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平成の大横綱は去り、平成の小横綱はのこった!

4240円ものロスを受け入れて観に行った大相撲九月場所千秋楽。場所の序盤は軒並み好調な上位陣の成績を眺めながら、これは千秋楽で大一番が待っているなと思ったものですが、結局のところは白鵬ひとり勝ちで千秋楽を待たずに優勝が決まるというどっちらけ。チケット代ぶんは楽しみましたが4240円を取り戻した感覚はありませんでした。普通の場所でした。

それでもいい報せもありました。平成の小横綱・稀勢の里が、1横綱1大関を破る(※好調の大関・高安にも負けなかったという事実)という快挙を含む二桁白星をあげ横綱として踏みとどまることに成功したのです。しばらく休んでいた影響もあって、悪癖の腰高は一層目立ち、まわしもロクに取れず、とにかく腹で押していくという苦しい相撲ぶり。ただ、何とか格好はつけた。千秋楽に稀勢の里を見られたのは8場所ぶりのこと。「パンダがいただけマシ」という気持ちで、感謝の千秋楽となりました。

↓豪栄道にスッテンコロリン無様に転がされるところを見せられることにはなったが…!

ヒゲのおじさんは天を仰ぎ、女性客は目を覆う!

魁皇はつまんなそうな顔でダンマリ!

↓土俵入りは立派だったのでヨシとするか…!

小横綱の仕事は土俵入りだもんな!

相撲で盛り上げるのは白鵬先生におまかせだ!



当日は好天に恵まれ、絶好のお出掛け日和です。国技館前につくと観光客を含めて多くの人出。風になびくのぼりも鮮やかで、気持ちも弾みます。「優勝争いは決まってしまったな…」「白鵬VS鶴竜はどうせドーンと強く当たったあと、一瞬鶴竜が押し込んで見せ場を作り、そのあとこらえた白鵬が土俵中央に戻して拍手喝采となり、投げの打ち合いなどをひとしきり見せたあと鶴竜が自分から負けるんだろうなぁ」「まぁいいやそれでも!」と気分もアゲアゲです。

そんな僕を入口で嬉しい誤算が待っていました。親方衆がチケットのもぎりをすることで知られる国技館の入場口で、この日はなんと人気の錣山親方…寺尾がチケットをもぎっていたのです。ふたつある入場口の寺尾のほうにだけできる行列は長く、ひとりずつが写真撮影や握手をおねだりしています。僕もウキウキで「錣山部屋のカレーちゃんこ、全然ちゃんこじゃないけど美味しかったです!」などと声を掛けながら握手をしてもらいます。

本当は「どうして貴乃花を見捨てたんですか?」と聞きたかったのですが、向こうも困るだけだと思ったのでやめました。今ならば追加で「時津風一門を飛び出して貴乃花一門に接近したのに、結局外様の一兵卒として二所ノ関一門に加わる今のお気持ちは?」とも聞きたいところですが、怒られそうなのでやめましょう。不憫に思いつつ、同時に恨み節も漏れる。そんな複雑な気持ちです。寺尾の手はとても柔らかくてあったかかったです。対応は丁寧で、変わらずカッコよかったです。

↓「お前、もぎりから出直しな」とか言われてる姿を想うと辛くなるので、何も考えずに喜ぶのが吉!


わーい、寺尾だ!

寺尾がチケットもぎってくれたぞ!

わーい、わーい!

入場後は場内散策の時間となりますが、僕は最近の相撲協会は「サボっているな」と感じています。新しい来場者お楽しみ企画はトンと出てこず、正面のホールはガランとしています。場内の売店の設営は場所ごとに遅くなり、錦絵屋と本屋と協会グッズ売店は昼になってようやく動き出したほど。新グッズはとぼしく、殿様商売が復活したかのようなやる気のなさです。

ツイッターかインスタで協会公式アカウントをフォローすると撮影ブースで特製の相撲写真カードを作ってもらえるというお楽しみ企画も、ほとんど五月場所の使い回し。「御嶽海フレームが追加されました!」というお知らせにもマイナーアップデート感は否めません。

並んでいる爺様と婆様に「スマートフォンというのはですね…」から説明を始め、「QRコードを読み取るアプリを立ち上げていただいてですね…」という絶望的なところまで奮闘をつづけている係員も不憫なので、もう少し違うことを考えてもいいかもしれませんね。何かあったとき、覚えたてのSNSで爺様と婆様が「協会は腐っている!」などとクソリプ送ってきても、それはそれで面倒でしょうし。

↓これこそ無人のプリクラ機でいいんじゃないかという気もする!


↓場内の本屋に貼ってあった「語ったらアカン」ことが書いてありそうな本のポスター!


↓公式キャラ・ひよの山の売店で売ってあった謎の新ガチャ!


↓千代丸が当たりました!


↓どうやらこの黄色い化け物のクチのなかに力士を突っ込んで遊ぶものらしいが…!


