新幹線は目的地へ早く移動するときに役立ちますが、「こだま」のような各駅停車タイプの列車は「昭和の汽車旅」気分を味わえる魅力がたっぷりです。そのポイントを3つ紹介します。

「昭和の汽車旅」気分を新幹線

 日本の鉄道技術の象徴である新幹線。この年末年始に利用する、もしくはした人も多いことでしょう。北海道から九州まで路線網が充実し、近年は実在の新幹線車両をモチーフにしたロボットアニメも人気。新幹線に対する注目度は高まっています。


東海道新幹線の「こだま」もN700系への置き換えが進みつつあるが、700系の大きな窓は魅力(2016年4月、栗原 景撮影)。

 スピードや技術が注目されがちな新幹線ですが、実は「昭和の汽車旅」気分を味わえる路線であることをご存じですか。おすすめは、なんといっても「こだま」「つばめ」「なすの」「たにがわ」のような各駅停車タイプ。「のぞみ」などの速達タイプよりも時間がかかり、本数も少ないなどあまり注目されない存在ですが、国鉄時代から続く鉄道旅の魅力をたっぷり備えています。その知られざるポイントを3つ、紹介しましょう。

だいたい空いている

 ひとつ目は、いつも空いていること。「こだま」タイプの乗客は、速達タイプの列車から乗り継ぐ人や、短距離の利用者が多いのですが、座席数はたいてい余裕があります。張り詰めた雰囲気のビジネス客は少なく、自由席では気に入った座席でのんびりと過ごせるでしょう。始発駅を10時から16時ごろに出発する列車は特に空いていて狙い目です。

 東海道新幹線だと、座席は、日中なら日差しが入らず富士山が見えるE席(2列席)側、夜間や雨天時は、通路が遠くより落ち着けるA席(3列席)側が良いでしょう。東北新幹線や北陸新幹線は、日本百名山に数えられる山々が次々と現れるE席(2列席)側がおすすめです。


「こだま」は朝夕の通勤ラッシュ時間帯を除くとどの列車も空いている。山陽新幹線500系(2016年4月 、栗原 景撮影)。

東海道新幹線は冬、車窓風景が特に美しい(2016年1月、栗原 景撮影)。

東京駅東海道新幹線中央改札内の売店では、生ビールを持ち帰りできる(2018年11月、栗原 景撮影)。

 最近の「のぞみ」「はやぶさ」などは、混雑しているときには食事をするのもはばかられることがありますが、「こだま」タイプならそんなことはありません。グループ旅行なら、座席を向かい合わせにして駅弁や持参した料理を味わうことができるでしょう。東京駅や新横浜駅などでは、改札内の売店で生ビールも売っているので、それを持ち込んで乾杯もできます。

 ただし、東海道新幹線は注意が必要です。東海道新幹線の「こだま」普通車指定席は、例外的にいつも混雑しているのです。これは、JR東海とJR西日本のネット予約である「エクスプレス予約」で、自由席と指定席の料金が同額に設定されており、あえて自由席を選ばない限り指定席が選択されるためと思われます。ほぼ満席のうえ、短い区間で次々と乗客が入れ替わり、落ち着きません。自由席の方が圧倒的におすすめです。

停車時間に駅弁を選ぶ楽しみがある

「こだま」タイプの魅力、ふたつ目は、多くの駅で長時間停車することです。これが最大の魅力といっても過言ではありません。「こだま」タイプは、「のぞみ」や「みずほ」などの速達タイプに追い抜かれるため、多くの駅で長時間停車します。この停車時間を利用して、ホームを散策したり、売店で駅弁や飲み物を買ったりできるのです。


プラスチック製のおろし金が付いている三島駅の駅弁「港あじ鮨」(2016年1月、栗原 景撮影)。

 国鉄時代、まだ複線区間が珍しかったころには、多くの列車が行き違いなどのため主要駅で長時間停車しました。ホームには駅弁の立ち売りが出て、乗客は買い物を楽しんだり、柔軟体操をしたりして気分を変えたものです。しかし複線区間が増えて長時間停車が減ったいまは、そんなことができる列車は珍しくなりました。「こだま」タイプの列車には、その楽しみが残っています。

