摘した。その中で森井氏は「誰が使ってどう喜ぶのかがもっと見えてくると良い」と意見を述べた上で、アメリカ・サンディエゴの大学がスタジアムにロボットカメラを設置にして、試合中にファン・サポーターが応援する様子を撮影した取り組みを紹介している。

森井啓允氏

撮影された写真は、スマートフォンでチケットナンバーを打ち込むことによって入手できる。ファン・サポーターにとっては、自分が応援している写真を“思い出”として残せることは喜ばしいはずだ。このように、ターゲットと需要をより具体化することが、マネタイズへの近道となり得る。

 

年間約1万3,000試合のデータを網羅するアプリ

尾形太陽氏

最後に登壇したのは、株式会社ookamiの尾形太陽CEOだ。スタジアム観戦、テレビ観戦に続く第3のスポーツエンターテイメントを提供するアプリ「Player!」を展開している。

Player!はOTTサービスではなく、スコアやスタッツなどのデータと、ユーザーによるコミュニケーションの場を提供する。テキストやスタンプを用いて、ユーザー間で盛り上がりを共有することによって、熱量や感動を可視化することができる。

また、OTTサービスはサッカーで例えれば1試合、つまり90分間の映像を楽しんでもらうものだが、Player!では試合が開始することや、試合が盛り上がっていることなど、“瞬間”をプッシュ通知でユーザーに伝えている。

 

メジャースポーツからマイナースポーツまでの幅広い競技と、プロから学生までの幅広いカテゴリーを取り扱っていることも大きな特徴として挙げられる。年間約1万3,000試合のリアルタイムデータを集約しており、20代・30代を中心に月間ユーザー数は300万人に達している。

このプロダクトに対して尾上氏は「盛り上がっている瞬間にプッシュ通知が来ることによって、日本では規制があるものの、ベッティングなどと組み合わせることも考えられるし、テレビとは全く違った楽しみ方に繋げられるのではないか」と、第3のスポーツエンターテイメントという枠を超えた楽しみ方の可能性を提起した。

尾上健二氏

それに加えて「やはり自分の母校の試合は気になる。スコアやスタッツだけでなく映像も流すことができれば、お金を払ってでも見たい人はいるのではないか」と、学生スポーツにおけるマネタイズの可能性にも触れた。

特に大学スポーツは、海外ではビジネスとして成り立っている例はあるものの、日本では開拓しきれていない領域である。その大学スポーツにもフォーカスしていくことによって、マネタイズの方法は広がっていきそうだ。

 

「日本はスポーツ=体育という捉え方が強い」

今回のピッチでは、各企業がスポーツの“観戦体験”を変えるプロダクトを提案した。東氏は「スポーツはビジネスであるべきで、ビジネスである以上はユーザーから時間とお金を使ってもらわないといけない。例えばアイドルの現場に、なぜあれだけ時間とお金を費やすのか。エンターテイメントからも学んでいく必要がある」と、スポーツをビシネスとして捉えるべきだと主張している。

森井氏は「競技を普及・発展させたいとは誰もが言うが、なぜそうしたいのか。結局は自分がその競技に関わりたいという理由だけで、突き詰めている人が多い。その先のビジョンを考えると、より発展していくのではないか」と、普及・発展の先にあるビジョンの重要性を説いた。

そして最後に尾上氏は「学生スポーツも含めて、もっと日本のスポーツ産業は広げられるはず。我々ドコモは様々なパートナーと協力しながら、リアルやバーチャルを問わず、多方面からスポーツ産業を盛り上げていきたい」と、今後もドコモがスポーツ産業の拡大に一役買うことを誓った。

 

アメリカのスポーツ産業を目の当たりにしてきた森井氏は、冒頭に「日本はスポーツ=体育という捉え方が強い」と話していた。スポーツをビジネスにするためには、アメリカをはじめとした世界のスホーツ推進国はもちろん、エンターテイメントなどの様々な分野からも学んでいく必要があるだろう。