「あの人のインスタって、自己顕示欲の塊だよね…」「最近の若い人は自己顕示欲が強くて困るよ!」

ツイッターやインスタグラムなどのSNSが日常生活に浸透して以降、「自己顕示欲」や「承認欲求」というワードを以前よりも見かけるようになった気がします。

SNS世代の僕たちは、この「自己顕示欲」とどう付き合っていけばいいのでしょうか?精神科医の西多昌規先生に相談してきました。

〈聞き手=川西龍之介(新R25編集部)〉


【西多昌規(にしだまさき)】精神科医(医学博士)。早稲田大学准教授。1970年石川県羽咋市生まれ。1996年東京医科歯科大学卒業。専門は睡眠、身体運動とメンタルヘルス。主に大学病院にて精神科医として数多くの患者を診察・治療。睡眠医療専門医としての経験も豊富。産業・学生メンタルヘルスの問題にも詳しい。ハーバード大学医学部、スタンフォード大学医学部にて研究留学の経験を持つ。2017年より早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授を務めている

「自己顕示欲」と「承認欲求」はどう違う?

川西:
「自己顕示欲」と似た言葉に「承認欲求」という言葉がありますが、これらはどう違うんでしょうか?

西多先生:
自己顕示欲は「自分の存在を示したい!」「注目を浴びたい!」という欲求のことですね。とにかく自分を表現したいという欲求。

一方で承認欲求は「受け入れてほしい」という受け身の欲求なんです。

川西:
なるほど…ただ、やはり結構似ているんですね。

西多先生:
はい。明確に切り分けづらく、両方の欲求を持っている人が多いですよ。どちらかだけというのは、あまり考えられません。

ただ、「受け入れてほしい」という承認欲求の満たし方は、褒められるように行動することだけではなく「拒否回避欲求」によってもおこなわれるのが大きな違いかもしれません。

川西:
拒否回避欲求…?

西多先生:
言葉のままで、拒否されるのを回避したいという欲求のことです。たとえば「思ったことを発言すると波風たててしまうから黙っておこう」みたいな。

「人見知り」「コミュ力不足」などの一因でもあり、困ってる若い人も多い
ですね。これは「自分を表現したい」という自己顕示欲から生まれる行動とは正反対ですよね。

川西:
あー、よく言う「空気を読む」っていうのも承認欲求の表れだったんですね。

自己顕示欲が悪者扱いされるようになったのは、SNSで欲求が可視化されるようになったから

川西:
ここ数年で特に自己顕示欲が悪者扱いされている気がしますが、時代を経るにつれて若い人たちの自己顕示欲は強くなっているのでしょうか?

西多先生:
そういうイメージになってしまったのは、自己顕示欲の発散がSNSで見えやすくなってるからだと思います。昔から若い人にはみんな自己顕示欲がありました。それが見えるか見えないかの違いだけです。

世間では「最近の若い人は自己顕示欲が強い」と言われているかもしれませんが、そんなことはありません。

川西:
なるほど。じゃあ気にしすぎなんですね。

西多先生:
ただ、気をつけなきゃいけないのは、SNSだけで自己顕示欲を満たそうとすること。なるべく現実の人とのやり取りで発散させたほうがいいですね。



川西:
それはなぜでしょう?

西多先生:
SNSでリアクションがもらえると「自分はすごいから注目されている!」と錯覚しやすいんです。

すると自分の求めていた反応がもらえなかったときに、「自分はすごいはずなのに…!」とどんどん過激になっていき、その結果、“炎上”などが起きてしまうことになります。

一方で対面だと、相手のリアルなリアクションが見えるので、これ以上は危ないかもと判断できるわけです。SNSは手軽な発信が魅力ですが、こういったことを認識したうえで使いましょう。

自己顕示欲の強い人の特徴は? あまりに強すぎる場合は病気の可能性も!?

