COP24カトヴィツェが示唆する次代の企業人へのヒント・後編
「人類史上もっとも各国が協力して築き上げた条約」と言われるパリ協定。SDGsと同様、世界の共通言語となっていることを示唆するCOP24の実態ついて、前編でお伝えした。閣僚級交渉の結果ばかりが”ニュース”と、日本の視聴者には映っているかもしれないが、COP24のニュースはそればかりではない。今回は後半週に設けられたSDGsとのリンケージ、SDGsとのシナジーを意識した動きに着目した。
「気候変動+α」がユース世代のCOP参画を促す
気候変動問題とSDGs目標とのインテグレート(融合)、その傾向を初めて見ることが出来たのは、8日に開催された「Oceans Action Day」だ。 COP23でも開催された政策提言のためのイベントで、日本からは笹川平和財団海洋政策研究所がCOP21から主催している。「海洋・海岸」に影響を及ぼす課題、今後の具体的な行動について、ハイレベルな閣僚、識者らによるダイアログやセレモニーがあった。
COP24でサイドイベントを企画し、学生達を10人派遣した米国エモリー大学教授の斉川英里氏は「『海洋と気候に関わるサイエンス』というテーマ設定が、環境や科学を専門とする学生の関心を惹いた」と話した。彼女の生徒の1人で「Oceans Action Day」に参加していた学生は、エモリー大学で環境科学・化学の二分野を専攻をしている。COP23で立ち上げられた「Ocean Pathway Program」をきっかけに、自分も議論の一端となりたいとCOP24へ参加を希望したという。
アカデミアの視点で捉えた気候変動問題は「海洋・海岸」への影響だけをとっても、一般的に想像しうる異常気象や海面上昇だけではない。海洋の酸性化が及ぼすサンゴ礁への影響や、水温の上昇・酸素の減少による魚類への悪影響など、切り口は多岐に渡る。斉川氏自身は大気汚染を専門に研究しているが、気候変動とその周辺の問題を多様な切り口で伝える情報発信ページ「Climate Talks」をエモリー大学に設けている。学生たちにビデオやpodcastを使った発信を促すことで、分野外からの興味喚起につなげるコミュニケーションの重要性も強調した。
「気候変動+α」で一致団結するCOPの“○○Day”
2週目以降、SDGsの各目標に紐づくアクションイベントやラウンドテーブル(円卓会議)の開催が急速に増えた。 11日に開催された「Gender Day」では、UN Womenの女性リーダーを始め、 UNFCCCのテクノロジー組織Connecting Countries to Climate Technology Solutions(CTCN)、UNFCCCのステークホルダー・グループWomen and Gender Constituency(WGC)といったサポート組織や、各国で活躍する女性活動家や個人が集まり、気候変動政策にジェンダーの観点を導入する重要性について、学び合いや意見交換をした。
気候変動とジェンダー。そのリンケージにすぐにはピンと来ないかもしれないが、COP24では気候変動で影響を受けやすい地域(主に途上国)で日々の暮らしが困難となっている女性にとって必要な「テクノロジー」という具体的な切り口が提案された。TNAs(Technology Needs Assessments)アクションプランガイドブックを読むと、導入にあたって必要な各ステップごとに、技術移転、キャパシティー・ビルディング、資金調達など課題は多い。
またSDGsの目標5「ジェンダー平等」と目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に貢献するという狙いも明記されている。
女性の権利やジェンダーへの寛容性を導入する試みや、女性の声をUNFCCCの気候変動対策プロセスへ届ける取り組みは、各団体・組織で草の根的に進んでおり、次のCOPでさらに政策レベルへ、メインストリームへ持ち込まれるだろう。イベント会場には主催団体以外のコントリビューターの活躍も多い。会場で伝わる女性参加者たちの熱気から、アクションステップ0は、こうしたイベント開催などによる「気候変動+α」へのawareness(意識啓発)であると感じられた。
「#」でデジタル時代の”COPコミットメント”増幅
