前作『ムーンライト』で第89回アカデミー賞®作品賞を受賞したバリー・ジェンキンス監督。2作品連続で見事本年度アカデミー賞®3部門(脚色賞/助演女優賞/作曲賞)ノミネートを果たしたのが、最新作『ビール・ストリートの恋人たち』だ。

1970年代のニューヨークを舞台に、人種や社会階層に対する差別の問題を根底にしながらも、どんな時も愛を諦めない恋人たちのラブストーリーをみずみずしく描いた本作。ジェイムズ・ボールドウィンの原作を圧倒的な美しさで映画化したジェンキンス監督待望の最新作の魅力に迫る。

前作『ムーンライト』(16年)はマイアミの貧困地域で麻薬を常習している母親と暮らす少年・シャロンが成長していく姿を、少年期・青年期・成人期という3つの時代に分けて描いた作品。性的マイノリティでもある主人公が抱える孤独や切なさ、心に秘めていた純粋な想いを美しい映像と叙情的な音楽で綴り高い評価を得た。

そんなジェンキンス監督が長年映画化を夢見てきたのは1970年代ニューヨークに生きる若きカップルのラブストーリーだ。物語の主人公は、幼い頃から共に育ち、強い絆で結ばれてきた19歳のティッシュと22歳のファニー。お互いを異性として意識し、ついに恋人同士となった2人。だがある日、些細なトラブルから白人警官の恨みを買ったファニーは強姦の罪を着せられ逮捕されてしまう。ファニーの子供を身ごもっていたティッシュとその家族は弁護士を雇うが、被害者の女性はすでに故郷のプエルトリコに帰国したという報告を受けて愕然とする。ファニーを留置所から助け出すためにティッシュと家族は奔走するが、そこには様々な困難が待ち受けていた…。

『ムーンライト』では美しいロケーションや革新的な音楽と色彩表現、登場人物達の心の機微をじっくりと映し出した映像が印象的だったが、70年代のNYを再現した今作では、さらに磨かれたジェンキンス監督の手腕が光る。例えば、2人が少しずつ愛を育む様子を丁寧に映し出した数々のシーンや、カラフルでオシャレな洋服を着こなすティッシュのファッションセンス、原作者の意思を継ぎ実際のニューヨーク・ハーレムで撮影が行われたことも作品に豊かな彩りとリアリティを与えている。そういった要素が今作をより魅力的にしているのだ。もちろん回想を織り交ぜながら主人公たちの現在と過去を行き来する巧みなストーリー展開も素晴らしく、どんな逆境にも負けずに愛することを諦めないティッシュとファニー、そして、彼らを支える家族や友人たちの姿に胸を打たれる。

ティッシュを演じているのはシカゴの演劇界で活躍し、LAに越してきてわずか3ヶ月で役を射止めたという新人女優のキキ・レイン。長編映画初出演とは思えないほど堂々とした演技とキュートな顔立ちが印象的だ。

ファニー役を演じたステファン・ジェームスは『グローリー/明日への行進』(14年)や『栄光のランナー/1936ベルリン』(16年)で注目を集めた実力派俳優で、今作でも辛い状況に陥りながらもティッシュへの愛を失わないファニーを見事に演じている。

娘のティッシュを大きな愛でバックアップする母親シャロン役を演じるのは、2015年にスタートしたドラマシリーズ「アメリカン・クライム」でエミー賞助演女優賞に輝いたレジーナ・キング。彼女は本作の熱演でゴールデン・グローブ賞助演女優賞を受賞、アカデミー賞®にもノミネートを果たしている。さらに『キングスマン:ゴールデン・サークル』や『イコライザー2』のペドロ・パスカル、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16年)のディエゴ・ルナ、『グランド・イリュージョン』シリーズ(13年/16年)のデイヴ・フランコ、『トランスポーター イグニション』(15年)のエド・スクラインといった人気俳優が、圧倒的な存在感で重要なキャラクターを演じており、映画ファンも大満足のキャスティングとなっている。

ちなみに、前作で描かれた主人公たちと同様、マイアミの貧困地域で育ったジェンキンス監督。壮絶な過去を乗り越え夢を掴んだ彼だからこそ、逆境に立ち向かうティッシュや彼女の家族、そして苦しみに耐えるファニーの姿を、力強さとともに、あたたかな目線で描くことができたのかもしれない。

第91回アカデミー賞®で脚色賞、助演女優賞、作曲賞にノミネートされたことを受けてジェンキンス監督は「尊敬する偉人たちの仲間入りができて本当に光栄です。そのうえ、ジェイムズ・ボールドウィンの名前と功績を、アカデミーに残せたことに胸がいっぱいです」とコメントしている。作品の映像化に大変厳しいとされるボールドウィンの作品が初めて英語圏での映像化として認められたのは、ジェンキンス監督の手腕と熱意があったからこそ。深い愛と強い絆で結ばれた恋人たちを描いた今作は、きっと時代を超えて長く愛される作品になるだろう。(文/奥村百恵)

映画『ビール・ストリートの恋人たち』は2月22日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

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