RIZINが大晦日に示した「終わりの始まり」
2018年の大晦日に行なわれ、フジテレビで地上波中継された格闘技イベント「RIZIN」は、まれに見るひどさでした。とりわけ、そのひどさが際立っていたのはメインイベントであるエキシビションマッチ、フロイド・メイウェザー・ジュニアVS那須川天心戦。この試合には「RIZIN」の「終わりの始まり」が凝縮されていました。
ボクシングの伝説級王者であるメイウェザー氏と、ローカル格闘技団体の王者である那須川天心選手との実力差は言うまでもなく、しかもボクシングルールで行なわれるということで那須川選手にはそもそも勝ち目はありませんでした。生まれたての小鹿のように足をバタつかせながら倒れたことを含めて、勝敗自体については改めて驚くようなところはありません。ガードを下げて真っ直ぐ突っ込み、真っ直ぐ下がるだけの選手が世界レベルのボクシングができるはずもなく、メイウェザー氏は本領であるところのスウェーなどの防御技術を使用すらせずに完勝しました。何度試合をしてもこうなったであろう結果です。
「キックが有りのルールであれば」などと言い訳めいた擁護も出るかもしれませんが、ボクシングの伝説級王者であるメイウェザー氏がそのようなルールで試合をするいわれはありません。「あなたの土俵で」「あなたの希望の額を支払うので」「どうぞ対戦してください」とRIZIN側はお願いすべき立場。ボクシング界でもメイウェザー氏と対戦することは極めて得難い機会だったわけで、対戦できたことだけでもラッキーであり、RIZIN側はルールに不平不満を言う立場ではないのです。
そんななか、唯一RIZIN側が優位であったのは「RIZIN側はあらかじめこの試合を知っていた」ということ。オファーをした側がどちらからであったにせよ、この試合をするかどうか・誰を立てるかなど、交渉中の段階から準備を整えることがRIZIN側にはできたはず。にもかかわらず、実際に対戦した両者の体重差は大きく開いたままでした。
ボクシングにおいて体重差は勝敗に直結するもの。ゆえに階級は細かく分類され、「パウンド・フォー・パウンド」という「もしも同じ体重同士だったらどちらが強いか」という夢の比較をファンやメディアは想像します。それだけ重要な要素です。メイウェザー氏の現役当時の階級であるウェルター級相当の66.7キログラムの契約体重で行なわれた試合で、メイウェザー氏が66.7キログラムで前日計量をパスしたのに対し、那須川天心選手は62.1キログラムと平常時の体重並みとなり4キログラムあまりを残してのパスとなりました。体重という大きな要素を「メイウェザー戦が行なわれるかもしれないこと」をわかっていた側が、十分に配慮することがないままに試合に臨んでしまったのです。
あらかじめ試合が行なわれるかもしれないと思って準備していたなら、少しでもトレーニングで上積みすることや、より近い体格の選手を立てることもできた側が、十分な準備もなく貴重な機会に臨んでしまった。ボクシング技術でメイウェザー氏に追いつくのは無理としても、「体重すら」積み増すことができなかった。
それはつまり、「強くなるつもり」も「準備するつもり」もなかったということです。
プロレスのように格闘エンターテインメントとしての性質を持つ興行と違って、真剣勝負という建前で「最強」を争っているはずの総合格闘技団体が、さして強くもない選手を看板にしており、強くなるつもりも準備するつもりもない競技団体であることを自ら明かすような振る舞いをすれば、存在価値そのものが大きく失われます。
これではメイウェザーVS那須川天心戦は世間の耳目を引くための話題作りのカードであって、RIZINとは実は格闘エンターテインメント団体であったのだと言われても当然でしょう。2017年、2018年と世間の注目を集めるような試合において「減量失敗によるドタキャン」が続いていることも、「耳目を引いてしまえばそれでいい」という、いかにも格闘エンターテインメント的な事象です。
紅白歌合戦や人気バラエティとの競い合いとなる大晦日という日に臨むには、「メイウェザー氏のような有名人のネームバリュー」にすがったカードを組むしかなかったというRIZIN側の事情は理解できますが、それはすなわち自分たちの団体を主戦場とする選手だけでは「大晦日にテレビ局が納得するカードを用意することはできない」という興行主としての敗北宣言でもあります。