イベントにおいて近年、ますます重要な役割を担っているのが、場外にもメッセージを拡散出来るSNSを介したコミュニケーション。参加者以外にも情報を拡散できるのがハッシュタグの役割だ。COP24開催期間、展開されたハッシュタグは「#COP24」ばかりではない。前出の「Gender Day」のように、COP開催前から主催団体が告知していたハッシュタグも見られたが、SDGs関連では、開催に合わせて目立ったハッシュタグがいくつか存在していた。
その一つ「#TakeYourSeat」は、COP24開催前からUNFCCCが「ソーシャルメディアを通じてピープルズ・シート(一般席)から参加しよう」と英国のサー・デイヴィッド・アッテンボロー出演動画により、COP24の気候変動の議論へ参画を促したハッシュタグだ。また、会場内の撮影ブースで目を引いたのが「#SPREADYOURGOALS2030」。これは国連、UNDPを主体として「SDGs アクション・キャンペーン」の一環で展開され、広がる羽の前で撮影し、個人が2030年に向けて想いを発信するもの。ハッシュタグを介して世界各地で撮影された写真を見る事でキャンペーンで広がりが読み取れるが、COP24会場のブースでも撮影は盛り上がり、自国のメディアで放送する番組撮影まで行うクルーの姿も見られた。
このキャンペーンからは2019年5月、ボンで開催が予定される大規模なSDGs啓発イベント「#SDGglobalFest」やSDGsアクション・アワードへの情報導線も図られており、さらなるグローバルな行動化が期待出来そうだ。
様々なハッシュタグの存在に困惑する人もいるかもしれないが、まずはそのどれかを使ってSNSに発信してみることで、グローバルな行動の一端を担うことが出来ると言えるだろう。
目標13の「行動」は業界全体の参画を促すドライブ
COP24では各日、SDGsの目標それぞれをテーマに設定したアクションイベントやラウンドテーブル(円卓会議)が開催され、目標8「働きがいも経済成長も」(10日)、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」(11日) そして目標12「使う責任・つくる責任」(8日)について議論されていた。また閉幕前日の「Education Day」(13日)は、UNFCCCの中でも特に教育、若者世代(ユース)のエンパワメントに力を入れるACE(Action for Climate Empowerment)チームが主催となり、ハイレベルなアクションイベントが行われた。「Climate Education」は日本に馴染みがないが、教育でパリ協定、SDGsの双方を加速化させるというテーマ設定だ。
今回のCOP24を振り返り、気候変動とSDGsの関連が強調されたことや「リンケージ」「シナジー」といったキーワードが会議場で頻繁に発言されていたことから、パリ協定とSDGs、それぞれ採択から3年で、各国の共通課題認識をつくりだした初めてのCOPだったと言えるのではないだろうか。
「気候変動に具体的な対策を」という目標13に対し、企業人がコミットしにくい課題は、SDGsの17個の目標の一つに落とし込むと、ある業界や業種だけに特有のものと映ることかもしれないが「気候変動と諸問題はインテグレートする」という COP24で示唆されたヒントで、業界全体の課題と捉えやすくなった。
SDGsが世界の共通言語であるように「パリ協定」や「Climate Action」も、次代の企業人が行動を起こすための共通言語として生き残るだろう。キーワードが移ろいやすいトレンドとなりがちな日本国内では、”持続可能な”ものになることを望みたい。また目標13のマークを改めて見直すと、目標の言葉そのものに「行動」が込められており、「気候変動問題は、行動しなければ始まらない」というヒントを与えている。
「Climate Action」という言葉に現れる「行動」や、「Changing Together」というCOP24のスローガンは、新しい参加者からのコミットメントを促す提言だ。企業としては気候変動対策に着手出来ていないと悩む企業人も、まずは何らか「行動」することで「目標13」へのアプローチが始められるというヒントを提案し、締めくくりたい。
腰塚 安菜(こしづか あんな)
1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学期から商品の社会性に注目し、環境配慮型ライフスタイルを発信。(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会主催「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員(2013~2018)。社会人ユースESDレポーター(平成28年度・平成29年度)として関東地区を中心に取材。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)所属員。主な取材フィールド:環境・社会、教育、文化多様性