 東海道新幹線の場合、基本的に「こだま」は小田原、三島、新富士、静岡(名古屋発着便のみ)、浜松、豊橋、三河安城の各駅で3〜6分停車します。伊豆天城産の茎わさびを自らすり下ろして食べられる三島駅(静岡県三島市)の「港あじ鮨」(1000円)や、三ヶ日牛とうなぎを一度に味わえる浜松駅の「三ヶ日牛ごぼうしぐれ&プチうなぎ弁当」(1240円)など、各駅でその土地ならではの駅弁を購入できるのです。グループ旅行なら、5分停車するごとにひとつずつ駅弁を買い求め、一斉に包みを開いて食べ比べてみてはいかがでしょう。目玉になっている魚が1匹しか入っていないこともありますが、そこは譲り合いで解決します。

極端な長時間停車がある山陽新幹線

 さて、停車時間が長い「こだま」は、東海道新幹線だけではありません。山陽新幹線には、もっと“浮世離れ”した「こだま」が走っています。

 たとえば、博多11時05分発の新大阪行き「こだま740号」。この列車、新下関で14分、広島で10分、福山で6分と長時間停車を重ね、岡山ではなんと26分も停車。売店で買い物どころか、改札内にあるカフェで食事をすることすらできます。さらに西明石でも17分停車し、新大阪到着は16時13分。博多〜新大阪間553.7km(実キロ)を5時間08分もかけて走破する、なんともスローな新幹線なのです。


山陽新幹線500系「こだま」の6号車は元グリーン車の座席をそのまま使っている(2016年4月、栗原 景撮影)。

山陽新幹線も、主要駅は改札内に駅弁売り場がある。写真は福山駅(2016年4月、栗原 景撮影)。

姫路駅の新幹線上りホームには姫路城のビュースポットがある(2016年4月、栗原 景撮影)。

 なお、この「こだま740号」には、日本で初めて300km/h運転を実現した500系電車が使用されています。現在は「こだま」専用となって300km/hを出すことはありませんが、6号車はかつてのグリーン車が普通車指定席として設定されています。元グリーン車のゆったりしたシートに座り、ときには車窓風景を眺めたり、ときには各地の駅弁を食べ比べたりといった旅はいかがでしょう。長時間停車する駅のうち、広島、福山、岡山、姫路の各駅では、改札内で駅弁を購入できます。

 駅弁の購入だけでなく、停車時間中にホームを散策できるのも「こだま」タイプの利点です。たとえば東海道新幹線なら、新富士駅の上りホーム先端部からは富士山がよく見えます。掛川駅や姫路駅のホームからは、それぞれ掛川城、姫路城が一望でき、下車しなくても美しい天守を鑑賞できるのです。

「こだま」ならではのおトクな商品

「こだま」タイプ、3つ目の魅力は、特別に安いきっぷや旅行商品が用意されていること。東海道新幹線なら、JR東海ツアーズの「ぷらっとこだま」が有名です。これは、「こだま」の指定席またはグリーン車限定の旅行商品で、東京〜新大阪間でグリーン車を利用すると通常1万8920円かかるところ、売店で使えるドリンククーポンが付いて1万2000円と格安。年末年始など繁忙期も値段は1万3500円とやや高くなりますが、使えます。

 これとよく似た商品が、インターネット予約サービス「エクスプレス予約」の会員が利用できる「EXこだまグリーン早特」。これはグリーン車専用で、東京〜新大阪間が1万1200円。乗車3日前まで予約が可能で、通常の「のぞみ」にも変更が可能です。

 山陽新幹線にも、JTBが販売している「新幹線バリューパック」があり、新大阪〜博多間の普通車指定席が通常1万5000円のところ、片道6900円から利用できます(座席のリクエストはできません)。

 東京〜新大阪間は3時間54分ほどで、「のぞみ」より1時間以上長くかかる「こだま」ですが、1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業したときの「ひかり」(4時間)よりも速いのです。それほど急いでいない旅なら、たまには「こだま」を利用して、のんびりとした「昭和の汽車旅」を楽しんでみてはいかがでしょうか。もう少し短い時間で楽しめる東京〜名古屋間(およそ2時間50分)もおすすめです。