川西:
先ほどは「気にしすぎだ」とおっしゃってましたが、SNSに頻繁に投稿してると「自分はほかの人より自己顕示欲が強すぎるのかも…」なんて気になってしまうんです…。まわりと比べてどうなのかな、とか。

西多先生:
正確な診断はできませんが、以下に挙げる特徴に3つ以上当てはまったら、自己顕示欲が強い人だと言えるでしょう。

自己顕示欲の強さ診断チェックリスト


✔目立ちたがり屋だと言われる
✔自分が目立つためには他人はどうなっても気にしない
✔声が大きいとよく言われる
✔つい自分の話ばかりしてしまう
✔目立っている他人を見ると嫉妬心が涌いてくる
✔他人からの批判に強い
SNS投稿で、自分の顔(セルフィ)が入っている率が高い



西多先生:
これらの特徴を見て、何か思い浮かぶテレビ番組ってありませんか?

川西:
テレビ番組?すみません、わからないです…。

西多先生:
ほぼすべての特徴を持った人たちが集まっているのが『朝まで生テレビ!』です。みなさん他人の話をさえぎってまで、自分の話をするくらいですからね(笑)。

川西:
なるほど! あの主張の強さに比べたら、毎日SNSに投稿するくらいは気にする必要ないのかも(笑)。

西多先生:
もちろんです。もし仮に、先ほどの診断ですべての特徴に当てはまったとしても病気ではなく、ほとんどの場合は健康的なもの。気にしなくて大丈夫です。

川西:
ちなみに、「病気だ」と診断されることってあるんですか?

西多先生:
あまりに強すぎると「自己愛性パーソナリティ障害」という障害の疑いがあります。

これは「自分は特別な人間であるはずだ」という思い込みが強すぎるあまり、他人への配慮が一切なくなってしまうというもの。

どこからが病気なのかという線引きは難しいんですが、明らかに自分も苦しんでいてまわりの人も迷惑している状態になっていたら、「自己愛性パーソナリティ障害」の可能性があるでしょう。

若い人は自己顕示欲が強いのが当たり前。悪者扱いするのではなく、活用しよう

川西:
ちなみに、自己顕示欲って抑えることができるものなのでしょうか?

西多先生:
すぐに抑えるのはムリでしょう。少なくとも若い人は、自己顕示欲が強くて当たり前です。

若いうちは「もっと自分はやれる!」という野心があったり、さまざまなコンプレックスを抱えていて、現状に不満があるわけです。

もの足りない分を注目で補おうとしたり、自分を大きく見せることで満たそうとして、自己顕示欲は湧いてきます。



西多先生:
たとえるならば、動物の威嚇みたいなものです。毛を逆立てて体を大きく見せるなどして、ハッタリをかますような。それと若い人の自己顕示欲は似ていると思います。

川西:
「自分は強いんだぞ!」ってアピールする感じですね。

西多先生:
そうです。ほんとに強ければそんなことをする必要ないのですが、若くして、すごい実力がある人なんて、ほんの一部ですから。

川西:
たしかに新人なんて、そんなもんですよね。

西多先生:
自己顕示欲は悪者扱いしなくていいんです。

自己顕示欲が強いことは成長過程だと捉えましょう。そう考えれば、自己顕示欲が強くて多少の失敗をすることも、受け入れられるようになるはずです。



西多先生:
それに、自己顕示欲が強い人にしかできないような仕事もあります。たとえば、ミーティングや交渉で自分の意思表明が必要なシーンって多々ありますよね?

成果を出して目立つために、そういう場面で顧客や上司に言いづらいことをはっきり言えることは大きなメリットです。

ヘンに自己顕示欲を悪者扱いするのではなく、どうやったらうまく使えるのか、考えてみるといいと思いますよ。

「自己顕示欲が強いことを成長過程と捉える」という西多先生の言葉は、我々の背中を押してくれる金言でした。

自己顕示欲をエネルギーにして成果をあげ、少しずつ等身大の自分を肯定できる人に変わっていきたいですね。

〈取材・文=川西龍之介(@ryunosuke_k124)/撮影=宮内麻希(@haribo1126)〉

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