気候変動問題とSDGs目標とのインテグレート(融合)、その傾向を初めて見ることが出来たのは、8日に開催された「Oceans Action Day」だ。 COP23でも開催された政策提言のためのイベントで、日本からは笹川平和財団海洋政策研究所がCOP21から主催している。「海洋・海岸」に影響を及ぼす課題、今後の具体的な行動について、ハイレベルな閣僚、識者らによるダイアログやセレモニーがあった。
COP24でサイドイベントを企画し、学生達を10人派遣した米国エモリー大学教授の斉川英里氏は「『海洋と気候に関わるサイエンス』というテーマ設定が、環境や科学を専門とする学生の関心を惹いた」と話した。彼女の生徒の1人で「Oceans Action Day」に参加していた学生は、エモリー大学で環境科学・化学の二分野を専攻をしている。COP23で立ち上げられた「Ocean Pathway Program」をきっかけに、自分も議論の一端となりたいとCOP24へ参加を希望したという。
アカデミアの視点で捉えた気候変動問題は「海洋・海岸」への影響だけをとっても、一般的に想像しうる異常気象や海面上昇だけではない。海洋の酸性化が及ぼすサンゴ礁への影響や、水温の上昇・酸素の減少による魚類への悪影響など、切り口は多岐に渡る。斉川氏自身は大気汚染を専門に研究しているが、気候変動とその周辺の問題を多様な切り口で伝える情報発信ページ「Climate Talks」をエモリー大学に設けている。学生たちにビデオやpodcastを使った発信を促すことで、分野外からの興味喚起につなげるコミュニケーションの重要性も強調した。
「気候変動+α」で一致団結するCOPの“○○Day”
2週目以降、SDGsの各目標に紐づくアクションイベントやラウンドテーブル(円卓会議)の開催が急速に増えた。 11日に開催された「Gender Day」では、UN Womenの女性リーダーを始め、 UNFCCCのテクノロジー組織Connecting Countries to Climate Technology Solutions(CTCN)、UNFCCCのステークホルダー・グループWomen and Gender Constituency(WGC)といったサポート組織や、各国で活躍する女性活動家や個人が集まり、気候変動政策にジェンダーの観点を導入する重要性について、学び合いや意見交換をした。
気候変動とジェンダー。そのリンケージにすぐにはピンと来ないかもしれないが、COP24では気候変動で影響を受けやすい地域(主に途上国)で日々の暮らしが困難となっている女性にとって必要な「テクノロジー」という具体的な切り口が提案された。TNAs(Technology Needs Assessments)アクションプランガイドブックを読むと、導入にあたって必要な各ステップごとに、技術移転、キャパシティー・ビルディング、資金調達など課題は多い。
またSDGsの目標5「ジェンダー平等」と目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成に貢献するという狙いも明記されている。
女性の権利やジェンダーへの寛容性を導入する試みや、女性の声をUNFCCCの気候変動対策プロセスへ届ける取り組みは、各団体・組織で草の根的に進んでおり、次のCOPでさらに政策レベルへ、メインストリームへ持ち込まれるだろう。イベント会場には主催団体以外のコントリビューターの活躍も多い。会場で伝わる女性参加者たちの熱気から、アクションステップ0は、こうしたイベント開催などによる「気候変動+α」へのawareness(意識啓発)であると感じられた。
「#」でデジタル時代の”COPコミットメント”増幅
イベントにおいて近年、ますます重要な役割を担っているのが、場外にもメッセージを拡散出来るSNSを介したコミュニケーション。参加者以外にも情報を拡散できるのがハッシュタグの役割だ。COP24開催期間、展開されたハッシュタグは「#COP24」ばかりではない。前出の「Gender Day」のように、COP開催前から主催団体が告知していたハッシュタグも見られたが、SDGs関連では、開催に合わせて目立ったハッシュタグがいくつか存在していた。