総合格闘技団体でありながら「強くなる」ことや「準備する」ことへの意欲はなく、自分たちで抱えるスター選手はそもそもの人数も足りない上に「さして強くもない」ことが露見し、一部報道では900万ドルとも言われるファイトマネーをこの試合・この興行を成立させるために「誰かが使用した」。自転車操業のように、団体の価値と信頼と大金を失いながら2018年を乗り切ったRIZINが2019年以降を駆け抜けるには、メイウェザー氏以上のゲストを迎えるしかなさそうです。
・文=フモフモ編集長
ボクシングの伝説級王者であるメイウェザー氏と、ローカル格闘技団体の王者である那須川天心選手との実力差は言うまでもなく、しかもボクシングルールで行なわれるということで那須川選手にはそもそも勝ち目はありませんでした。生まれたての小鹿のように足をバタつかせながら倒れたことを含めて、勝敗自体については改めて驚くようなところはありません。ガードを下げて真っ直ぐ突っ込み、真っ直ぐ下がるだけの選手が世界レベルのボクシングができるはずもなく、メイウェザー氏は本領であるところのスウェーなどの防御技術を使用すらせずに完勝しました。何度試合をしてもこうなったであろう結果です。
そんななか、唯一RIZIN側が優位であったのは「RIZIN側はあらかじめこの試合を知っていた」ということ。オファーをした側がどちらからであったにせよ、この試合をするかどうか・誰を立てるかなど、交渉中の段階から準備を整えることがRIZIN側にはできたはず。にもかかわらず、実際に対戦した両者の体重差は大きく開いたままでした。
ボクシングにおいて体重差は勝敗に直結するもの。ゆえに階級は細かく分類され、「パウンド・フォー・パウンド」という「もしも同じ体重同士だったらどちらが強いか」という夢の比較をファンやメディアは想像します。それだけ重要な要素です。メイウェザー氏の現役当時の階級であるウェルター級相当の66.7キログラムの契約体重で行なわれた試合で、メイウェザー氏が66.7キログラムで前日計量をパスしたのに対し、那須川天心選手は62.1キログラムと平常時の体重並みとなり4キログラムあまりを残してのパスとなりました。体重という大きな要素を「メイウェザー戦が行なわれるかもしれないこと」をわかっていた側が、十分に配慮することがないままに試合に臨んでしまったのです。
あらかじめ試合が行なわれるかもしれないと思って準備していたなら、少しでもトレーニングで上積みすることや、より近い体格の選手を立てることもできた側が、十分な準備もなく貴重な機会に臨んでしまった。ボクシング技術でメイウェザー氏に追いつくのは無理としても、「体重すら」積み増すことができなかった。
それはつまり、「強くなるつもり」も「準備するつもり」もなかったということです。
プロレスのように格闘エンターテインメントとしての性質を持つ興行と違って、真剣勝負という建前で「最強」を争っているはずの総合格闘技団体が、さして強くもない選手を看板にしており、強くなるつもりも準備するつもりもない競技団体であることを自ら明かすような振る舞いをすれば、存在価値そのものが大きく失われます。
これではメイウェザーVS那須川天心戦は世間の耳目を引くための話題作りのカードであって、RIZINとは実は格闘エンターテインメント団体であったのだと言われても当然でしょう。2017年、2018年と世間の注目を集めるような試合において「減量失敗によるドタキャン」が続いていることも、「耳目を引いてしまえばそれでいい」という、いかにも格闘エンターテインメント的な事象です。
紅白歌合戦や人気バラエティとの競い合いとなる大晦日という日に臨むには、「メイウェザー氏のような有名人のネームバリュー」にすがったカードを組むしかなかったというRIZIN側の事情は理解できますが、それはすなわち自分たちの団体を主戦場とする選手だけでは「大晦日にテレビ局が納得するカードを用意することはできない」という興行主としての敗北宣言でもあります。
総合格闘技団体でありながら「強くなる」ことや「準備する」ことへの意欲はなく、自分たちで抱えるスター選手はそもそもの人数も足りない上に「さして強くもない」ことが露見し、一部報道では900万ドルとも言われるファイトマネーをこの試合・この興行を成立させるために「誰かが使用した」。自転車操業のように、団体の価値と信頼と大金を失いながら2018年を乗り切ったRIZINが2019年以降を駆け抜けるには、メイウェザー氏以上のゲストを迎えるしかなさそうです。
・文=フモフモ編集長