昨シーズン、J1連覇を達成した王者・川崎フロンターレが苦しんでいる。

 ガンバ大阪をホームに迎えたJ1第4節、0−0で推移していた試合終了間際だった。

 川崎は、中央でG大阪のアデミウソンに前を向かれると、左サイドで待つ小野瀬康介へと展開される。追い越してきた藤春廣輝にパスがつながると、タッチライン沿いからゴール前に。ボールはDFをすり抜け、逆サイドへ流れると、攻撃的なポジションを取っていた右SBの三浦弦太にフリーでシュートを許してしまった。


ガンバ大阪にも負けて開幕4試合でいまだ未勝利の川崎フロンターレ

 このゴールが決勝点となり、G大阪が1−0で勝利。川崎は今季リーグ戦初黒星を喫しただけでなく、開幕から4試合未勝利(3分1敗)となった。

 試合後、G大阪の宮本恒靖監督が「(勝利は)どちらに転ぶかわからなかった」と話したように、シュート数で上回っていたのは川崎であり、試合の主導権を握っていたのも川崎だった。

 実際、前半9分には、左サイドを長谷川竜也が個人技で突破すると、好機を演出。ラストパスは走り込んだ中村憲剛の足にわずかに合わず、詰めた鈴木雄斗のシュートもGKに阻まれた。

 前半29分にも、1トップで先発した知念慶とのコンビネーションから、家長昭博が角度のないところからシュートを放った。ドリブルを武器とする齋藤学が途中出場すれば再び流れを掴んだし、失点直前の後半43分にも同じく途中出場したFWレアンドロ・ダミアンがDFをかわしてシュートを放った。

 90分を通して見れば、川崎の好機が皆無だったわけではないし、特徴である攻撃的なサッカーが展開できていなかったかと言えば、そんなこともない。ただ、J1初優勝した2017年シーズンや、連覇を達成した昨シーズンと比べれば、そこにはやはり迫力が欠けるし、チーム全体に迷いが生じているように感じられた。

 昨シーズンMVPを獲得し、今シーズンも攻撃の核としてピッチに立つ家長は、「負けるべくして負けた試合だった」と認めつつ、その迷いを言葉にした。

「みんな同じ方向を向いてやっていますし、チームがバラバラということは何ひとつないんですけど、やっぱりグラウンドのなかで0.5秒、1秒、サポートに入るのが遅くなっていると思う。(パスを)出す側にも迷いがあるし、もらう側にも多少の迷いがあると思う。そういう小さなことが積み重なって、自分たちらしい形というものが減っている」

 川崎の代名詞と言えば、コンビネーションにある。前線と2列目のポジションはあってないようなもので、相手や状況によって目まぐるしく変化していく。その多彩なパスワークは阿吽(あうん)の呼吸とでも言えるように、すべてが試合や日ごろの練習で培ってきた賜物である。

 それだけに、選手の特徴が変われば、距離感や関係性も変わるし、サッカーも、崩し方も変わっていく。再び家長の言葉に耳を傾ける。

「去年までは(小林)悠が最終的にゴールを取るという形が、チームのスタイルとしてある程度、築けていた。(今シーズンは)そうした、誰が得点するかという形を、全体的なところも含めて、まだ模索しながらやっている部分がある。そこの難しさはありますね」

 今シーズンの川崎が目指しているのは、J1の3連覇だけではない。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)をはじめとするカップ戦も含めた4冠にある。

 そのためには、当然ながら固定された11人だけでは戦い切れず、鬼木達監督が昨シーズン以上にターンオーバーを実施しているように、チーム全体を大きくベースアップさせる必要がある。ブラジル代表歴のある大型FWレアンドロ・ダミアンを加えた攻撃を模索しているのも、そのひとつだろう。

 ただ、G大阪戦に限って言えば、メンバーが大幅に変わったことで、らしくない判断ミスもあれば、連係の相違も見られた。1トップを務めた知念はこう振り返る。

「前半からチームとしてうまくいっていなかった部分はあった。自分がすごく孤立していたので、どうすればうまくいくかを考えながらやっていたんですけど、なかなか答えが見つからないまま、体力を消費する時間が続いてしまった」

 家長も、こう敗因を口にする。

「(得点以前に)僕ら(中盤)がペナルティエリアまでボールを運んでいかなければいけないし、それがチームのスタンダードとしてなければいけない。今日はそこまで持っていくことができなかった」

 前半こそ得意のドリブルで果敢な突破を見せた長谷川も、「不完全燃焼だった」と話し、こう悔やんだ。

「相手が来てから動くとなると、全部が遅いので、先にポジション的な優位性を作っておかなければならない。それは中と外との関係性というよりは、サイドだけでも解決できる部分は多いと思う」

 ボールの動かし方だけでなく、得点パターンも含めて、川崎がおそらく本来の姿を取り戻すのは、それほど難しいことではないだろう。阿部浩之、大島僚太、小林悠、さらにはG大阪戦で出場機会がなかった守田英正が戦列に戻り、昨シーズンを戦った面子を揃えれば、ある程度、形は作れるはずだ。

 しかし、それではチームに進化もなければ、成長もない。家長が指摘するように、今シーズンの得点の形を確立する必要もあれば、とくにG大阪戦の前半は左サイドからの攻撃に偏ったように、左右の攻撃バランスを解決することも急務であろう。

 ただ、鬼木監督はそれを察しつつ、あえて茨(いばら)の道を歩もうとしているのだろう。長身FWであるレアンドロ・ダミアンを活かす道を探っているのも、新戦力の山村和也と若手の田中碧をボランチで組ませたのも、いわゆる主力のコンディションという問題もあるが、すべては先を見据えているからだ。

 思い起こせば、J1で初優勝した2017年も、連覇した2018年も、シーズン序盤はコンビネーションを築くのに、得点パターンを確立するのに苦しんだ。今シーズンも川崎は、この生みの苦しみを、さらに大きくジャンプするための助走とすることができるか――。その真価が今、問われている。

 家長は言った。

「誰が出たとしても、全員の責任。今はチームとしてうまくいっているかと言ったら、そうじゃないとは思います。でも、それは誰かの責任ではないと思うので、みんなでもう一度、構築していかなければいけないと思います。

 もちろん、個々の力も上げていかなければいけないと思いますけど、チームとしてもそう。僕たちのよさはチームの連動性だったり、コンビネーションだったりするので。この負けが教えてくれることもあるので、謙虚に受け止めつつ、今は苦しいからこそ、冷静にやることが必要なのかなと。だから、変わらずに練習していきたいし、積み重ねを信じてやっていければと思います」

 川崎に加入して3年目。おそらく彼自身も苦しんでいることだろう。ただ、チームの一員としての自覚が強まり、さらに頼もしくなった家長の冷静な目に、川崎の未来を少しだけ見た。