その一つ「#TakeYourSeat」は、COP24開催前からUNFCCCが「ソーシャルメディアを通じてピープルズ・シート(一般席)から参加しよう」と英国のサー・デイヴィッド・アッテンボロー出演動画により、COP24の気候変動の議論へ参画を促したハッシュタグだ。また、会場内の撮影ブースで目を引いたのが「#SPREADYOURGOALS2030」。これは国連、UNDPを主体として「SDGs アクション・キャンペーン」の一環で展開され、広がる羽の前で撮影し、個人が2030年に向けて想いを発信するもの。ハッシュタグを介して世界各地で撮影された写真を見る事でキャンペーンで広がりが読み取れるが、COP24会場のブースでも撮影は盛り上がり、自国のメディアで放送する番組撮影まで行うクルーの姿も見られた。
このキャンペーンからは2019年5月、ボンで開催が予定される大規模なSDGs啓発イベント「#SDGglobalFest」やSDGsアクション・アワードへの情報導線も図られており、さらなるグローバルな行動化が期待出来そうだ。
様々なハッシュタグの存在に困惑する人もいるかもしれないが、まずはそのどれかを使ってSNSに発信してみることで、グローバルな行動の一端を担うことが出来ると言えるだろう。
目標13の「行動」は業界全体の参画を促すドライブ
COP24では各日、SDGsの目標それぞれをテーマに設定したアクションイベントやラウンドテーブル(円卓会議)が開催され、目標8「働きがいも経済成長も」(10日)、目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」(11日) そして目標12「使う責任・つくる責任」(8日)について議論されていた。また閉幕前日の「Education Day」(13日)は、UNFCCCの中でも特に教育、若者世代(ユース)のエンパワメントに力を入れるACE(Action for Climate Empowerment)チームが主催となり、ハイレベルなアクションイベントが行われた。「Climate Education」は日本に馴染みがないが、教育でパリ協定、SDGsの双方を加速化させるというテーマ設定だ。
今回のCOP24を振り返り、気候変動とSDGsの関連が強調されたことや「リンケージ」「シナジー」といったキーワードが会議場で頻繁に発言されていたことから、パリ協定とSDGs、それぞれ採択から3年で、各国の共通課題認識をつくりだした初めてのCOPだったと言えるのではないだろうか。
「気候変動に具体的な対策を」という目標13に対し、企業人がコミットしにくい課題は、SDGsの17個の目標の一つに落とし込むと、ある業界や業種だけに特有のものと映ることかもしれないが「気候変動と諸問題はインテグレートする」という COP24で示唆されたヒントで、業界全体の課題と捉えやすくなった。
SDGsが世界の共通言語であるように「パリ協定」や「Climate Action」も、次代の企業人が行動を起こすための共通言語として生き残るだろう。キーワードが移ろいやすいトレンドとなりがちな日本国内では、”持続可能な”ものになることを望みたい。また目標13のマークを改めて見直すと、目標の言葉そのものに「行動」が込められており、「気候変動問題は、行動しなければ始まらない」というヒントを与えている。
「Climate Action」という言葉に現れる「行動」や、「Changing Together」というCOP24のスローガンは、新しい参加者からのコミットメントを促す提言だ。企業としては気候変動対策に着手出来ていないと悩む企業人も、まずは何らか「行動」することで「目標13」へのアプローチが始められるというヒントを提案し、締めくくりたい。
腰塚 安菜(こしづか あんな)
1990年生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。在学期から商品の社会性に注目し、環境配慮型ライフスタイルを発信。(一社)ソーシャルプロダクツ普及推進協会主催「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員(2013~2018)。社会人ユースESDレポーター(平成28年度・平成29年度)として関東地区を中心に取材。日本環境ジャーナリストの会(JFEJ)所属員。主な取材フィールド:環境・社会、教育、文化多様性