めっちゃ使いづらいwww

買っといて言うのもアレだけどいらんわコレwww



場内散策を終えるとお昼ごはんの時間。ちゃんこ・焼き鳥・寿司・ソフトクリームという定番のコースをめぐり、お腹を膨らませます。グルメのほうも安定感はあるものの、新たな挑戦というのは見られなくなってきました。どんなに美味しいものでも何度も食べれば飽きるわけで、常に新メニューを求めたいのが人情ですが、しばらくはこのままでいいやモードなんですかね。

↓今場所のちゃんこは高砂部屋の鳥塩炊きでした!


↓だんだん行列ができ始め、予約を入れないと席が取れなくなってきている寿司処雷電で、ちょっとだけ寿司をつまみます!

寿司屋もっと拡大してもいいと思うわ!

ちゃんこのあとの腹固めに最適!

食後に一服する相撲仲間とともに屋外通路で入り待ちをすれば、続々と入ってくる幕内力士たち。郷土出身力士の錦木に声援を送ってみたりして過ごします。そんななか、あの日の騒動から黙したままフェードアウトすることに無事成功した石浦は、貴乃花が着ていたら絶対につるし上げられるような浴衣で登場してまいりまして…

↓「HARDMAN FI DEAD」の浴衣で颯爽と支度部屋へ向かう石浦!

不死身の男ってか!

デンモクで殴ろうが、ビール瓶で殴ろうが、死なない宣言だな!

そして、場内で取組を見守る時間。何気ない場面がまさか最後のお別れの時間になろうとは、そのときはまだ思っていませんでした。「最近の理事会で全部の部屋がどこかの一門に所属しないといけないということを決めたんだけど、現在どこの一門にも所属していない貴乃花部屋は、内閣府に出した告発状が事実無根だと認めなければどこの一門にも入れてやらないから」ということだと貴乃花親方が認識した有形無形の圧力が、平成の大横綱に「千秋楽」を迎えさせていたなんて。

貴乃花親方は日馬富士デンモク殴打事件以降の一連の騒動を受け、「一兵卒」として弟子の育成と審判業務にあたってきました。弟子たちは好調で、貴景勝は小結の地位で9勝6敗という好成績をあげ、返り入幕の貴ノ岩も石浦をぶっ飛ばすなど10勝5敗の二桁勝利を記録しました。今は雌伏のとき、弟子を大きく育てれば体操の塚原夫妻のようにきっと再起の芽もあるはずだ。そう思って、貴乃花親方と弟子を見守っていたというのに。

貴乃花が退職届(引退届)を出すのは今回が初めてということではありません。大相撲野球賭博問題の際にも貴闘力・琴光喜の処分をめぐって協会と対立し、退職届を提出したことがあります。その際は理事長ら関係者から慰留され翻意しましたが、今度は慰留されないでしょうし、本人ももう戻る気はないでしょう。

平成の大横綱が望まぬ形で角界を離れるというのは角界にとって損失以外の何物でもありません。協会側もまさか退職とまで言い出すとは思わなかったのかもしれませんが、貴乃花ならばさもありなん。貴乃花の性格を知りながら、こうした事態に至らしめたことについて、僕はやはり周囲を責めずにはいられません。有象無象の親方の代わりはいくらでも出てくるでしょうが、平成の大横綱・貴乃花はひとりしかいないのですから。

貴乃花は神輿です。金色の神輿です。角界の宝です。扱いづらい神輿であることは否定しませんが、神輿が壊れるのは担ぎ方が悪いからです。神輿に向かって「ちゃんと肩に乗れ」などと文句を言うでしょうか。担ぎ方を工夫したり、担ぎ手を増やしたりして何とかするものでしょう。たったひとつの宝をぞんざいな扱いでぶっ壊したこと、いずれ悔やむときがくるでしょう。

↓最後の日の貴乃花親方は淡々と審判業務に従事!



↓白鵬の土俵入りのさなか、遠くを見つめる静かな目!


「第三者委員会ってどこにあるんだろうなぁ…」と探している目だったかもしれない!

あるいは普通にボーッとしていただけかもしれない!



貴乃花という人物は不思議とどこからも絶縁していくような、人の縁のなさを持っています。本人の資質に問題があるのでしょう。真っ直ぐで、不可解で、付き合いづらさしかない人物だろうとは思います。ただ、それを飲み込むだけの価値があったことも確かです。「貴乃花」なんですから。返す返すも、北の湖元理事長と元音羽山親方(貴ノ浪)の早逝が惜しまれます。貴乃花という異界の人を尊重し、現実とつなぎとめてくれた稀少な人たちは、あまりにも早くこの世を去ってしまった。担ぎ手がいない神輿はうとまれるだけなのです。

今となっては貴乃花の相撲道を受け継ぐ若者がひとりでも増えるよう願って、全国をめぐって相撲教室でもするよりありません。土俵を作り、子どもたちを集め、稽古をつける。その数がどれくらいになったら浮かぶ瀬があるのかはわかりませんが、ほかにすることもないのです。元弟子たちの未来を見守り、少年少女たちを見守り、気が向いたら裁判でも仕掛けてみる。そんな時間のなかで、有形無形の貴乃花一門と呼べる勢力が生まれたなら、神輿が望んだ相撲の未来というのも体現されるかもしれません。

その未来がどんなものかわからないので、体現されたかどうかは永遠にわからないわけですが…。




「貴乃花」を破損紛失した責任、誰かが顛末書くらい書くべきでは?